『余がいれば満員電車も大丈夫だ♪』
よいしょ、っと……。
……ふぅ。乗るのも一苦労だなー。電車って。
んー? 別に、電車に乗ったことくらいはあるがー。こんなに混んでる時間に乗るのは、初めてだなー。
……すごいなー。これに毎日乗ってたら、出勤するだけで疲れちゃうよなー。
人間はほんとにすごい……。いや、ほんと。尊敬するよー。
んー? どうかしたか?
余の……角?
あぁ、頭のこれか?
心配いらないよー。魔法で、周りからは見えないようにしてるから。人間だけにしか見えてないよー。ふふ。
うー。しかし、魔界を統べてた余も、こんなに周りに人がいるのは初めてだなー。
馬の何倍も速いし、移動に便利なのは認めるがー。もうちょっと何とかならんのかな、この乗り物はー。
これで部下を移動なんてさせたら、戦場に着く前に士気が下がりそうだー。
……あ。心配するなー? 別に、余、辛いわけじゃないから大丈夫。
ただ、びっくりしてるだけだー。
人間は、毎日毎日、こんな大変な想いをして、会社に行ってるんだなーって。
……本当に偉いなーって思ってるんだ。
人間が、余に甘えたくなる気持ちもわかるなぁ……。
今日、家に帰ったら、どろどろに溶けちゃうくらい、イチャイチャしようなー♪ 人間ー♪
……あ。駅、ついたな。
人間の降りる駅は、まだ先だよなー? うん、分かった。
……っとと、急に人間どもが乗ってきたな……。
お、押されるぅ……
むぎゅっ。
ご、ごめんな。苦しくないかー?
そうかー? ならいいが……。
しかし……この電車、もう満員だよな……。
なのに、人間ども、無理やり乗ろうとするから……容赦なく、ぐいぐい押し込んでくるな……。
10万人規模の戦場でも、もう少しスペースに余裕はあるぞー……。
……ふふ。まぁ、いっか。
ついでだー♪
ぎゅーーーーー♪
……ふへへー♪
んー? いーだろー? こうやって、余と人間がくっつけば、スペースの節約になるし♪
人間は余に甘えられるし♪ 一石二鳥、ってやつだー♪
ほらほら、遠慮するなー♪ ぎゅーーーー♪
……んー? あ。周りの目が気になるかー?
んー。まあ、そうか。そーいうの、TPO、ってゆーんだっけ。
外でぎゅーってするのは、あんまりよくないかー。
だったら……
……これでよし。
ふふ。魔法でな、余と人間を、周りの人間どもの意識から隠したんだー。
余の角を見えなくしてるのと、同じ理屈だよー。
これなら、全力でぎゅーーーってしても、何も問題ないぞー♪
ほら♪ ぎゅーーーーーーーー……♪
まあ、でも……
こうやって、人間とぎゅ~~~ってできるのは、満員電車のいいとこだなー♪ ふふ。
…………。
本当に……つくづく思うよー。
人間って、とっても偉いんだなって。
出社してる、ってだけで、もう偉いよなー。
これじゃ、いつ心が潰れても、不思議じゃないよー。
……ほんとに、無理するなよー?
余がぎゅーってすることで、少しでも、人間が元気になってくれたらいいなー。
よーし、よーし。よし、よし。
偉いぞー、えらい、えらい。
お仕事にちゃんと行けて偉い。偉いぞー、本当に偉い♪
無理はしないで欲しいから、余は、“お仕事頑張れー”、なんて言わないがー。
疲れちゃったら、いつでも、余のとこに帰ってこい?
余が、いつだって抱きしめてやるから。
……うん。
ふふ。本当に偉いぞ、人間♪
ぎゅーーーー……っ。
……あ。次、人間の降りる駅かー?
うん。じゃ、降りようかー。
……んー? ここまでで大丈夫なのか?
そうかー? 別に、会社の前までついていってもいいぞー?
……うん、人間が大丈夫って言うんなら、分かった。
無理しないようになー、人間。
ご飯作って、待ってるからなー♪ ……美味しいご飯になるように、余、頑張るからっ。
じゃーな、人間……
……あ。ちょっと待った。
……TPO、って言っても……これくらいはいいよな?
……ちゅっ。
……ふへへ♪
行ってこい、人間♪
余がついてるからなー♪ ふふっ♪