Track 101

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1.1初めてのオナニー観賞

1.1 「初めてのオナニー観賞」  …  ……  … 【兄】 「本当に、しても……いいか?」 【優衣】 「……うん。どうぞ? 私は兄さんの隣で寝てるから、だから兄さん  は一人で……いつもしてるみたいにして……」  意を決した。  優衣が腰を引くと同時に、布団を捲る。  露出させようとパジャマに手を伸ばしたところで、その様子を見守  っていた優衣から声を掛けられる。 【優衣】 「…………ぁ、あのっ。その……兄さん?」 【優衣】 「えっと……今さらこんなこと言うのはあれだけど、  ……私が見ても、いいの?」 【優衣】 「局部を見られるのは、男の人でも恥ずかしいんでしょ?」  場の緊張が高まってきて、優衣はなあなあで事を運んでいることに  危機感を覚えたようだ。  無理強いしていないかと不安がっている。 【兄】 「逆に訊くが、見せてもいいのか?」 【優衣】 「う、ん。見るのは、別に……兄さんのなら平気」 【優衣】 「というか、いますっごくわくわくしてるもの」 【兄】 「そ、そうか」  幸福感。  自分だけ許された、その特別扱いに心が揺れる。 【優衣】 「あ……そっか。兄さんは見られたいの。見て、ほしいの……ね」 【兄】 「いや、別にそういうわけじゃ」  ……。 【兄】 「いや……そうですネ」 【優衣】 「クスッ、素直で宜しい」 【優衣】 「……ほら、じゃあ……続けて?」  催促を皮切りに、手を掛ける。  腰を一周するゴム紐を伸ばし、奥へ下ろした。 【優衣】 「……ぁ」  同時に、肩に頬を乗せる優衣が息を漏らした。  視線の先には硬直して脈動を続ける陰茎がある。 【優衣】 「それが……、……」  言葉に詰まるようすを見せると、生唾を飲み込む。 【優衣】 「ね、ねぇ。本当の本当に、見ても大丈夫なの……よね?」  不安そうに囁くような声で訊く。 【優衣】 「兄さんの……、……ペニス。兄さんの、してる……ところ。  本当に見ても……」 【兄】 「あぁ」 【兄】 「……見ててくれ」  もう自棄だ。  ここまで恥を晒してるんだ、思いの丈をぶちまけてしまおう。 【優衣】 「ぁ……。ふっ、くすくすっ。……そぉ?  見ててほしいなら、見ててあげるわねー」  子供を甘やかすように言うと、俺の腕をぎゅっと抱き締めた。  我慢の限界だ。  そっと逸物を握る。 【優衣】 「…………」  関心するように息づく。  首元を生暖かい息が撫でていく。 【優衣】 「手で握って……、……へえ、そうやって動かして……。  うわ、暴れてる……」 【優衣】 「兄さん……? それ、勝手に動いちゃうの……?  わざと動かしてるわけじゃ……ふふっ、ないわよね?」 【兄】 「自分の意思に反してってわけじゃないが……」 【兄】 「思わず動かしてしまうんだ」 【優衣】 「ふんふん……脊髄反射、ってところかしら……?  刺激されると反応しちゃうのかしらね」 【兄】 「いや、えっと」 【兄】 「気持ちいいと反応する……」 【優衣】 「え……? ぁ……気持ちいいと、反応するんだ。  …………へぇ」 【優衣】 「てっきり、気持ちいいのは射精だけかと思ってたわ。  ……射精までの途中行程も、快感が伴うのね」 【優衣】 「……ふふっ」  優しく笑った。 【優衣】 「なんだか……気持ちいいから反応してるっていうのを聞くと、くす  っ」 【優衣】 「兄さんのペニスが……悦んでるように見えてきた」 【兄】 「っ」  優衣の感想に逸物が執拗に反応する。 【優衣】 「あ……。なに……? いまの……」 【優衣】 「私の言葉に反応した?」  どう答えたものだろう。  素直に答えると気持ち悪がられやしないだろうか?  言葉責めに性的反応を示す変態だと。 【優衣】 「……兄さん?」  優衣の顔がやや上向きになり、やおら視線を向けられる。  視線に応えることはできない。 【優衣】 「……」  優衣は二つ呼吸を挟むと、息を吸った。 【優衣】 「チンポ」 【兄】 「っ!!」 