Track 201

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2.1 唾垂らし

2.1 「唾垂らし」 【優衣】 「っ……わ……。…………びくびくしてる」  もはや恥じらいも見せず、優衣は目新しいものを見るように隆々と  した陰茎を直視する。 【優衣】 「もっと近くで見てもいい?」 【兄】 「え」 【優衣】 「……具体的には、太ももに頭を預けるぐらいの距離で……。  ……どう?」 【兄】 「……ま、まあ、いいけども」 【優衣】 「……それじゃ、失礼して」  ずりずりと足のほうへ後退していく。  脚の付け根までくると、宣言通り太腿に頭を預けてきた。  人に触れられることの少ない箇所だ。  それに……距離も近い。  気が昂る。 【優衣】 「うわー……、へぇ……。まるで生き物みたい……ふぅん」  吐息がかかる。 【兄】 「お前、ちょっと近すぎないか……?」 【優衣】 「え? あぁ、大丈夫。当たらないように気を付けるから」  いや、それならむしろ当たってほしいような……。 【優衣】 「……始めていいわよ?」  懇願するように促されて、俺は手を伸ばした。 【優衣】 「……」  眠たげで興味のなさそうな目。  それでも、月明かりに照らされた顔は上下する手を追っていた。  動きに合わせて目が動き、じっと焦点を合わせている。  興味がないような薄い態度だが、真剣そのものだ。  それに応えるように逸物が反応する。  吐息のかかる距離に優衣の顔がある。  根元に下がったときに、ちょっと角度を変えてやれば唇に触れる…  …そんな距離。  ……これはオナニーだ、優衣に当ててはならない。 【優衣】 「不思議な形……」 【優衣】 「男女の外見だけでは特に大差ないけど、ここだけはやっぱり………  …はふ。……全然違う……」 【優衣】 「私にはなくて……兄さんだけが持ってるもの」  ほう、と息を吐きながら呟くからたまらない。  わざとやってるのか……? 【優衣】 「……ちょっとごめん」  上下する右手を制する。  そのまま顔を亀頭へと向かわせる。 【兄】 「ちょ」  まさか、と思ったが、顔は触れるか触れないかの位置で止まった。 【優衣】 「すぅぅ…………っ、……っはぁぁ…………」 【優衣】 「ん……あまりにおわないわね」 【兄】 「それは……まあ、風呂上りだし」 【優衣】 「あ、そっか。お風呂上りだしね、納得だわ」  そう言ってまた太腿に頭を置く。 【兄】 「なんだったんだ……?」  訊きながら手を動かす。 【優衣】 「……ちょっと、気になって」 【優衣】 「さっき、兄さんのにおいを嗅いだとき……なんとも言えない感覚に  なったの。不思議な感覚……」 【優衣】 「ペニスのにおいを嗅いでもそうなるのか気になったから、ちょっと  ね」 【優衣】 「残念……また、お風呂に入る前に嗅ぎましょ」 【兄】 「えっ」  それって、また今度もあるってことじゃ。  しかも、風呂前ってことになると……寝る前じゃなくなるんだが。  どういう状況で嗅ぐつもりなんだ。 【優衣】 「……言葉の綾」 【優衣】 「深くは考えない」  俺の様子に気付いたのか、即座に補足される。  てっきりタガが外れて、私生活においても異常な兄妹関係を築きた  いってことかと思った。  思惑が外れて、嬉しいような残念なような。  結局、これは就寝前にだけ行わなれるもの。  人間活動を終え、就寝するその一歩手前でだけ俺たちは異常となる。  それ以外では、普段どおりの日常を送るんだ。  そうしなければならない。 【兄】 「わかってる」 【優衣】 「……どうだか。期待したような嬉しそうな顔してたくせに。  ……すけべ」 【兄】 「ぐっ」 【優衣】 「……さすがに駄目よ、私生活にまで及んじゃ。  これは……寝る前の、ベッドの上でだけ許されるの」 【優衣】 「絶対に……駄目なんだから」 【兄】 「わかってるって」  そんな普通の会話をしていても、萎える気配は全くない。  陰茎を見せている。他人に、しかも実の妹に反り返った本気の逸物  を見せている。  