夜中_民宿の部屋にふたりきり
ね。入っていい? まだ起きてるでしょ?
こんばんは。
よかったぁ。部屋間違ってなくて。
本読んでたんだ。今大丈夫?
やったぁ。
ほんとにあんたも民宿の中に泊まってるんだね。
さっきスマホでここのサイト見たけど。
この部屋って、一番立派な客室じゃない?
大事にされてるんだね。
へぇ。
じゃあ、普段はお客さんみたいにこの部屋で自由に過ごして。
ご飯の時は伯父さん達と一緒に食べてるんだ。
VIPだね。
あ。あたしはね。隣に泊まってる。その方がいいだろうって言ってくれて。
ていうか弥映でいいよ。
敬語も使わなくていいし。
『ここにお世話になってる身』って意味では対等でしょ?
『弥映さん』? なんか固くない?
『弥映ちゃん』?
ふふ!
はーい。弥映ちゃんです。
あのね。あたし、お菓子持ってきたんだよ。食べて。
お礼。
ねぇ。なんかあたし。
伯父さんと伯母さんの中では『あんたを変質者から助けた親切な人』ってなっててびっくりしたんだけど。
よくわかんないけど、そういう出会い方した事になってるらしいよ?
靴もその時壊したんだって。
泊まる部屋の事も。あんたが色々かけあってくれたんでしょ?
隣、すごい立派で。なんか不思議な力が働いてる気がするんだよなぁ。
もしかして。心配してくれたの?
ふふ。
靴はマジに転んで折っただけだから大丈夫なのに。
ほんとに優しいね。もてるでしょ。学校でも。
あはは、お母さんキャラ?
それ、相当愛されてるよ。
ありがとう。あんたに会えて、あたしほんとにラッキーだったな。
へへ。それだけ。それが言いたくて。
邪魔してごめんね。
これは全部あげる。
え? だって、本読んでたんじゃないの?
いいの? 居ても。
じゃあ。居る。
ふふ。ありがと!
お邪魔しまぁす。
あ。
じゃあ、アイス頂戴。
もぐもぐもぐ……。
ふふ。冷たい。
おいしいね。あたし、アイスはナッツが入ってるのが好き。
ね。あんたの好きなのはあった?
なんか色々買っちゃったんだけど。
ほんと? よかったぁ。
そう。伯母さん達に場所聞いて、そこのコンビニで買った。
とんでもない。喜んでくれて嬉しいよ。
そうだ。あんたって、やっぱりこの辺の子じゃなかったんだね。
今ご両親海外で、夏休みはここに預けられてるんだって?
伯母さん達が教えてくれた。
あ、そんな深くは聞いてないよ。
やっぱり勘が当たったなとは思ったけど。
んー。だって。
都会的? ビジュアルが。
だから、旅行とかで来てる子かなって。
あは。やったぁ。
あたしね、何となく『こうじゃないかな』と思った事、結構当たるんだよね。
あんたの事もね! 一目見ただけで、絶対いい子だと思ったの。
これも正解だったでしょ?
へへ。
……あれ、この本。
うん。あたしも読んだ事ある。
懐かしいなぁ。結構古い本だよね。
この人の小説、いつも表紙の写真が綺麗だよね。
あたしも、あんたよりちょっと上位の年の時に、ジャケ買いしてはまったんだ。
うん。好き。この人が出してる本、大体読んだと思う。
そうなんだ。
でもいいの?
この話掘り下げて。
振ったあたしが言うのもアレだけど。
この人の本って、パッと見おしゃれだけど、どれもエロいよね。
特にこれは相当どぎつい方だし。
ふふっ❤
もぉあんたってさぁ。すっごい真面目でお堅そうなのに。
実はやらしい事ばっか考えてるでしょ。
でも女もあるよね。普通に性欲。
まぁ、あんま外ではバラさない方がいいけどね。
言ったじゃん。おかしな人が声かけてきたら大変だよって。
うん。それだけ。
後はまぁ、信頼できる人とならいいんじゃない?
そういう話しても。
ほんとにそれだけだってば!
あ、なるほどね?
わかった。
バレたら何かされると思ったんだ。
しないよ。
ていうかあたしも読者だし。
仮にエロいのが罪なら、あたし達同罪じゃない?
あはは。めっちゃホッとしてる。
可愛いね。
さっきもてないって言ってたけど。多分それ気付いてないだけだよ。
だってあたし、あんたみたいな人好きだもん。
さっきさぁ。ほんとは地味に泣きそうだったんだよね。
道わかんないし足痛いし。
でも、あんたが助けてくれた。ほんとに神様かと思った。
普通にすごいって思ったんだ。
あんな風に、自然に人に優しくできる事。
しかも、会ったばっかの怪しい女に。
……だから。
気が変わった。やっぱり何かしてみるのもいいかも。
しよっか。本に載ってるみたいな事。
……だって。
ここに書いてあるのも。あんたが川原で夢中になって見てたのも……。
女同士のセックスでしょ?