mp3 01 本編【エピソード 01】
【千(ち)遥(はる)・モノローグ】
私(わたし)がどうにも頭の固(かた)い理系(りけい)の人間だってことは、あなたにも昔から散々言われているし
自分でもよく理解しているつもり
だけど「全ての事象(じしょう)を科学式(かがくしき)に当てはめたい」なんて、この歳(とし)で真顔で言えるほど
ぶっとんだ性格でも無ければ、妙(みょう)に悟(さと)りきった人間でもない
この世には私の及(およ)び知らない幾(いく)千(せん)もの不思議が、硝子(がらす)の欠片(かけら)のように散りばめられていて
そこにはきっと、こんな私でも胸を熱くする壮麗(そうれい)な眩(まばゆ)さがあるはずなんだ
それでも、私が生きている内には、そんな心(こころ)躍(おど)る出来事(できごと)には決して巡り合うことはないだろう
――そう考えるくらいには、つまらない人間だったり
ああ、やっぱり理系人間だ、私は
【千遥】
すー…すー…すー…
ん…う? んー…むにゃ…んん…っ
すー…すー…すー…
…ん…――え…?
え、え、えぇえええええええっ!?
ちょ、ちょっと! か、かかか顔近いっ!? アンタ、顔近過ぎぃいいっ!
【あず紗(さ)】
んー~…ふぁあ~…にゃむ?
おはよぉー…2人ともぉ
なぁに? 朝から随分(ずいぶん)と仲良しさんだね? うふふっ
【千遥】
はぁ!? 仲良しっ!?
ど、どどど何処がっ! あず姉(ねぇ)、いい加減なこと言わないでよねっ!?
【あず紗】
んー…? 私(わたし)には「只今(ただいま)絶賛(ぜっさん)じゃれ合い中」にしか見えないけど
【千遥】
こっこれはじゃれ合いなんかじゃなーい!
見た通りの、一方的な暴力ですぅ!
…あっ、こらっ逃げるなっ
【あず紗】
あらあら~? やん、どうしたのぉ?
ふふっ、君はいくつになっても甘えんぼさんねぇ、もぉ
お姉ちゃんに「ぎゅう~っ♥」ってして欲しいんだね?
【千遥】
はわわわっ!?
な、なにあず姉の胸に顔うずめてんのっ!?
こんのエロガキ…! 調子に乗ってると本気で頭カチ割(わ)るわよ!?
【あず紗】
まぁまぁ、ちぃちゃん。朝からそんなに興奮しないで。近所迷惑になるよ?
抱っこくらい、私は全然構わないから
それに、ほら。私たち3人一緒に寝てる仲じゃないの。
ね♥
【千遥】
さっ3人一緒にって…!
だってそれは…それは――
私たち3人、手がくっついて取れないからじゃないのぉおおおっ!
【千遥・モノローグ】
そう――決して起こり得ないはずの、不可思議(ふかしぎ)な状況
それはまさに、現在進行形で理系人間の私を苦しめ、悩ます種だった
(タイトルコール)
【千遥・モノローグ】
幼なじみであるあなたの家を中央(ちゅうおう)に
右隣が私――千遥の家
左隣があず姉――あず紗の家
私たち3人は子供の頃からの知り合い、端的(たんてき)に言えば「幼なじみ」というヤツね
4つ年上のあず姉はともかく、あなたとは歳も一緒、学園(がくえん)も一緒、クラスも一緒
あまつさえ席は隣同士…っ!
…ここまでくると、もはや何者かの意思の介入(かいにゅう)さえ疑う状況だ
それだけでも充分(じゅうぶん)閉口(へいこう)気味(ぎみ)なのに――
【千遥】
ほら、口、ちゃんと開けて? んもぉ、奥歯ちゃんと磨(みが)けないでしょ
【あず紗】
はぁ~い、お水
がらがらがら~!
【千遥・モノローグ】
3日前、突然私の左手があなたの右手に、
あなたの左手があず姉の右手にくっついて、取れなくなってしまった
理由…というか、原因は全くの謎
お医者様には外的(がいてき)な接(せっ)着(ちゃく)要素(ようそ)は皆無(かいむ)との診断を頂戴し、何もかも理解不能のまま今に至る
特に変なきっかけなどは無かったはず。無かったはず…なのに
ただ、微妙に思い出せない
どうしてあの時、私はあなたの手をにぎろうって…そう思ったんだっけ…?
ぼんやりと、曖昧(あいまい)な靄(もや)だけが記憶の片隅(かたすみ)に残る
…私は――
【千遥】
あず姉っ! トイレ済んだっ?
早く早くっ!
【あず紗】
…ちぃちゃん、彼のおめめとお耳を塞(ふさ)いでくれるのは助かるけど、鼻まで塞いだら
彼、死んじゃうよぉ?
【千遥】
死ねばいいのよこんなエロガキ!
さっき、あず姉のいかがわしい匂(にお)い、嗅(か)ごうとしたんだよっ!? このド変態はっ!
【あず紗】
顔が紫色になってるけど…
【千遥】
ほら、早く食べて! アンタがトイレで馬鹿やるから、10分も時間ロスしちゃってる!