こんな状況じゃ、いくら心を落ち着かせようとしてもこちらは落ち  着かないだろう。  会話していても話など集中できるはずもなく、動く唇、吐息、声…  …それらをすべて性的興奮に変えていった。  下腹部の奥から疼くような心地いい感覚。  見られながらの行為は、たった一度きりだったが完全に嵌ってしま  っていた。  背徳感を伴う自慰は、まるで麻薬だ。  じっと逸物を見つめていた優衣が、ふっとこちらを見た。 【優衣】 「……」  なぜか口角を上げてはにかんだ。  その表情に体に電気が走る。  優衣の笑顔に精液をぶちまけたい衝動に駆られる。 【優衣】 「……兄さん? ……今日のオカズはなに?」 【優衣】 「どんな妄想をしてる……?」  ……このタイミングで訊いてくるのか。  このまま素直に思いの丈をぶちまけてはマズい。  前回はこれで墓穴を掘った。 【兄】 「お前の唇」 【兄】 「唇を見てる」  ここは部位だけを述べておく。  その唇を使ってどんな妄想を巡らせているのかは隠して。 【優衣】 「わたしの唇をオカズ……?」 【優衣】 「なにそれ」  照れているのがわかった。  表情を隠すようにフイと顔を逸らし、頬を太腿に乗せる。 【優衣】 「……変態」  優衣は俺のことを純情だの初心だのと評していたが、それは自分の  ことでもある。  彼女は自分の想定していない角度からの目線に弱い。  普段は軸のブレない性格をしているにも関わらず、布団の中ではこ  んな具合だ。  内心、嬉しくもある。  親ばかならぬ、兄ばかと言ったところか。 【優衣】 「あ……出てきた」  優衣が逸物の変化を目敏く見つける。 【優衣】 「兄さんのよだれ」  茶化すように言った。 【優衣】 「この前はこれを使って……根元から滑るようにしてた……わよね。  ストロークを大きくできる……潤滑油?」 【兄】 「そうだな……」 【優衣】 「ふうん」  そっけなく返事をして、先走りが漏れる鈴口を見つめた。 【優衣】 「じゃあ……唾でもいいのかしら……」  ドクン……とした。 【兄】 「……垂らして、くれるのか……?」 【優衣】 「え……? ぁ…………。  ……垂らして……ほしいの?」  頷く。 【優衣】 「でも、もうえっちなお汁が垂れてきてる」 【兄】 「いいから」 【優衣】 「……」  言葉に窮した。 【優衣】 「……わかった」  渋々、といった様子で答えた。 【優衣】 「兄さんってば、汚いのが好きなのかしら」  違うよ。 【優衣】 「……」  もごもごと口を動かす。  適量が口内に溜まるまで待ってくれる健気な行為に少々感動する。  こちらを見た。  ほんとにいいの?という目だ。  俺は根元を押して、先端を向ける。  優衣はそれを受けて、舌を出しながら唾液を垂らした。  その一連の流れが日常から逸脱した淫猥なものに思えて、体がぞく  ぞくと震える。  唾液が亀頭の上に落ちてくる感覚だけで背筋が反りそうだ。  枝分かれしながらカリ首や裏筋を撫でて、根元を握っている指に落  ちてくる。  逸物全体が優衣の唾液塗れ。  その事実が俺を興奮させた。 【優衣】 「――ぇぅ……、ん……はぅふ」  舌先から糸を引いていた唾液が切れて、優衣は息をついた。 【優衣】 「……ほら、続けて」  待ってましたとばかりに手を動かす。  唾液が亀頭に垂れた瞬間から下腹部の緊張はピークを迎えていた。  じっくり優衣の唾液を堪能したいが、そうも言っていられない。  指を持ち上げて、優衣の唾液でカリ首を弾くだけで視界がチカチカ  してくる。  中途半端に味わっていたら満足できずに終わってしまう。 【優衣】 「ぅ、あ」  先ほどまでとは違う手の動きと激しい水音に目を丸くする優衣。  もしかしたら弾き飛んだ汁が優衣にも掛かってしまっているかもし  れない。  暗闇で確かめるすべはないが、その可能性を考えるだけでも気が昂  る。 【優衣】 「そんなに嬉しそうに動かして……。  ぁっ……凄い音……」 【優衣】 「……ふふっ。……兄さんったら、気持ちよさそうな顔しちゃって…  …」 【優衣】 「そんなに妹の唾液がいいの? 