Track6:ほゆるとおねんね
;布団に潜って以降はずっとウィスパー、安眠誘導最優先でお願いいたします
;3/右
【ほゆる】「ん…………」
;SE もぞもぞと布団にもぐる
【ほゆる】「(くんくん、くんくん。すぅううーーー。はーーーーー)」
;環境音。川沿いの室内。扇風機オフのまま F.I.
【ほゆる】「……わふふっ、よかにおい。
おひさまにほしたお布団と、おにいさんの香りがまじった匂い」
【ほゆる】「あぁ……(穏やかな呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」
【ほゆる】「とおい昔も、ほゆる、こぎゃんしとったと。
あったかに、ととさまとかかさまに挟まれて……
家族三人……川の字で……」
【ほゆる】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」
【ほゆる】「ほゆる……庄屋の……お金持ちのおうちのこやったけんね?
大事に大事に、甘やかされて、真綿でくるまれて育ったこやったけん――」
【ほゆる】「いんがめと重なりおうて、気がついて。
だぁれもおらんで……
村も、生まれた家も荒れ果てていて――
桐の箪笥と着物たちだけ残されて――
どぎゃんすればよかとか……ちょっともね、わからんかったと」
【ほゆる】「途方にくれて立ちすくんで――
涙の一滴もでてこんで。……日が暮れて、寒ぅなって――
風が吹いて――
そしたらね? 風の中。やさしい匂いがまぎれとるような気がして、ね?」
【ほゆる】「夢中になって、歩きだしたの。
市房山(いちふさやま)の高くへ、どんどん。
登れば登るほど寒くなって、けど優しい匂いは濃くなって――」
【ほゆる】「……そうして、ほゆる――いんがめ、ね?
ゆきちゃんに――市房山の雪御嬢――やさしかゆきちゃんに、出おーたと」
【ほゆる】「ゆきちゃん、まっことやさしゅうて。
記憶もみよりもなぁんもかんもをなくしてしもうたいんがめにもとってもやさしゅうて。
しゃくしゃくに凍った川魚とか、
しゃりしゃりの凍った木の実とか、たくさんたくさん食べさせてくれて」
【ほゆる】「凍ってるのにあったかくって、おいしくって、うれしくって。
だけど身体はどんどん冷えて、ぶるぶる震えて――
いんがめ、ね? わけのわからん具合になって――
そんときはじめて――涙ばぽろぽろ、こぼれてきたとよ」
【ほゆる】「したらゆきちゃん、いんがめがこぼした涙を凍らせて、溶けない氷みたいな粒にしてくれて――」
【ほゆる】「『ふもとの村の村長に、こん氷粒ばもってって、
“市房山の雪御嬢のやしない子”やいうたら、
しばらくは面倒みてもらえるけん』って……」
【ほゆる】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」
【ほゆる】「……ゆきちゃんと、ホントはずうっといたかったばってん、いんがめ身体が弱りまくって、ゆきちゃんのすみかの寒さに耐えきれんくて――
ゆきちゃんの教えてくれたとおりに、ふもとの山ば、下りてって――」
【ほゆる】「……ゆきちゃん、ふもとの村でえらいこと信心されとってな? いんがめそこで、人間にまぎれてくらしていけるようになったとよ――
いろんなことを覚えるたびに、ゆきちゃんのとこ訪ねていって、覚えたことを教えてあげて――」
【ほゆる】「あんころは……ふふっ――まっこと毎日たのしゅうて。
嫌なことなんてたったひとつも――あ……ううん。
たったひとつだけ、いやいうか、残念なことはあったなぁ」
【ほゆる】「いんがめ……目覚めた、いうか気がついたときには心細くてなぁんもできんで――そこにふわっと――ゆきちゃんのやさしか匂いが漂ってきて――必死になって」
【ほゆる】「……(呼吸音)――他のことぜぇんぶ、頭からすっとんでしまっとったけん……
ととさまとかかさまが遺してくれた桐の箪笥と着物たち。
『あっ』て思って取りにもどったそんときにはもう――
あとかたもなく、どこかに消え失せてしもとって……」
【ほゆる】「……けど、あんとき着物にこだわって……
ゆきちゃんの匂いを見つけそびれてしもうとったら…………(呼吸音)――」
【ほゆる】「生き残れておらんかったか……
生き残れてても、もっといんがめに寄ったところに――
ほゆるってお名前のこと、きっと二度と思い出せんくらいなところに――ころげおちとった気ばするけん……うん」
【ほゆる】「あんときはあれで、一番よかったって思うし――
桐のたんすと着物たちに、ととさまとかかさまがこめてくれた願いはだから……
叶ったんと違うんかなぁって――今になったら、そぎゃん、思えて……」