【優衣】 「うわ、わ」  優衣の口から飛び出た卑猥な単語に、逸物の奥から歓喜の渦が巻く。  危うくこれだけでイクところだった……。 【優衣】 「へえ……」  それを見た優衣は厭らしく微笑んだ。 【優衣】 「私にこんな言葉を囁かれるだけで、チンポは反応しちゃうんだ……」 【優衣】 「反応しちゃうのは、気持ちいいからって言ってたわよね……?  てことはぁ……兄さんは、私の言葉で気持ちよくなっちゃったの?」 【優衣】 「うわあー……兄さんってば、やーらしー……ふふふっ」  冗談よ、とばかりに頬を肩に擦りつける。  顎元を髪が撫で、ふわりとシャンプーの香りがする。  風呂上りの優衣の匂い。  いつもの、しかしながら昔とは違う少し大人びてき始めた香り。  自分の知る妹であり、知らない妹の姿でもある。  そんな複雑な心境を察するように、甘い香りが鼻腔を抜けるたび逸  物が反応する。  優衣はじっとその様子を見つめていた。  表情は頭部に隠れて窺い知れない。 【優衣】 「あの……兄さん? ついでだから訊きたいんだけど」 【兄】 「ん……?」 【優衣】 「男の人って、自分でするときは……オカズを用意するって聞いたこ  とがあるんだけど……」 【優衣】 「兄さんのオカズって、どんなものなの?」 【兄】 「えーっと……」 【優衣】 「一度、興味本位で家探ししたことがあるけど、見つけられなくて…  …」  ちょっと。 【兄】 「……あまり性癖の話は、な」 【優衣】 「うん? 恥ずかしいの? ……もう、ここまでさらけ出しておいて、  何を恥ずかしがってるのよー」  そうは言うが、俺にも守らねばならない牙城があるわけで。 【優衣】 「まあ、いいわ。……代わりに、いま何を考えてるのか教えて?」 【兄】 「……?」 【優衣】 「だって、いまはオカズを用意してないじゃない? なら、兄さんを  興奮させてるのは想像力」 【優衣】 「何を考えてる? いま、何をオカズに……兄さんは“おちんぽ”を  擦ってるのー?」 【兄】 「っ……」  ……わかってるくせに。  わかってるからこそ、そうやって俺を苛めてるくせに。 【兄】 「……確信が欲しいだけか」 【優衣】 「?」  おどけるように喉を鳴らす。 【兄】 「……お前だよ」 【兄】 「お前の声と、体の感触を……オカズにしてる」 【優衣】 「ぇ……わたし?」  素の声。  予想だにしない返答を受けたときの声だ。 【兄】 「何を驚いてる……?」 【優衣】 「あ、いや……てっきり、卑猥な言葉に興奮するだけだと思ってたか  ら……」 【優衣】 「まさか、私の囁き声と……密着してる体をオカズにしてるとか……  思わなかった……」  恥ずかしそうに声を萎めていく。  とんだ勘違いだ。  自分がオカズにされてると解っていながら、俺に囁いてきたり擦り  寄ってきているわけじゃなかった。  囁いていたのはただのシチュエーションによるもので、擦り寄って  いたのはただの妹としての自然な行動によるものだ。 【兄】 「……」 【優衣】 「……」  気まずい雰囲気が続く。  それでも手は止まらない。  すりすりと聞こえる衣擦れ音と、優衣の息遣い。  時おり、優衣がきゅっと軽く腕を握ってくる。  その度に肘に当たる胸の柔らかな感触。  嫌な沈黙と、背徳感が混ざる甘美な感覚に酔うように手が動いてい  く。 【優衣】 「ぁ…………音が」  指に絡まるぬめりとした液体。  カリ首を弾くと水音が響くようになってきた。 【優衣】 「兄さん……? にちゅにちゅ……って、すごい音がしてるわよ……?」 【優衣】 「…………ふふ、気持ちいいの? 妹に見られながら、ペニ――……  ううん、……チンポ……シゴくの」 【優衣】 「ほら、答えて? ……それって、興奮すると漏れてくるんでしょ?  ……兄さんの涎……だらしなーく垂れてくるよーだーれ。ふふっ」 【兄】 「っ、ぁ……」  答えられるわけがない。  惨めで、辱めを被ることなどできるわけがない。 【優衣】 「……エッチな音……。……抱き付いてると、解る。兄さんの体がビ  クってするたびに、小さく『ぁっ』って息を漏らすの」  じっと見つめられる。 