3.1B やっぱり、泳ぐの?
ねえ、お兄ちゃん。
やっぱり…泳がんと……だめ?
ほら、海って別に泳がんでも、こうやって眺めたり、浅い所に足を付けて水を掛け合ったりするだけでも、結構楽しいと思わん?
うち…泳ぐのはちょっと、苦手っていうか、実は…その、怖いっちゃん…ほんとに?
ちゃんと、うちの手、ぎゅって握っとってくれると?
なら…良かよ。
一応、浮き輪もあるし…大丈夫やろーとは思うけど。
絶対に離れんでよ?
うぅ…じゃあ、ゆっくり…やけんねんっ…あぁ、ほんとに入っとぉ…お兄ちゃん、うちの脚、もう見えんくなっとーよ?
それどころか…腰まで浸かって……ひゃっ、お兄ちゃん?
ちゃんとうちの手、ぎゅぅってしとってよぉ…怖いちゃけん…もう…絶対、放したらいかんよ…?
フリとかじゃなくて、本当にっん…お兄ちゃん。
もう、胸の辺りまで浸かって…足、届かんっちゃけど…うん…じゃあ、この辺りでいったん止まろっかふぅ…。
皆、もっと遠いところで遊んどるったいね………別に、羨ましいとかじゃなくて、なんかすごかぁって…うちは、殆ど泳げんし…お兄ちゃん、本当は楽しくないっちゃないと?
そう…なん?
…うちも、お兄ちゃんと一緒なら…楽しいかな…確かに、海はちょっと怖かけど…こうして浮き輪もしとーし…お兄ちゃんが、うちの手…握ってくれとーけん……ん、はぁ…海って、不思議やねただ浮かんどるだけなのに…気持ち良くて…慣れてくると、平気…かもえ、泳ぎ方…お兄ちゃんが教えてくれると?
…うーん、でも…せっかく海に来たんやし…じゃあ、うちが泳げるように、優しく教えてね…?
えっと、まずどうすれば……って、バタ足?
えぇ、こんなに人がいるのに、浮き輪つけてバタ足なんて恥ずかしかぁ…うぅ……ほんとに、うちらのこと、誰も見とらん?
なら、ちょっとだけ…ねお兄ちゃん、うちのこと引っ張って。
足、バタバタ~ってするけんん…っ!どう…?
良い感じに、泳げとぉ?
もっと…脚を細かく動かすっちゃねん…っ、こう?
あ…さっきよりも、前に進んどるような…お兄ちゃん、今そんなに引っ張ってなかろ?
ということは、うち…うまく泳げとるんかな?
…お兄ちゃん、本気でそう思っとー?
なんか、微笑ましそうな顔しとーのが気になるっちゃけど…でも、こうして手を繋いでもらっとーのは、子供っぽい感じやけん…気持ちは分かるよ?
でも、ちょっと複雑というか……むぅ…ねえ、お兄ちゃん、ちょっとだけ手を離してみてくれん?
大丈夫大丈夫、ほんのちょっとだけやけん。
今こうやってできとーし、うちも少しは泳げるようになったかもしれんよ?
いいとっ、いつまでもこうやっとっても泳げるようにならんっちゃけん。
うちを信じて手を離してみてようん、大丈夫。
うちだって―うわわわっ、や、やっぱり無理い!あ、足がつかんよお!お、おぼれちゃ―あ、ありがとうお兄ちゃん……やっぱりまだまだ無理やったね…………うちはやっぱり、お兄ちゃんがおらんとだめやねだってお兄ちゃん、うち、手を離した時ばり怖かったもん。
一人になっちゃったみたいに心細くて……でも、お兄ちゃんがこうしてくれとると安心すると。
そうじゃないと、こうやってバタ足もできんよ。
お兄ちゃんがおるだけでぜーんぶ大丈夫だって、思えるっちゃん。
やっぱりうちにはお兄ちゃんがおらんとダメ、かな。
やけん、お兄ちゃんももっとうちを子供じゃなくて……恋人として扱って……あっ、もー、またそうやってほんわかした顔しちゃって…はぁ、結局…こうやって泳げとるわけやし、楽しいけんいっか…ほらお兄ちゃん、そろそろ違うとこに連れて行ってようち…お兄ちゃんと一緒なら、もっと泳ぎよきたかぁ…ふふ、あははっ