お耳にキス……させて頂きますね、先輩
「さて、お耳へのマッサージも終えたことですし、先輩も随分とすっきりしたお顔を――」
「……と、先輩? それではお休みの準備をしようと思うのですが……」
「えーっと……どうしました? ちょっとこう……浮かない?顔をしているように見えますが……」
「……あっ、もしかして先輩? まだ、あまり眠くなかったりするのでしょうか?」
「私もそういう日があるので分かりますが……ダメですよ? 睡眠は戦う現代人の基本です!!」
「ですので、もし宜しければホットミルクでもお持ちしましょうか? ホットミルクには安息効果と入眠効果があると言いますので……」
「……あら、寝付けないわけではないので、ホットミルクは要らない、と?」
「……では……先輩は……なぜそのようなお顔を……」
「あ、いえ、先輩のお顔の造詣のお話ではなく、表情のお話ですが……何か……思うところでもあるのでしょうか?」
「無理にとは言いませんが、宜しければ理由を聞かせて頂けると……」
「……えっ? せ、先輩? そ、それは……ちょっと私も予想外です……」
「最後にした『お耳へのキス』が心地良過ぎて、もう少ししてほしい、と……」
「……えーっと……あまり長時間のマッサージは身体に悪影響をと思うのですが……」
「それに……最後のお耳へのキスは……その……勢いというか何というか、でですね……」
「…………」
「……最後にキスをしてしまった私にも責任はあります」
「それに……キスであれば……マッサージに含まれないかもしれませんし……」
「わかりました。ほんのちょっとだけ……先輩のご要望にお応えさせて頂きますね」
「……本当に、ちょっとだけですよ? 先輩」
「ちゃんと……『ちょっとだけ』、お耳にキスをしたら……お休みの準備をするんですからね?」
「……先輩もちゃんとお約束してくれましたし、それでは――」
『先輩? お耳にキス……させて頂きますね』
『……キスは……本当に何となく勢いでしてしまっただけなのに……先輩にこんなに気に入って頂けるなんて……』
『……本当は……私も(お耳へのキス、心地良いな)と思ってしまいましたが……』
『…………』
『……先輩』
『チュ』
『……ううっ、先程よりもドキドキが強くなってしまいました』
『……改めて……先輩に求められて、ですと……やはり少し――凄く恥ずかしくなってしまいます……』
『……ですが……こちらのお耳にも……』
『チュ』
『……先輩? これで満足して頂けた――感じでは無いですね』
『「もうちょっとしてほしい」というのが言葉にしなくても伝わってきます』
『……ですが、先輩?』
『実を言うと……私、キスという言葉を出すことさえ恥ずかしかったりするんですよ……?』
『……自分で言ってしまった言葉ではありますが……』
『……では……もう少しだけ……長めに先輩のお耳に…………き、キスを……』
『……本当に……勝手に、ですが、恥ずかしくなってるんですからね……先輩……』
『……ふぅ。恥ずかしさも相まって……ちょっとだけ……息が上がってしまった気がします……』
『……ですが……まだ先輩は物足りなさそうですので……』
『こちらのお耳も……』
『……ふう』
『……先ほどまではお耳に舌を入れて嘗め回していたのに……』
『……何故か……今、こうしてお耳にキスをしているときのほうが……恥ずかしくなってしまっている気がします……』
『……そして……凄く……ドキドキもしていたりします……』
『……先輩』
『……ふぅ』
『……先輩』
『……ふぅ』
『……ずっとずっとこうしていたいのですが……最初に『ちょっとだけ』とお約束をしたので……次のお耳にキスで本日は終了にしますね、先輩』
『……残念そうにしてもダメですよ、先輩?』
『ちゃんと約束を守るところも、先輩の良いところなんですから♪』
『……それでは……先輩』
『……ふう』
『……せーんぱい』
『……ふぅ』
『…………』
『ちゅっ』
「……先輩、お耳へのマッサージ、本日のところはここまで終了です」
「先輩も満足そうにしてくれて、私もとても嬉しいですよ」
「……それに……どことなく先輩のお顔、赤くなっているような……」
「お耳へのマッサージの効果で血流が良くなっているのでしょうか?」
「それとも……ふふっ、お耳にキスをされて照れてしまいました、先輩?」
「……え? わ、私の顔も赤くなってます!?」
「そ、それは……き、きっと……お耳のマッサージで息が乱れたからですよ、先輩!!
「も、もしくは!! 元々こういう顔色なのかもしれません!! きっとそうです!!」
「さ、ささ!! 私の顔の色はさておき、お約束通り、お休みの準備をしますよ!!」
「こんなにたくさんマッサージしたんですから、きっと今夜はすぐに、そしてぐっすり眠られるはずです!!」
「そしてまた、明日の朝から元気に頑張りましょう!! 私も頑張りますので!!」
「……というわけで、先輩。お布団の準備をしておきますので、お着替えをどうぞ!!」
「……な、なんとなく、なんとなーくなのですが……わ、私の目の届かないところでお着替えしてくださいね、先輩!」