Track 3

『余がいれば満員電車も大丈夫だ♪』

 よいしょ、っと……。  ……ふぅ。乗るのも一苦労だなー。電車って。  んー? 別に、電車に乗ったことくらいはあるがー。こんなに混んでる時間に乗るのは、初めてだなー。  ……すごいなー。これに毎日乗ってたら、出勤するだけで疲れちゃうよなー。  人間はほんとにすごい……。いや、ほんと。尊敬するよー。  んー? どうかしたか?  余の……角?  あぁ、頭のこれか?  心配いらないよー。魔法で、周りからは見えないようにしてるから。人間だけにしか見えてないよー。ふふ。  うー。しかし、魔界を統べてた余も、こんなに周りに人がいるのは初めてだなー。  馬の何倍も速いし、移動に便利なのは認めるがー。もうちょっと何とかならんのかな、この乗り物はー。  これで部下を移動なんてさせたら、戦場に着く前に士気が下がりそうだー。  ……あ。心配するなー? 別に、余、辛いわけじゃないから大丈夫。  ただ、びっくりしてるだけだー。  人間は、毎日毎日、こんな大変な想いをして、会社に行ってるんだなーって。  ……本当に偉いなーって思ってるんだ。  人間が、余に甘えたくなる気持ちもわかるなぁ……。  今日、家に帰ったら、どろどろに溶けちゃうくらい、イチャイチャしようなー♪ 人間ー♪  ……あ。駅、ついたな。  人間の降りる駅は、まだ先だよなー? うん、分かった。  ……っとと、急に人間どもが乗ってきたな……。  お、押されるぅ……  むぎゅっ。  ご、ごめんな。苦しくないかー?  そうかー? ならいいが……。  しかし……この電車、もう満員だよな……。  なのに、人間ども、無理やり乗ろうとするから……容赦なく、ぐいぐい押し込んでくるな……。  10万人規模の戦場でも、もう少しスペースに余裕はあるぞー……。  ……ふふ。まぁ、いっか。  ついでだー♪  ぎゅーーーーー♪  ……ふへへー♪  んー? いーだろー? こうやって、余と人間がくっつけば、スペースの節約になるし♪  人間は余に甘えられるし♪ 一石二鳥、ってやつだー♪  ほらほら、遠慮するなー♪ ぎゅーーーー♪  ……んー? あ。周りの目が気になるかー?  んー。まあ、そうか。そーいうの、TPO、ってゆーんだっけ。  外でぎゅーってするのは、あんまりよくないかー。  だったら……  ……これでよし。  ふふ。魔法でな、余と人間を、周りの人間どもの意識から隠したんだー。  余の角を見えなくしてるのと、同じ理屈だよー。  これなら、全力でぎゅーーーってしても、何も問題ないぞー♪  ほら♪ ぎゅーーーーーーーー……♪  まあ、でも……  こうやって、人間とぎゅ~~~ってできるのは、満員電車のいいとこだなー♪ ふふ。  …………。  本当に……つくづく思うよー。  人間って、とっても偉いんだなって。  出社してる、ってだけで、もう偉いよなー。  これじゃ、いつ心が潰れても、不思議じゃないよー。  ……ほんとに、無理するなよー?  余がぎゅーってすることで、少しでも、人間が元気になってくれたらいいなー。  よーし、よーし。よし、よし。  偉いぞー、えらい、えらい。  お仕事にちゃんと行けて偉い。偉いぞー、本当に偉い♪  無理はしないで欲しいから、余は、“お仕事頑張れー”、なんて言わないがー。  疲れちゃったら、いつでも、余のとこに帰ってこい?  余が、いつだって抱きしめてやるから。  ……うん。  ふふ。本当に偉いぞ、人間♪  ぎゅーーーー……っ。  ……あ。次、人間の降りる駅かー?  うん。じゃ、降りようかー。  ……んー? ここまでで大丈夫なのか?  そうかー? 別に、会社の前までついていってもいいぞー?  ……うん、人間が大丈夫って言うんなら、分かった。  無理しないようになー、人間。  ご飯作って、待ってるからなー♪ ……美味しいご飯になるように、余、頑張るからっ。  じゃーな、人間……  ……あ。ちょっと待った。  ……TPO、って言っても……これくらいはいいよな?  ……ちゅっ。  ……ふへへ♪  行ってこい、人間♪  余がついてるからなー♪ ふふっ♪