【ほゆる】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」
【ほゆる】「……いんがめは、おおもとにあるのが人間やけん、人の思いとか恐れとか、最初からエサにしとらんけん――時代が過ぎて、ふもとの村ものーなっちゃっても、ほとんど影響ばなかったばってん……」
【ほゆる】「ゆきちゃんは、純粋な、ほんもののあやかしやけん。
人の恐れとか敬意とか――そういうものがのーなっちゃったら、溶けてきえちゃうあやかしやけん……」
【ほゆる】「ゆきちゃんのこと、無理やりものべのに引っ張ってきて――ふふっ。
ゆきちゃん素敵なつれあいみつけて、アイスクリーム屋さんまでひらいて」
【ほゆる】「たくさん、たくさんの人間に――
人間だけでのーて、あやかしやら、半妖やらにも、
アイスクリーム屋のおねえさん、いうて、慕われて」
【ほゆる】「あぎゃんたくさんの笑顔があったら、
ゆきちゃん、もう消えることもなかろーもんって思えるし……そこはいんがめ、よかことしたなぁって思ーとるんよ? え?」
【ほゆる】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ああ……。
半妖いうんは、人とあやかしの間にできた――人とあやかし、両方の性(しょう)を受け継いだ、そういう……人間でもあやかしでもある、でなきゃ、人間でもあやかしでもない、存在のこと」
【ほゆる】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――
ああ、まっことやねぇ。おにーさん、考えることおもしろかとねぇ」
【ほゆる】「もともとが人間で、犬神をけしかけられて、犬神に憑かれて。けれどどうしたはずみでか、犬神が馴染んでくれて、生き残ることができた、うち――ほゆる」
【ほゆる】「もう完全に重なり合うて、まじりおーて。
ほゆるはいんがめで、いんがめはほゆるやけん……うん」
【ほゆる】「おにーさんのいうとおり、ほゆるは、半妖――
まっことおかしなかたちの半妖……になりはてよったんやねぇ、たぶん」
;ぼそっとひとりごと →え? 以降対話に復帰
【ほゆる】「……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)
だから、なんかなぁ。ご開祖ちゃんに、いんがめは招いてもらえんかったの。
定住も、『したいんなら』て――え? ああ……ううん。
なんでもなかとよ。なぁんでも――ゆーか……」
;この辺からセリフに眠気をまぜていただけますと幸いです
【ほゆる】「……だとしても――ふふっ。
ほゆる、ものべのに来てよかったけんね。
ゆきちゃんがしあわせになるの、
一番近くで見守り続けることができたし、それだけじゃなく――」
;3/右 接近囁き
【ほゆる】「おにーさんに……
ほゆるにお名前思い出させてくれて、
ほゆるをぽかぽかにしてくれる――
あったかでおっきな匂いに、出会えたけんね――
ふふっ――ふっ――ぁ――(大あくび)」
【ほゆる】「……ぽかぽかすぎて、しあわせすぎて……もう眠たかと……おにーさんは? (呼吸音)(呼吸音)――
ふふふっ。おーんなじ。ほんならこのまま、眠っちゃおう……ぁ」
【ほゆる】「(照れてためらう呼吸)(呼吸音)(呼吸音)――(ごくっ)」
【ほゆる】「あん、ね? おにーさん。いまね? ほゆる、ほゆるやのーて、いんがめやけん」
;3/右 っ! で;1/前密着
【ほゆる】「こいば、たんなる――いんがめの、イヌの――
おやすみなさいの、あいさつやけん――っ!」
;1/前密着
【ほゆる】「(ダミーヘッドの鼻の頭あたりで『ぺろっ』と可愛い舐め音)」
;3/右
【ほゆる】「ふぁぁ……おいし――
やのーて、えと……その……」
【ほゆる】「(ふんわりやさしい微笑)――
おやすみなさい、おおきなにおいの、やさしいにおいのおにいさん」
【ほゆる】「おにいさんのねむりは、いんがめが必ず守るけん。
おにいさんの夢には、ほゆるがきっとよりそうけん」
【ほゆる】「やけん……安心……して――ふぁ……
安心……ば、して……ぐっすり……ゆっくり――」
【ほゆる】「ほんで……明日の……ふ、ぁ……
あさ……にも……きっ、と…………(小さなあくび)」
【ほゆる】「ん……(寝入りばなの寝息)*4」
【ほゆる】「(浅い寝息)*4」
【ほゆる】「(浅い寝息)*4」
【ほゆる】「(穏やかな寝息)*4」
【ほゆる】「(穏やかな寝息)*4」
【ほゆる】「(静かな寝息)*4」
【ほゆる】「(静かな寝息)*4」
;環境音 F.O