あーもうっ、学園行く前に、実家に寄って猫たちに餌(えさ)もあげないといけないんだからっ
ほら、あーんっ
【あず紗】
うふふ、こんな状況でもきっちり学園へ行こうとするなんて、ちぃちゃんはほんと偉いなぁ
私、卒業後にまた学園に通えるなんて思ってもみなかったから、授業とか楽しいわ
はい、あーん♥
【千遥】
ご、ごめんね? あず姉。学園にまで付き合わせちゃって
それに、家にも住まわせてもらっちゃって…私の家だと、両親が常にからかってくるから
ほら、あーん
【あず紗】
全然いいのよ~? うふふっ
私の家なら両親はしばらく出張でいないし、ベッドもセミダブルのものがあるから
3人一緒でも楽に寝られるしね
そうだ。もういっそのこと、このままずっと3人で暮らそっか?
【千遥】
「さんせー!」…じゃないでしょ!? アンタは黙ってなさい!
そりゃ、アンタは憧れのあず姉と暮らせるから嬉しいでしょうけど、私はアンタみたいな
エロガキと寝食(しんしょく)を共(とも)にしてるってだけで、ストレスで胃に穴が空(あ)きそうよっ!
ほら、あーん
【あず紗】
あらあら、相変わらずねちぃちゃんは
【千遥】
相変わらず?
【あず紗】
素直じゃない、ってこ・と。うふふっ
【千遥】
~~っ!? な、何よそれ…意味分かんない
――は? 次は卵焼きって…私はアンタのメイドか何かなワケ!?
毎食手(て)ずから世話してやってるってのに、感謝の言葉の一つも無いのかアンタは!
ゴボウでも食べてなさい!
【あず紗】
あらあら、ゴボウを丸ごと咽(のど)に突っ込むなんて、ちぃちゃんったら殺す気まんまん♥
彼、杭(くい)を打ち込まれたゾンビみたいにピクピクしちゃってるよぉ
【千遥】
…ばかっ
(サブタイトルコール)
【千遥】
はぁ…はぁー…ふぅっ
やっと家に帰り付いたぁ。う~…くしゅんっ! つ、冷たぁいっ!
んもぅ、突然夕立(ゆうだち)だなんて…!
【あず紗】
ふぇえ~…ご、ごめんね、ごめんねぇ?
私、道で何度も転んじゃってぇ…
走ったりするの、とっても苦手なのぉ…くすん
【千遥】
うん…まぁ、あず姉が転びそうになったり電柱にぶつかりそうになる度(たび)に
コイツが飛び込んでクッション替(が)わりになってたからいいけど…
ふ、普段はどうやって生き延(の)びているのか、是非(ぜひ)詳しく聞きたいわ…
【あず紗】
そんなことより、ほら、早くお風呂入って身体(からだ)温めないと
このままじゃみんなして風邪ひいちゃうわ
【千遥】
そんなことて
あう、お風呂…お風呂、かぁ
さすがにこれだけは、何度やっても慣れないわね…
はぁー…
【あず紗】
ふんふふ~ん♪ らららら~♪ うふふっ
【千遥】
…あー…
ほんと、なんなのあず姉のその圧倒的なプロポーションは…
モビルスーツの性能の違いが、決定的な戦力の差ではないことを教えてやりたいわ…ぶつぶつ
【あず紗】
はぁい、じゃあ次は君の番だよ~?
お姉ちゃんが丁寧(ていねい)に洗ってあげますからね~? えへへっ
【千遥】
しょ、しょうがないから、私も洗ってあげるわよ
…ちょっと。目、見えてないでしょうね!?
その目隠しのタオル、少しでも緩(ゆる)めようものなら、即、湯船に頭から沈めるからね…!
【あず紗】
別に私は構わないんだけどなぁ
昔はよくこうして3人で一緒にお風呂に入ったのに
【千遥】
わ・た・し・が構うんですっ!
…あの頃と今とじゃ、もう何もかもが違うんだからっ…!
【あず紗】
………
あ、あら?
【千遥】
? どうしたの、あず姉…――えぇええっ!?
んなっ! な、ななななななっ!?
【あず紗】
は、はわわ~! こ、これ、テント! 三角テントぉ♥
【千遥】
わ、わかったからあず姉、指差さないで! どことなく嬉しそうな声を上げないでぇ!
こ、こらぁっ!? アンタ、な、な、なに考えてるのよっ! すけべっ!
身体(からだ)洗ってあげてるだけなのに、こんな…こんなにさせちゃってぇ…!?
【あず紗】
え? ずっとしてないんだから、仕方ない…?
…そっか、この三日間、何処(どこ)で何をやるにしても3人一緒だったもんね
男の子だもん。やっぱり…溜まっちゃうんだ?
ごめんね、お姉ちゃん気付けなくて。ずっと我慢してくれてたんだよね…?
【千遥】
きゃ! ちょ…あず姉!?
さっ、さわ、触って…!
【あず紗】
うふ♥ 私が楽にしてあげる
…ねぇ、私でも大丈夫かな? こんなお姉ちゃんでも、君を満足してあげられるのかな…?
どうしたら…いい?
私、こういうこと初めてだから、何でも君の言う通りにするね
…教えて?
どうしたら気持ち良くなれるのか…私に教えて…?
【千遥】
…っ! 嘘…でしょ? そんな…
あず紗…お姉ちゃん…!