Track 6

人間になったら、したいこと

 ねえ。あなたって、生まれてからの最初の記憶ってわかる?  え? それはいきなり大変な記憶ね。  あのね。私の最初の記憶は、あなたが。  今にも死にそうになっている私を、病院に連れて行ってくれる思い出よ。  あの時私、実はもうだめなんじゃないかと思ってたの。  寒くて、苦しくて……。  あなたが頑張ってくれてるのに『もう何をしても無駄よ。私はこのまま死んじゃうの』って、自分を諦めそうになっていたの。  でも、あなたは手を尽くしてくれた。  何のゆかりもない捨て犬の私を拾って、また元気に暮らせるようにしてくれた。  きっと、すごくお金もかかったでしょうに……。  『これから一緒に住もうね』って言ってくれた。  だから私。  あなたってお金持ちで、すごく余裕のある人なんだろうって、最初の頃は思い込んでいたの。  でも、すぐに違うってわかったわ。  あなたは毎日お仕事大変で、夜遅くまでフラフラになって。崖っぷちのところで頑張ってるのに。本当は、誰かを助ける余裕なんてなかったのに……。  それでも私を拾ってくれたんだって。  あのね。だから。今度は私があなたに色々させてほしいの!  これからいっぱい勉強するし。  アルバイトもして家計も助けちゃうんだから!  ……大好き。  あの時私を諦めないでいてくれて、ありがとう……。  ダメよ! 私。断固恩は返す主義なの。  ……あ。そういえば、さっきの用事って何だったの?  私、話も聞かずに追い出してしまったわ。  え⁉ 夏祭り?  行く! 行くわ! ぜひ連れて行って頂戴!  そっか……私。これからはあなたとどこへでも行けるのね。  もう、一人でお留守番しなくていいのね!  あのね! だったら私! あなたと行ってみたい場所がたくさんあるの!  まずはね、遊園地でしょう。それから、海でしょう?  それから……それから……。  んー……。  んにゃ……まだまだいけるわよ。最近の犬は夜更かしなのよ。  だからね……それから……。それからぁ……。  ぐう……むにゃ……。