【優衣】 「兄さんの顔……、……見たことない顔……」 【優衣】 「嬉しそうな、苦しそうな顔……。……なんか、すごく……エッチな  顔してる」 【兄】 「見る、なっ」 【優衣】 「やだ。見る」  こいつ……っ! 【優衣】 「凄く切なそう……。なんだろう……兄さんの顔、よく解らない。  怯えてる子供みたいな顔にも見えるし……」 【優衣】 「……くす、大丈夫。大丈夫だよー。私がちゃんと見ててあげるから。  寂しくないから……ね。……ほら、手……握ってあげる」  抱えられている腕を伝い、優衣の手が俺の手を握る。  何度も握り返しながら、指の間に指を絡めていく。 【優衣】 「ふふっ。……どお? 安心した? これで心置きなく、おちんちん  をいじれまちゅねー」  俺を小馬鹿にするいつもの妹だ。  年下なのに、人を見下すような言葉遣いをする。  普段と変わらない……変わらないはず。  でも、性的に興奮しているいまの心理状態では、受け止め方が変わ  ってしまう。  被虐心は、腰を跳ねさせるくらいの快感に変換されていく。 【優衣】 「っ、ぁ……。……どうしたの? そんなに息を荒げて……腰まで震  わせて」 【優衣】 「もしかして、兄さんは……赤ちゃんプレイが好きなのかしら……」 【兄】 「違う、っ!」 【優衣】 「違うなら、いいけど……」  言うと、またぎゅっと手を握ってくる。  身体が震える。 【優衣】 「……」  また握る。  跳ねる。 【優衣】 「……兄さんってば」 【優衣】 「手を握られるのが、そんなに嬉しいの……?」 【兄】 「……」 【優衣】 「私が、こうやって……ぎゅって握ってあげたら……ぁっ、ほらっ…  …腰が震えた」 【優衣】 「そっか。赤ちゃん言葉とかじゃなくて、私に手を握られたから嬉し  そうにしてたんだ……? こんな、単純なことで……」 【優衣】 「……なんか……、なんか……変よ、今日の兄さん……。私の知って  る兄さんと、なんか違う……」 【優衣】 「妹のお尻で反応したり、囁き声とか体に触れてる感触とか、手を握  るだけで……性的興奮なんてしないはず……」 【優衣】 「だって……そんなことでエッチな気分になってたら……兄さんと過  ごしてる普段の日常が……」  俺の性的な反応に戸惑い、困ったような声を出す優衣。  優衣を困らせている。  しかも、性的な方法で。  その事実に、優衣の様子に背筋に電気が走った。 【兄】 「っ、やば……!」 【優衣】 「ぁ……。ど、どうしたの?」 【兄】 「裾っ、裾捲って……!」 【優衣】 「裾を捲る……? は、はい、わかったっ。……っ、……ん、これく  らい?」 【兄】 「それじゃ汚れる、もっとっ」 【優衣】 「もっと? わかった、じゃあパジャマのボタン外すから。じっとし  てて……」  腹の上を華奢な指先が踊る。  ゆっくりとボタンが外されていく間、俺の右手は上下している。  優衣に握られた左手はいまだ自由の利かない状態だ。 【優衣】 「……これで、いい?」 【兄】 「あぁ、ありがと……」 【優衣】 「……どういたしまして」   浮かせていた上半身が俺に預けられる。  さらけ出された素肌に優衣の頬が触れる。  さらさらとした柔肌。  吐息が胸に直接あてられて、心地いい。 【優衣】 「もう……出るの?」 【兄】 「あぁ……」 【優衣】 「パジャマのボタン、全部外さなきゃいけないほど……飛んでくるの?」 【兄】 「普段はそうでもないけど……」 【優衣】 「普段はそうでもない……? え……じゃあどうして……」 【兄】 「今日は、たぶん滅茶苦茶飛ぶと思う」 【兄】 「お前に見られてるから。……興奮度もやばいし」 【優衣】 「っ……、また……」  困ったように熱のこもった息をつく。 【優衣】 「私に見られて……興奮してるからとか……。だから、めちゃくちゃ  飛ぶとか……」 【優衣】 「兄さん、さっきからおかしい……。私を辱めようとしてる……?」 【兄】 「……いいから、見てて」 【優衣】 「ん、ぅぅ……。……ん、わかった」 【優衣】 「……ちゃんと最後まで見てるから。