妹の唾を使っておちんちんシゴくの  が、そんなに気持ちいい?」 【優衣】 「こんなに反り立たせちゃってぇ…………あんっ。ふふっ、体ごとお  ちんちんびくびくーって震わせた」 【兄】 「っ、く……!」  優衣の聞き慣れない単語に一つ一つ敏感に反応してしまう。 【優衣】 「……兄さんの手が私の唾液を使って……ぅぁ、カリ首を弾くたびに  『ぷちゅっ、ぷちゅっ』って……エッチな音」  優衣の実況の相乗効果で逸物が敏感に跳ね回る。 【優衣】 「…………兄さんのおちんぽ……気持ちよさそ……」  純粋無垢な感想。  甘美な音色に聞こえて、脳が溶けてしまうそうになる。 【兄】 「っ、は……! くっ……、もう……!」 【優衣】 「あ……、……イく? もう出る?」 【兄】 「あぁっ……!」  肯定とも喘ぎとも取れる返事をして、優衣は微笑む。 【優衣】 「そか。……うん、いいわよ」 【優衣】 「それじゃあ……兄さん。  リラックスしながら、気持ちよくなりましょう?」 【優衣】 「まあ……女の子の体に、妹に……抱き付かれるだけで興奮しちゃう  兄さんが、リラックスできるとは思えないけど」 【優衣】 「でも、心を満たされながら、幸せな気持ちで……なおかつ興奮しな  がら性欲を処理できるんだから……それって贅沢で、恵まれてない?」 【優衣】 「恋人がいれば万事解決だけど……兄さんには無理だものね」 【優衣】 「自分で自分を慰めることしかできない……。……だから、代わりに  私が……兄さんの心を満たしてあげるから……だから、存分に」 【優衣】 「おちんぽ……ぴゅっぴゅって、しゃせーしてみせて?」  まるで兄の一芸を披露してほしいような表情。  太腿の付け根に絹のような肌をすり寄せ、優衣が射精の芸をせがむ。  あがらえない。 【兄】 「っ、で――っ!」  ――ぶちまけたい。  ビュッ! ビュルッビュッ! ビューッ!! ビュゥーッ!! 【優衣】 「っ、ひゃ、ぅ……ぁ、ぁっ、あ、あっ……」  体を反って、腰を突きだしながらの射精。  身体の髄から精を吐き出しているような錯覚。  浮いた腰に体を持ち上げられて可愛らしい声を上げている。  その声を上書きするように、ひとつまたひとつと白濁の穢れを吐き  出す。  悦ぶ逸物を搾り、精管に残る最後の一滴まで完全に漏らしていく。  性感にふわふわとした体の感覚。  ぼんやりとした意識の中、逸物を押す親指に異常に力の入っていた  手を体に置いた。 【優衣】 「……また顔に掛けたぁ」 【兄】 「あ……」  射精の瞬間、咄嗟に先端を優衣に向けていた。  俺の考えよりも先に身体が動いていた。 【兄】 「す、すまんっ!」  余韻を味わうのも忘れてティッシュ箱を差し出す。  優衣は『ぅーぅー』唸りながら顔や髪についた精液を取っていく。  その光景に一瞬胸がズキンとするような感覚に襲われる。  これは嗜虐心? それとも支配欲によるものか……。  考えるのは後にしよう。  あらぬ方向に向けたせいで被害は布団やシーツにまで及んでいた。  理性と異なる判断を犯すと大抵後悔する結果になる。 【優衣】 「……なんで射精するとき、私に向けてきたの……?」 【兄】 「えっと」  髪に飛んだ精液の処理に手間取っている優衣が俺を恨めしそうに睨  んでくる。 【優衣】 「お陰でぬるぬるよ……、もぉ……」 【兄】 「すまん……」 【優衣】 「……なんとなく、した理由はわかるけど」 【優衣】 「今度からは……気を付けて」 【兄】 「あ、うん」  今度、という言葉に思わず適当な返事をしてしまった。  そう、これはもはや恒例行事となるのは確定していた。  今日は許すけど、次からは許さない。  それは優衣からのお情けであり、チャンスである。  ……それを俺は、またぶっかけられる“チャンス”という風に捉え  てしまうのだから、もう引き下がれない。  このまま禁断の沼地に足を踏み入れてしまうのか。  ……いや、すでに片足は突っ込んでいる。  もう……ズブズブと沈んでいくだけに思えた。

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