シルヴィアの告白と、本当の家族との本当の離別
【シルヴィア】
ねぇ、まだ怒ってるの…?
ずっと拗ねてるの、かわいくないわよ~?
【ロアーヌ】
…別に、拗ねてないです…
ただ、家族になるとか言っておいて、やってることがめちゃくちゃだから…
こんなの、家族でもなんでもない……
ボクが知ってるのは、こんなんじゃ……
【シルヴィア】
…それもそうね…でも、これが一番良い形だと思ったのよ…
キミが受ける傷から、心を守ってあげるのにはね…
【ロアーヌ】
…? それって、どういう…?
【シルヴィア】
…ロアーヌ…キミはね、捨てられたのよ…本当の親に…
【ロアーヌ】
――え? そんなこと、あるわけないでしょう?
お父さんとお母さんが、ボクを捨てるなんて…っ
【シルヴィア】
…あの奴隷市場に連れてこられる子ってね…
奴隷商人が貧しい家の子を買い取って集めていたの…
攫ってくるのではなく、親を説得し、お金を渡して了承を得る…
親はお金が手に入る上に食い扶持が減るから…
結構手放すところもあるみたい…特に、内乱で疲弊してるようなところだと…
【ロアーヌ】
……うそ……うそ、でしょ?
ボクが……ボクがお父さんとお母さんから、捨てられるはずが、ない……
だって、イイ子にしてたよ…?
家事の手伝いもしてたし、言うこともちゃんと聞いてた…
なのになんで…?
そんなの……っ……信じられるわけがないよ……っ!
【シルヴィア】
…そうね…じゃあ信じてみればいい
本当にキミのことが大事なら、何年かかっても探し出し、連れ戻しにくるはず…
でも断言できるわ…キミにご両親からの迎えはこない…
どんなに待っても、どんなに願ってももう…会えないのよ…
【ロアーヌ】
……そんな……じゃあ……ボクはこれから、どうやって生きれば……いいの……?
【シルヴィア】
安心しなさい……私たちがずっとロアーヌを愛し、守っていってあげるから……
【ロアーヌ】
そんなの……そんなの、信じられないっ!
どうしてボクなの? エッチなことするし…なんか、おかしいよっ!
【シルヴィア】
理由は、あるわ……ねぇ、母乳ってね、どうやってできるか、知ってる?
【ロアーヌ】
え……? えっと……あの……わかんない、です……
【シルヴィア】
母乳はね、お母さんになったら自然と出てくるものなの…
お母さんになるっていうのは、子供を産むってこと…
でもこの家には、子供なんていないでしょ?
――産みたかったけど、産めなかったの……
そして、もう二度と…愛した人との間に、子を宿すことはできないの……
【ロアーヌ】
えっと……どうして、ですか……?
【シルヴィア】
流産っていってね……お腹に赤ちゃんは宿ったんだけど、産まれてくることができなかった……
そして、赤ちゃんを迎え入れる準備を始めていた私の身体には、母乳だけが残って……
与えるべきものを、与えるはずの相手に与えられずに……
ずっと身体の中に溜め込んだまま、枯れることも許されなくて……
寂しかった……あの人に吸ってもらっても、後から後から溢れてきて……
なくなってくれないの……まだ、赤ちゃんを待ってるみたいに……
そんな私の様子を見かねて、あの人が奴隷市場に誘ってくれた……
本当はそんな場所、見たくもなかったけど……
ロアーヌを見て思った……まるで、自分の子供はすでに産まれていて……
実は誰かが、育ててくれていたんじゃないかって……
まぁ実際に産まれていたら、もっともっと小さい赤ん坊のはずなんだけどね、ふふっ
嬉しかったの……キミなら、私の母乳を吸い尽くして、私を救ってくれるんじゃないかって……
…どうかな…?
こんな理由じゃ、納得…できないかしら?
【ロアーヌ】
…ううん…なんかわかんないけど、伝わってきた…
でもだからって、なんでそれ以外の、その…ヘンなことも、たくさん…
【シルヴィア】
だって…いくら口で『愛してる』とか『家族』とかいっても、簡単には信じられないでしょ?
身体の触れ合いは、心を一番近くで通わせることができる…
本当の家族じゃないからできるってこともあるから…
肌のぬくもりで、唾液のやわらかさで、相手を包み込んで…
心のキズを癒しあって、守りあう…それが私たちの望む『家族』よ
生きていくっていうのは簡単なことじゃないわ…
もうキミは、十二分にその意味を理解し始めていると思うけれど…
キミのことは、私たちで守ってみせる…
だからロアーヌからも、私たちを守ってほしいの…
【ロアーヌ】
……あの……本当に、ボクなんかで、いいん…ですか…?
【シルヴィア】
ロアーヌじゃないとダメ……もう手放したくないもの、キミのぬくもりを……
【ロアーヌ】
……じゃあ、がんばって、みます……
まだよくわかんないけど……努力は、してみます……
【シルヴィア】
うん、それでいいわ……ありがとう……
疲れたでしょう、このまま眠っちゃってもいいわよ……
パパが帰ってきたら、三人で……
素敵な家族の時間を共有しましょうね……
【ロアーヌ】
うん……おやすみなさい……マ、マ………
すーっ………すーっ……………すーっ………すーっ…………
【シルヴィア】
おやすみなさい、ロアーヌ……私の大事な、息子……