だから……兄さんのチンポ、  ぴゅっぴゅって射精するところ……見せて……?」  射精をおねだりしているような甘えた声。  脳髄まで犯す甘美な音色に、促されるように精液が管を上ってくる。 【兄】 「くっ、ぅあ……ッ!」  びゅっ、びゅるる!! びゅく! ビューッ!!  聞かすまいとしても漏れてしまった声も厭わず、優衣の前で精液を  撒く。  腰が浮き上がり、空中で何度も震え暴れる。  浮いた腰の脈動に合わせるように宙で暴れ回る逸物は、暗闇でも分  かるほどに白く濃厚そうな精液を多量に飛び散らす。 【優衣】 「ぁ……ぁ、ぁ……、――っ、ぁっ! ぅあっ! んっ! っ……!  はぁっ、でた、でたぁ……。せーえき…………にーさんの……」  【優衣】 「はぁぁ…………すごぉ……。兄さんの射精……はぁぁ……」  兄の射精を見つめ、肩口で熱い息を吐く。  胸にまで散ってきた精液の熱さと同じくらい熱を持った吐息をつき、  優衣はおずおずと口を開く。 【優衣】 「あの……兄さん……?」 【優衣】 「手、放してもいい?」 【兄】 「え……」  射精の快感に思わず優衣の手を握り締めていた。  恋人繋ぎでは、思うように振りほどけないのだろう。  若干の惜しみから握った手を緩められずにいると、続けて言う。 【優衣】 「このままじゃ、顔に散った精液が口に入りそう……」 【兄】 「あ……っ」  慌てて放す。 【優衣】 「……ありがと」  優衣は特に慌てたようすはなく、落ち着いた所作で顔を拭う。 【優衣】 「ぬるってしてる……」  指先で弄ぶ音。  手を拭くものがなく持て余しているようだ。  ベッドの横にあるティッシュに手を伸ばす。 【優衣】 「……………………すんすん」 【兄】 「こら……!」 【優衣】 「っ、あ。ご、ごめんなさい」 【兄】 「なんで嗅ごうとするの……!」 【優衣】 「ちょっと、興味本位で。たはは」  たははじゃないでしょ……。 【優衣】 「あー……兄さん? ティッシュもらえる?」 【兄】 「あぁ」 【優衣】 「……ありがと」  指先を拭う。 【優衣】 「……こっちは」  視線を下げる。 【兄】 「あっ、自分でやる」 【優衣】 「あ、ぁ、そう。……安心した」 【優衣】 「ついでに拭いてくれとか言われたら、どうしようかと思った……」 【兄】 「い、言わないって」  いそいそと胸に散った精液を拭く。  一枚じゃ到底足りず何枚も続けて消費する。  陰茎に散った残骸も、ティッシュが残らないように慎重に処理して  いく。 【兄】 「ゴミ箱……」  優衣が占領する向かい側のそばにゴミ箱は置いてある。 【優衣】 「あ、ごみなら私が……」 【兄】 「い、いや、いいです」 【優衣】 「いいから。私なら手を伸ばすだけだし、兄さんはじっと……ぁ」  無視して体を動かす。  向こう側に手を伸ばすため、優衣を抱きしめるような形になった。  小さく反応する優衣をよそに、ごみ箱へ投げ入れる。  反転して元の体勢に戻ると、優衣が呟く。 【優衣】 「……お腹に当たった……」  小さすぎるが確かにそう聞こえた。  いつまでも晒している理由はない、さっさと仕舞っておこう。  下ろしたパンツを上げ、開けたパジャマを着直す。  膝元まで追いやっていた布団を手に取り、お互いの肩まで持ち上げ  る。  終始、無言の状況が続いた。  胸に残る後悔の念。  それと同居する快楽の余韻。  それがまた罪悪感を助長して、気分を下げる。  いままでに感じたことのない圧倒的な快楽。  それが故、快楽に負けてしまったという罪悪感。  言葉にできない。  早く眠ってしまいたい。 【優衣】 「……兄さん」  か細く聞こえた声。 【優衣】 「あの、………………どう、だった?」  感想を求められているのだろうか。 【優衣】 「気持ちよかった?」 【兄】 「それは……まあ」 【優衣】 「そう……。てことは、ちゃんと性欲の処理になったのね」 【兄】 「……でも」 【優衣】 「……? でも……?」 【兄】 「……凄い罪悪感」 【優衣】 「……罪悪感?」 