トラック01 出会い
やれやれ、騒々しいな
ここは図書室だよ
雨宿り?ああ、つい今さっきになって急に降り出したね
しかし、真夏と言うわけでもないのにこんな嵐なんて
しかも今日の天気予報は降水確率に30%の晴れだったはずだが…
ときに君、制服や顔を見る限り部活動…というわけではなさそうだが
なんでこんな時間に学校にいるんだい?
クラスでひとりだけ居残りをさせられていたのかい
不真面目なのか、きみは
まったく、君のようなタイプはこの学園に似つかわしくないな
よくもまあ入学できたものだ
あ、僕かい?僕もまあそろそろ帰ろうとしていたんだが
この嵐の音に気がついたらすっかりこの図書室にひとりになっていてね
もうすぐ閉門時間だが帰るに帰れなくて途方に暮れていたところだよ
外がこんな嵐じゃ、ね
傘を開くのはおろか車すら走れまい
今この学園には残業で帰り損ねた先生方と、警備のおじさんと、
そして僕たちしかいないんじゃないかな
こんな時間に校内にいるところを見つかったら何を言われるやら
どうだい?どうせ今は外に出られないんだ
君もここで時間をつぶしていくかい?
幸いここには本がたくさんあるし、現状にはもってこいの空間じゃないかな?
君、その本を手に取るとはなかなか分かっているじゃないか
もしかして君もよく本を読むのかい?
なんだ、適当に目についたものを取っただけか
君は一見活発そうだがよくみると本が好きそうな…
いや、一見本がすきそうだがよく見ると活発そうな…
よくわからない雰囲気だな、君は
ときに君は名前…名前はなんていうんだい?
おっと、失礼。聞こえなかったよ
もう一度お願いできるかな
ハハッ、面白いやつだな、君は
自分の名前を名乗るだけなのにどこまで機会に恵まれていないんだい?
失礼、気に障ったかな?すまない
自然を味方にしてまで僕を笑わせてくれる君がおかしくって
いや、もういい
君は君でいい
これはもう神様がそうであれと言っているに違いない
それに、初対面の二人が二人きりの空間で
互いが互いの名前を知らないままと言うのも
ミステリアスでおつなものだろ?
って、おやおや
その本、もう閉じてしまうのかい?面白いのに
よかったら僕が解説、してやろうか
ああ、せっかくだしさ
サンキュー
この本はね、僕たちが存在するこの世界が
いかに何者かによって作られたものであるかってことを説明してくれている本なんだ
って、おいおい
いきなりそんな顔で僕を見るなよ、傷つくじゃないか
少なくとも君がこの棚からこの本を手に取ったということは
この背表紙のタイトルに引かれて手が伸びた、とかそんなところだろ?
どうせ今は帰れなくてお互い暇なんだ
この本、僕に解説させてくれよ
ありがとう、立ち話もなんだからそこの椅子にでも座ろうじゃないか