01_プロローグ
トラック1:プロローグ
【しずる】
「……あ、ようやく起きた。どうも。お邪魔してる」
【しずる】
「うん。ここに来たの、一時間くらい前。あなた、寝てたから。起こすのも悪いかと思って本を読んでた」
【しずる】
「わたしが来るとき、あなたはいつも寝てる。すっかり昼寝が日課になってるみたい」
【しずる】
「まあ、散歩するにも松葉杖だから気持ちはわかる。退屈だろうと思って、お見舞いの品、いろいろ持ってきた」
【しずる】
「雑誌に、漫画に、あとはお菓子。そこに置いてあるから、遠慮なくどうぞ」
【しずる】
「……別に。面倒じゃない。わたしとあなたは恋人同士。彼氏が足を折って入院してるなら、お見舞いくらい普通」
【しずる】
「それに、わたしはこんなでも一応先輩。小学生の平均身長に負けてても、あなたの年上であることは動かない。つまり、お世話をするほう」
【しずる】
「……看護師さんに会うたび、あなたの妹かって言われるのは面白くないけど。お見舞い自体は嫌いじゃない」
【しずる】
「……それに、今日はとても面白いものが、聞けた」
【しずる】
「そう。面白いこと。その件について、あなたに一つ聞きたいことがある」
【しずる】
「……ちょっと近くに行く。大声でする話じゃない」
【しずる】
「ねえ。フェラチオって、そんなに気持ちいいの?」
【しずる】
「逃げるのは禁止。いきなり何を聴くんだって顔してるけど、それはこっちの台詞」
【しずる】
「だってフェラが気持ちいいって言ってたのは、あなた。正確には、寝ていたあなた。……嘘じゃない。すごい寝言だった」
【しずる】
「しずる先輩、いっぱいちんぽ舐めて」
【しずる】
「しずる先輩、もっとおくちの中で、ちんぽしごいて」
【しずる】
「しずる先輩、精液出すから、飲んで、飲んで、飲んで……って」
【しずる】
「……表情筋が死んでるわたしでも流石に驚いた。こんなに大きな声で寝言を言う人も初めてだったけど、それより内容がヤバい」
【しずる】
「割とシャレになってないレベルで、フェラへの愛を説いてたよ」
【しずる】
「先輩のちっちゃなおくちが大好き、とか」
【しずる】
「恋人つなぎしながらしゃぶられたい、とか」
【しずる】
「先輩のジト目で、じ~って見つめられながらイきたいよ~……とか」
【しずる】
「うん。うなだれるのが正しい。武士なら切腹モノ。あなた、一般市民で良かった」
【しずる】
「……まあ、安心するといい。わたしは先輩。後輩のえげつない性癖を知っても、別れようとか言わない。小さな体に大きなおっぱい、じゃなくて、大きな度量」
【しずる】
「……で、さっきの話に戻る。フェラチオって、そんなに気持ちいいの?」
【しずる】
「だって気になる。あれだけ騒いでたら。入院生活で欲求不満だったことを差し引いてもすごい情熱」
【しずる】
「実体験があるとしか思えないくらいのレパートリー。で、どれくらい気持ちいいの、フェラって」
【しずる】
「……え、経験ないの?」
【しずる】
「お付き合いしたのも、わたしが初めて? あなた、初めての交際でこんな無愛想な女に告白したの? ……なかなか変わってる。知ってたけど」
【しずる】
「だったら……わたしがしてあげようか。フェラチオ」
【しずる】
「あれだけフェラへの情熱を説いてたのに、未経験は不憫。なんかこいつ可哀想だな……ってなる。童貞に愛の手を。じゃない、愛のおくちを?」
【しずる】
「わたしもフェラは未経験。というか、男の子のちんぽって見たことない。けど大丈夫。わたし、えろ本の類はけっこう見てる。むしろ好奇心の方が強い」
【しずる】
「それにわたしたち、付き合い始めてまだ日が浅いから、進展はキスまで。フェラはセックスよりハードル低そう。ステップアップに丁度いい」
【しずる】
「あと、あなたの欲求を解消させないと、わたしも恥をかく」
【しずる】
「あの寝言、わたしのいないところでやられて、噂になるのは避けたい。あなたもそうでしょ?」
【しずる】
「というわけで、フェラチオマニアの秘密がこれ以上拡散しないよう、責任を持って防波堤をやらせてもらう。善は急げ。鉄は熱いうちに。初めてのフェラチオは突然に」
【しずる】
「いっぱい気持ち良くしてあげる。あなたの好きな、このちっちゃなおくちで」
01_プロローグ 了