【兄】 「こんなところを妹に見せるとか、あまつさえオナニーを見せるとか  ……はぁぁ……やっちまったなあ」 【優衣】 「罪悪感……。……ざいあくかん」  俺の言葉を反芻するように繰り返し呟く。 【優衣】 「……これは、罪じゃないわ」 【兄】 「そりゃ、犯罪かって言われると悩ましいところだが」 【優衣】 「そうじゃない。犯罪かどうかって問題じゃないの」 【優衣】 「兄さんのしたことは、別に罪じゃないわ。だって、誰も苦しめてな  いもの」 【優衣】 「兄さんは私がいつもベッドにいるから性欲の発散ができずにいた」 【優衣】 「それなら、ベッドにいようがいまいが発散できるようにしましょう、  っていうのが今回の趣旨」 【優衣】 「私は嫌じゃなかったし、……興味もあった。兄さんも……戸惑いは  あったけど、私がいいと言うならと承諾した」 【優衣】 「兄さんの意思は、私の意思ありきのもの。私が嫌と言えば駄目で、  良いと言えばオッケー」 【優衣】 「なら、兄さんの罪は私の気持ち次第のはず」 【兄】 「あのな……俺はそういうんじゃなくて、道徳的な――」 【優衣】 「いい? 兄さん」  言葉に割って入って制してきた。 【優衣】 「道徳は人との生活の上で守らなければならいないもののこと。  万人と接する上で、社会を生きていく上で必要なものよ」 【優衣】 「別に、私と兄さんの間を縛るものじゃないわ」 【優衣】 「誰彼と……っていうのは問題でしょうけど、私と兄さんとだけなら  ……特に問題はないんじゃないかしら?」  また小難しい理論を展開し始めた。 【優衣】 「道徳に反するとしても……秘密にしておけば……くすっ、もーまん  たいっ。……でしょ?」  少しおどける優衣。  これが我が優衣の常套手段だ。  少々凝ったような話をして、反論しにくい場を展開して俺を言いく  るめる。  これは俺を手なずけるのが目的で、話の結論はどうでもいいのだ。  彼女も本気では言っていない。  道徳とはなんぞや、とか。  罪とはなんぞや、とか。  そんなことはどうでもいいのだ。  優衣が言いたいのは、『気にすんな』ってことだろう。  だからだろう、念を押すように優衣は続ける。 【優衣】 「これだけはお願いがあるの。有耶無耶にしてギクシャクしてしまう  のが嫌だから言っておく」 【優衣】 「今日したのは、私が無理にお願いしたからよ。いつもみたいに、兄  さんを言いくるめただけ」 【優衣】 「だから……私に負い目を感じないで。罪悪感を覚えないで」 【優衣】 「今日寝て、起きて……また日が昇ったら、ちゃんといつもみたいに  接してほしいの」 【優衣】 「今日までの私と兄さんの関係を、ね」 【優衣】 「ちょっとは変になっちゃうかもしれないけど、これだけは守ってほ  しいの」 【優衣】 「負い目を感じて、いままでの生活に支障を来たさないで。  ……ね? オーケー、兄さん?」  優衣も、きっと俺と同じ心境だ。  とんでもないことをしてしまったという罪悪感を覚えている。  けど、そこで踏みとどまってはいられない。  人生は坂道だ。登り続けなければならない。  立ち止まっては、下手すれば滑り落ちてしまう。  優衣は怖かったんだろう。  ちょっと興味本位で脇道に反れただけで、氷のような表面の坂道に  変わってしまうのが。  私生活に否が応でも関わる、兄妹という関係の破綻が。  だからこそ、あえて杭を打った。  登るのが困難になっても、それでも滑り落ちることだけはしまいと  した。  優衣の言葉にはそういう意味合いが込められていた。  たった一人の妹であり、たった一人の兄。  長い年月の内のたった数十分で、兄妹間に大きな亀裂を生む可能性  に恐れ戦いたのだ。  さりとて、それは俺も同じこと。  相互理解を得られたのならば、行動も易しってことだ。 【兄】 「……わかった」 【優衣】 「……うん、ありがと」 【兄】 「こちらこそ」  ……夜は更けていく。  異常な夜も、明ければ終わる。  妙な夜だったという思い出だけが残る。  そのはずだ。

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