Track 1

偽善

…誰? 私をここに閉じ込めた命知らずはお前なの? 殺されたい? 死にたいのね? どうやって殺されたいのかしら? …お前は何なの?これくらいで腰を抜かすなんて… そんなのでよく私をこんな狭い部屋に閉じ込めたわね? そんなに殺されたかったの? …は?自分じゃない?何言ってるの? この気高き悪魔の私をこんな部屋に封印して… シラを切るならお前の喉元を食いちぎってあげましょうか? …何震えてるのよ。怯えてブルブルして本当に情けない…まぁ、アンタみたいな見るからにヘ タレなのが私を封印なんてできるわけないものね? よく考えたらそうよ、バカみたい。…はぁ… もう行っていいわよ。目障りだから。しっし。 私今気が立ってるの。ちょろちょろしてると殺すわよ さっさと消えて。 …は?どうやって出るのかわからない…? 何それ、アンタホント何なの?アンタはただの人間でしょ? 何でこんなところに閉じ込められてるのよ。バカじゃないの は?何やってるのか、ですって?気安く話しかけないでくれるかしら。 私は悪魔なの。高尚な悪魔。アンタみたいな下等な人間が気安く話しかけていい相手じゃな いのよ ちっ…どこも結界だらけねー…コイツが入ってきたところも結界で通れなくなってるし… まったくどうなってるのよ… 魔力をほとんど抜かれちゃってるのが問題なのよね… ここをぶち壊すには結構な魔力がいりそうなのに…ああ、ほんと最悪… 魔力を溜める方法なんて、この状況じゃ大して… …あーあ、もう無理。考えるの面倒臭くなっちゃった。この結界じゃどうせ今の私の力で外 に出ることはできないし、何をやっても無駄ね。 ここで完全に魔力が無くなって消滅するのを待つしかないわ… …何よ。何こっち見てるの? …消滅って死ぬってことなのかって…? クスクス。全然違うわよ。全く別物よ。 人間の死は魂の器である体が機能を失うことでしょ。消滅は存在自体が消えるのよ。魂も、 体も、私に関わった者全ての記憶と記録が。生きていたことがなかったことになるの。 一緒にしないでよ。死ぬなんて…そんな甘っちょろいものと。 要は、この世界が私を用無しだと判断したんでしょ。だから私はここに閉じ込められた。 お前はここで消滅しろってことでしょうね。 私はもう、いらないってことよ。この世界にとって。 まぁ、構わないわ。好き勝手生きたけどつまらなかったもの。 何をやっても結局満足したことなんかなかった…。美味しいって言われるものを食べてみ ても、中々手に入れられないって言われてる物を奪っても、何も感じない。特段楽しいとも 幸せとも思わない。砂みたいに指の間からたださらさらと全部が零れていくみたいな…無 駄な時間だったわ、生きてる時間って。 …そんな寂しいコト言わないで欲しい? 何それ、これって寂しいことなの?何も感じないって… …ふーん。そう。寂しいことなの。 …ええ、でもそうね。寂しいかもしれないわね。ただ毎日をなんとなく過ごしているだけで、 とてもつまらなかったもの。 …誰も信用なんてできないからずっと気を張って、近づいてくる者は全て警戒して、必要な ら殺して…って、何でこんな話を人間なんかにしてるのかしら。バカみたい。 独り言よ、忘れて。 そっか…こういうのを人間は寂しいっていうのね。 つまらなくて何も楽しく感じなくて、何一つ信用できなくて、何も得られていない上に消滅 が迫っても怖いとも思わない…こんな一生。 ふーん…そっか、寂しい…そうね。そうかも… はぁ…最後の最後で人間に憐れまれるなんて、最悪…。 馬鹿みたい…でもそうね。寂しい悪魔よね、私。 誰も必要としなくて、誰にも必要とされなくて、最後にはこの世界にまで必要ないって見捨 てられて… …え?あんたが必要とするからそんなこと言わないでくれ…? …何言ってるの?言ったでしょ?私にはこの部屋から出られるだけの魔力がないの。 この結界は今ある魔力じゃ壊せない。だからあんたにとって必要でもなんでもないわよ。 …え?そういうことじゃない。 全く意味がわからないんだけど。 …もしかして、私を元気づけようとでもしてるわけ? …ぷっ…あは…あはははは…! 何それ…あんたどうかしてるんじゃないの?悪魔励まして何か得があるの?! …損得じゃない? ふーん、人間って変な生き物なのね。おもしろいじゃない。 損得関係なく相手を思いやるってヤツ?ふふふ、悪魔にはない概念ね。 ふーん、でも知ってるわ。それって『ギゼン(偽善)』ってやつでしょ? 相手を思いやってるふりをして、同情してるふりをして自己満足に浸ってるってだけの偽 善。そうしてる自分って優しい、カッコイイ、すごーい♡って。 …そんなんじゃないって?ふーん…クスクス。いいわ。信じてあげても。 退屈だし、魔力が本当に尽きて消滅するまでまだ時間があるもの…ただ消滅を待つだけは 退屈すぎるし…偽善ゴッコでもしましょうか。 ふふふ、ゴッコって言われてムッとしてるの? …なら偽善ゴッコじゃないって証明してみる?そういうの、私に信じさせてよ。 私は全く信じてないから。 アンタのその…私を思いやる?(笑)気持ちが偽善じゃない、自己満足じゃないって証明し て? 私の知ってる『人間』はそんなことできないのよ。ま、人間に限ったことじゃないけどね。 自分以外は信用できない…だって皆、目の前に利益があれば平気で裏切る。そうでしょ? 自己満足を得るために他人にどんなに素敵な言葉を発していても欲望には抗えないし命が 危うくなれば切り捨てる。私はこう信じているわ。 あんたはそうじゃないっていうのね?今私を元気づけようとしたのは偽善じゃなくて、本 当に心から私のことを想ってくれているっていうのね?今出会ったばかりの悪魔のことを。 へぇ~…ふ~ん… うんうん、おもしろい、面白いじゃない。この私が珍しく面白いなんて思ったわ♡ 時間潰しにはもってこいね じゃあ、今からそれが偽善じゃないって証明してよ。私のことを本当に思ってるって証明し て?信じられない人ばかりじゃなくて、中には信じられる人もいるんだって私に信じさせ てよ♡ どうやって…?うーん、そうね…じゃあ… 射精我慢…してもらおうかしら? 私達悪魔にはね…一つだけとっても苦手なものがあるの。それは、人間の精液。 人間の精液って、生命エネルギーに溢れてるのよね…それは悪魔にとっては毒。 人間の精液を体内に入れると、私たちのエネルギーの源である魔力が吸われてしまうの。 だから、多量に摂取すると消滅することになるのよ。 人間を殺して食べるのは平気。死んだ組織だから。でも、生きたままで入ってくる生命エネ ルギーはダメ。私達の魔力を吸われてしまうの。 …ここまで言えばわかるわね? あんたが射精するってことは、私を消滅に追い込むってこと。 このまま何もしなければ私は1カ月程、残った魔力で生きることができる。 でもあんたが精液を私の中に入れれば、すぐに私は消滅するわ。 私のことを本当に思っているなら…どれだけ性的な刺激があっても、射精なんてしないわ よね?我慢…できるわよね? ふふふふふふ…信じさせてくれるんでしょ?偽善じゃないって…。 ああ、最後にとっても楽しめそう♡ どうせ、射精しちゃうんでしょうけど♡そしたら言ってやるわ。偽善だって。 結局偽善なのねって鼻で笑って消滅してアゲル。 さぁ、じゃあ…始めましょうか♡最後の晩餐よ…♡