見送りの挨拶
《こぽこぽ……》
……おぉ、意識を取り戻されましたかな?
ハハ、楽しんで頂けたご様子ですかな?
そうであれば、館の主人としては幸いに御座います。
悪魔に精を放つというのは、人に出すのとはまた意味合いが違いましてな。
魂の力の一部を譲り渡す……まぁ簡単に言えば、人のそれよりも疲労し易いので御座いますよ。
気付けまでに如何です、コーヒーでも一杯?
ハハ、恥ずかしながら私はこれに目が無いものでして……私のような朝日を知らぬ者でも、目が覚める、という思いを知る事が出来るような気がしましてな?
ハハハ。
《こぽこぽ……ずずっ》
……入る前も説明しましたが……モーショボーは、モンゴルの悪魔。
愛を知らず死んだ娘が、悪霊として成り代わり。
男を誘惑し、油断したその男の頭を口を鳥の嘴に変じて脳を啜るという悪魔に御座います。
本来はとてもお客人にオススメ出来る悪魔ではないのですが、……あの娘は人一倍愛に飢えて死んだのやもしれませんな。
本来の気質からは大分離れた願いを持って、モーショボーと成り……それ故に、この館に訪れたのやもしれませぬ。
愛を知らぬからこそ、愛を玩具(がんぐ)が如く遊び道具とするか。
狂おしいまでにそれを求めるのか……根本を探れば、案外と同じものに辿り着くのやもしれませんな。
……ハハ、こればかりは詮索しても己自身しか……いや人であれ悪魔であれ。
己自身でも、正しくは分からないことなのやもしれません。
さて、つまらぬ話をしてしまいました。
どうやら目覚めの時間が近づいているようで御座います。
どうぞ、入って来た扉よりお戻り下さい。
まっすぐ進めばそのまま起きる事が出来るはずで御座います。
もしまた、夢でこの館にご来店された際には改めて持て成させて頂ければと思います。
人であれ、悪魔であれ……良き憩いと活力の場を是非設けさせて頂きます。
それでは、お客人……どうか良き目覚めを。
そして、現実と夢に惑われた時は……またのご来店心よりお待ちしております。
《ぎぃぃぃぃ……ぱたんっ》