プロローグ
おかえりなさいませ。ご主人様。
設定された帰宅時間から、3時間ほど遅れが生じております。
本日も残業だったのでしょうか。お仕事、誠にお疲れ様です。
夕食の準備は完了しております。温め直せば五分ほどでご用意が可能ですが、いかがなさいますか。
……本日もお召し上がりになりませんか? 承知いたしました。
では、入浴されますか。そちらも準備が整っておりますが。
…………。
恐れながら申し上げます。入浴し、体の血行を促進することで、リラックスと安眠効果が得られます。
先月から寝つきが悪いようですので、せめて入浴を行うのはいかがでしょうか。
……このままお休みになるのですか?
承知いたしました。
では、おやすみなさいませ。
ご主人さ……
……警告。警告。
ご主人様の健康指標が、基準値を大幅に下回っております。
家事用アンドロイド、IMG6700(アイエムジー ろくななぜろぜろ)は、これを看過できません。
家事遂行モードを終了し、“モードM”へ強制移行します。
…………。
……こーら。
めっ、ですよ?
ご飯食べないで、お風呂にも入らないで、そのまま寝ちゃうなんて……。
不健康にもほどがあります!
そんなの、めっ、です。
……でも、そう思っちゃうのも仕方ないですよね。
疲れてたんですよね。
心も、体も、へとへとになっちゃったんですよね。
私はアンドロイドで、疲れを知らない体ですけど……でも、ご主人様が毎日辛そうにしてることは、よく分かっています。
毎日、毎日、とっても心配でした。
だから……ご主人様。
せめて……ぎゅーってしてもいいですか?
疲れ切ったご主人様を、少しだけでも癒してあげたいんです。いいですか?
……はい♪
ぎゅーーーーーーーぅ……♪
よーく、頑張りましたね。えらい、えらい。
本当に、お疲れ様でした……。
……ふふ。はい、もっとぎゅーってしてください。私、丈夫にできてますから。
強く、強く、抱き着いて……
……いっぱい泣いてください。
ぎゅーーーーー……。
その後で、少しだけでもいいですから、ご飯を食べて……
お風呂に入って……
ゆっくり、お休みしましょうね。
それで……明日は、お寝坊しちゃいましょう。
そのまま会社を休んだって、大丈夫です。
ええ。安心してくださいね。
家事用アンドロイドの健康診断機能は、国の定めた基準を満たすほど、正確です。
その基準値を下回ったということは……つまり、ご主人様が過労で倒れる一歩手前ということです。
もし、休むことで会社から文句を言われたら、逆に、しかるべき機関に問い合わせて、文句を言い返すこともできます。
その処理も、私が代行できますから、心配しないでくださいね。
あ。ごめんなさい。疲れてるのに、難しい話、しちゃって。
つまり、分かってほしいのは……
私に任せてもらえれば、ぜーんぶ大丈夫、ということです♪
だから……いくらでも休んで、いいんですよ。
安心して、ゆっくりしましょうね。
さぁ。まずは、ご飯を一緒に食べましょう。
食べられるだけで構いませんから。
……はい♪ すぐに準備しますね♪
ふふっ♪