海月と出会った日
ん、あれ、そこのあなた・・・?
えっと・・・ああ、やっぱりそう。
見覚えのない車がこのおうちに向かってたから
もしかしたらって思ったんだけど・・・
今日こそは会えるかもって思ったら本当に会えたの!
えへへ・・・久しぶりだね。
えっと、5年、10年・・・もっとたってるのかなあ?
でもわたし、ちゃんと一目であなただってわかったよ。
え、誰って・・・わたしのこと覚えてる?
うみのつき、うづきってあなたは呼んでくれた・・・わかるかなあ。
覚えてないの?うぅ、残念・・・。
人違いじゃないよ。
あなた、おひざの裏にキズがあるでしょ。ちっちゃな丸い二つ並んだ赤いあと。
えーっと・・・ここに、えへへ・・・ほら、あった。
あ、ううん、気にしないでほしいの。
もうずーっと前のことだもん。
忘れちゃっても仕方ない。
ひとのきおくはそんなに保たないって知ってるもの。
あのね、あなた、ちっちゃい頃にもここに来たことがあったでしょ?
その時にわたし、一緒に遊んだの。
そう、それ・・・おさななじみ、っていうの?それだよ。
どうかな・・・思い出せそう?
浜辺のおうち、麦わら帽子、貝殻拾い・・・
あなたは大きな巻貝を見つけてはしゃいでたの。
耳にあてると波の音がする。
海の中にいるみたいって・・・言ってた。
なんとなく・・・ぼーんやり、そんなこともあったような・・・?
えへへ、いいの。
ちょっとだけでも思い出してくれたら嬉しいから。
今回はすぐに帰っちゃうってことないのかな・・・?
むしろ暇・・・?ひとりなの?良かったあ。
明日・・・もし他に約束がなければでいいんだけど・・・
また、会って欲しいの。
もっとあなたとお話したい。
おうち・・・誘ってくれるのは嬉しいけど、それはだめ。
今からもあなたのおうちも・・・だめ。入れない。
わたし、もう帰らなきゃ。
約束ね。
明日のお昼、ここの坂を一番下まで下って右に曲がって・・・
砂浜に降りる階段の前の青いベンチ。そこで待ち合わせ。
そこから先はわたしが案内するから。
あなたと行きたい所があるんだあ。
左に行けって書いてあるけど・・・右なの。間違えちゃだめ。
うん、右だよ・・・みーぎ。まちがえないでね。
じゃあ、指切り。小指出して。
ゆーびきりげーんまん
うそついたらはりせんぼんさしちゃうぞー・・・あれ、違った?
ええー、刺しちゃうでいいよお・・・飲ませるなんて無理だもん。
えへへ・・・ちっちゃい頃のあなたにも
「違うよ、はりせんぼんのますだよ」って言われたんだった。
くすくす、面白いなあ。
・・・あのね、明日のことは二人だけの秘密にして欲しいの。
おうちの人にも、他の誰にもないしょ。
理由は・・・うーん、大人はひみつを作るものだから、なの。
えへへ、おかしい?
でも、あなたと秘密を作ったらきっと楽しいだろうなあって・・・おねがい。
ありがとう。
あなたはやっぱり優しいね・・・じゃあ、また明日。