Track 5

お耳にキス……させて頂きますね、先輩

「さて、お耳へのマッサージも終えたことですし、先輩も随分とすっきりしたお顔を――」 「……と、先輩? それではお休みの準備をしようと思うのですが……」 「えーっと……どうしました? ちょっとこう……浮かない?顔をしているように見えますが……」 「……あっ、もしかして先輩? まだ、あまり眠くなかったりするのでしょうか?」 「私もそういう日があるので分かりますが……ダメですよ? 睡眠は戦う現代人の基本です!!」 「ですので、もし宜しければホットミルクでもお持ちしましょうか? ホットミルクには安息効果と入眠効果があると言いますので……」 「……あら、寝付けないわけではないので、ホットミルクは要らない、と?」 「……では……先輩は……なぜそのようなお顔を……」 「あ、いえ、先輩のお顔の造詣のお話ではなく、表情のお話ですが……何か……思うところでもあるのでしょうか?」 「無理にとは言いませんが、宜しければ理由を聞かせて頂けると……」 「……えっ? せ、先輩? そ、それは……ちょっと私も予想外です……」 「最後にした『お耳へのキス』が心地良過ぎて、もう少ししてほしい、と……」 「……えーっと……あまり長時間のマッサージは身体に悪影響をと思うのですが……」 「それに……最後のお耳へのキスは……その……勢いというか何というか、でですね……」 「…………」 「……最後にキスをしてしまった私にも責任はあります」 「それに……キスであれば……マッサージに含まれないかもしれませんし……」 「わかりました。ほんのちょっとだけ……先輩のご要望にお応えさせて頂きますね」 「……本当に、ちょっとだけですよ? 先輩」 「ちゃんと……『ちょっとだけ』、お耳にキスをしたら……お休みの準備をするんですからね?」 「……先輩もちゃんとお約束してくれましたし、それでは――」 『先輩? お耳にキス……させて頂きますね』 『……キスは……本当に何となく勢いでしてしまっただけなのに……先輩にこんなに気に入って頂けるなんて……』 『……本当は……私も(お耳へのキス、心地良いな)と思ってしまいましたが……』 『…………』 『……先輩』 『チュ』 『……ううっ、先程よりもドキドキが強くなってしまいました』 『……改めて……先輩に求められて、ですと……やはり少し――凄く恥ずかしくなってしまいます……』 『……ですが……こちらのお耳にも……』 『チュ』 『……先輩? これで満足して頂けた――感じでは無いですね』 『「もうちょっとしてほしい」というのが言葉にしなくても伝わってきます』 『……ですが、先輩?』 『実を言うと……私、キスという言葉を出すことさえ恥ずかしかったりするんですよ……?』 『……自分で言ってしまった言葉ではありますが……』 『……では……もう少しだけ……長めに先輩のお耳に…………き、キスを……』 『……本当に……勝手に、ですが、恥ずかしくなってるんですからね……先輩……』 『……ふぅ。恥ずかしさも相まって……ちょっとだけ……息が上がってしまった気がします……』 『……ですが……まだ先輩は物足りなさそうですので……』 『こちらのお耳も……』 『……ふう』 『……先ほどまではお耳に舌を入れて嘗め回していたのに……』 『……何故か……今、こうしてお耳にキスをしているときのほうが……恥ずかしくなってしまっている気がします……』 『……そして……凄く……ドキドキもしていたりします……』 『……先輩』 『……ふぅ』 『……先輩』 『……ふぅ』 『……ずっとずっとこうしていたいのですが……最初に『ちょっとだけ』とお約束をしたので……次のお耳にキスで本日は終了にしますね、先輩』 『……残念そうにしてもダメですよ、先輩?』 『ちゃんと約束を守るところも、先輩の良いところなんですから♪』 『……それでは……先輩』 『……ふう』 『……せーんぱい』 『……ふぅ』 『…………』 『ちゅっ』 「……先輩、お耳へのマッサージ、本日のところはここまで終了です」 「先輩も満足そうにしてくれて、私もとても嬉しいですよ」 「……それに……どことなく先輩のお顔、赤くなっているような……」 「お耳へのマッサージの効果で血流が良くなっているのでしょうか?」 「それとも……ふふっ、お耳にキスをされて照れてしまいました、先輩?」 「……え? わ、私の顔も赤くなってます!?」 「そ、それは……き、きっと……お耳のマッサージで息が乱れたからですよ、先輩!! 「も、もしくは!! 元々こういう顔色なのかもしれません!! きっとそうです!!」 「さ、ささ!! 私の顔の色はさておき、お約束通り、お休みの準備をしますよ!!」 「こんなにたくさんマッサージしたんですから、きっと今夜はすぐに、そしてぐっすり眠られるはずです!!」 「そしてまた、明日の朝から元気に頑張りましょう!! 私も頑張りますので!!」 「……というわけで、先輩。お布団の準備をしておきますので、お着替えをどうぞ!!」 「……な、なんとなく、なんとなーくなのですが……わ、私の目の届かないところでお着替えしてくださいね、先輩!」