Track 0
あら……こんな山奥に、珍しい。
もしかして、旅の途中ですか?
宿をお探しで。まあ、そうでしたか、道に迷ってしまったと……。
ええ、目的地はこの山の先にある、大きな街でしょう?
二股の道を間違えてしまったようですね。
最近は、街への道もだいぶ整備されて、ここに迷い込む旅人も減ったものですけれど、
ごくたまに、あなたのように迷い込んでしまう方もいらっしゃるんです。
もう夜も遅いことですし、よろしければ、私の宿へおいでになりませんか?
ふふっ……申し遅れました。
わたくし、この山奥でひっそりと宿を営んでおります、ヤコと申します。
さあ、こちらへ。夜は冷えますでしょう。
早く温まって、ゆっくりとお休みになって下さい。
このような山奥に……こんな集落があるなんて、驚かれましたか?
実は、ここは口伝えでしか知られていない、花街なんです。
街を追われた人たちが、ひとり、またひとりとここへ集まり……
そして、いつしか街になったんです。
ご覧のとおり、こんな山奥でしょう。
生きていくためには、こういう形での繁栄しか方法がなくて。
それでも、少しずつ評判を聞いた方がいらしてくださるようになったので、
今ではこのように華やかな街になったんです。
この街の噂、聞いたことはございませんか?まあ、そうですか。
この先の街へ行かれる方には、そこそこ名のしれた土地なんですよ。ふふっ。
まあ、もともとそういった目的の方にしか知られていない土地でしたし、
旅で迷いこんでしまったあなたにとっては、不思議な場所ですよね。
昔話が長くなってしまいましたね。
さあ、どうぞ。中へお入り下さい。
今夜は珍しく、お客様もあなただけですので、どうぞ自由におくつろぎ下さいませ。