Track 5

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音叉

 はーい、失礼しまーすご主人様ぁ~。  本日も相変わらずお疲れのご様子ですねぇ。  そんなにくたびれて、しょぼくれて、洗いすぎた洗濯物みたいにクタクタになられてお可哀想に……。  このままではご主人様の心は砂漠と化し、カラカラに干からびてミイラになって博物館に童貞の標本として展示されてしまうかもしれません……。  これはどうやら本日も、癒し系メイドステラちゃんの出番のようですね……。  ……え? 別にそこまで疲れてない?  なにを仰いますご主人様。ステラの目は誤魔化せませんよ。  ステラほどのメイドともなれば、ほんのわずかな兆候から、ご主人様の疲れやストレスを察知できるものなのです。  ……例えば、ですか?  そうですね…………。  ……なんか……顔色、とか…………?  さあ、ご納得頂けましたねご主人様。  というわけで本日の癒しグッズはこちらでございます。  ……はい? ステラが新しい道具を試したいだけじゃないか、ですって?  失礼な。  確かにステラは癒しの代名詞としてそろそろ辞書にも載るともっぱらの噂なほど、存在そのものが癒し系。故に、癒しグッズの収集に余念がございません。  ですが、それはあくまでもご主人様を想えばこその努力。  決してこだわっているうちに段々楽しくなってきたとかそういうアレではございません。  メイドに自分の意志など不要。ただあるじの役に立つことだけを考えていればよいのです。うーん、我ながら模範的。  それにですね、まあミイラになるほどではなくとも、ご主人様がお疲れなのも事実でしょう。  どうあれリラックスタイムは必要でしょう。  ということで改めまして、本日の癒しグッズはこちら。 (音叉)  ……はい、音叉、でございます。  楽器のチューニングなどに用いられる道具ですが、近年ヒーリング効果にも注目され、セラピーで利用されることもあるのだそうですよ。  このような一定の音というのは、心を鎮めてくれるそうなのです。 (音叉+1)  こちらは、高めの音ですね。  ふふふ……色々な音のものを集めましたので、本日はご堪能下さいね。  さ、ご主人様。目を閉じて。 (音叉+1)遠近  このように、近づけたり、遠ざけたり……。 (音叉+1)左右  色々と動かしたりすると、不思議で、なんだか面白いでしょう。  嫌でも音に集中することになるますから、雑念が払われて、瞑想のような状態になれるのですよ。  ご主人様のように邪念だらけで自力では瞑想状態など絶対無理というお方でも、お手軽に集中することができるのです。 (音叉+2)  音叉の音というのは限りなく純粋で、単調な音。 (音叉+2)  この音を心電図のように表現するなら、ずーっとまっすぐな線が流れ続けます。 (音叉+2)  人間の心や思考というものは常に色々なノイズが走り、大小さまざまな波が立っているものですが……。 (音叉+2)  こうして音叉の音色に耳を傾けていると、段々と、心の波形もまっすぐに、静かに落ち着いていきませんか? (音叉+3)  段々と、心が澄み渡ってゆきます。この音叉の音色のように。一定に。平坦に。 (音叉+3)  さざなみ一つ立たない、静かな心。それはとても心地よい。 (音叉+3)  常に何かを考え、情報を処理し続けている脳が、思考から解放されて安らいでいく。 (音叉+3)  いかがですか、ご主人様。  音色が高く、済んでゆくごとに、魂が高い所へあがってゆくようではありませんか。 (音叉+4)  スピリチュアルな世界でも、音叉は使われているそうですよ。  確かに何か、神秘的で、神聖な体験に、近づいていくような感覚ですよね。 (音叉+4)  高く、たかーく。精神をチューニングして。  雑念のない純粋な心に。 (音叉+4)  静かで。落ち着いていて。穏やかで。涼しくて。  余計な物事から切り離された世界に。 (音叉+5)  上がっていく。上がっていく。上がっていく。上がっていく。 (音叉+5)  昇っていく。昇っていく。昇っていく。昇っていく。 (音叉+5)  ほら、着いた。 (音叉+6)  …………ふぅ。  いかがですか、ご主人様。  たまには、心を静かに落ち着かせ、瞑想してみるのもよいものでしょう?  リラックスしていただけましたか?  ……そうですか、それはなによりです。  それでは、わたくしはこれで。また何かご用がございましたらお申し付けください。  …………はい? えらくあっさり引き下がると?  ……ステラだって、せっかく穏やかで心地よいリラックス状態にあるご主人様を、あえて雑念と邪念の渦に引っ張り込んだりは致しません。  どうぞたまには、そういう爽やかな気持ちのままお休みになられて下さいませ。  ……まあ、あくまでも健全に、であれば。  ステラに甘えに来て下さっても、馬鹿にしたりいたしませんけれど?  ふふ……それではご主人様、本日も一日、お疲れ様でした。  どうぞごゆっくり、お休みなさいませ。

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