01_プロローグ・いつもの喫茶店
○トラック1
【襟子】
「Dウィルス?」
【襟子】
「あぁ……感染しちゃうと、いやらしい気分が抑えられなくなるとかいう、わけわかんない病気でしょ?」
【襟子】
「学園でもけっこう話題に上がるわよね。最近は日本でも感染者が増えてきてるから、ネットニュースでも特集されてるくらいだし」
【襟子】
「いや、そのドスケベ……んんっ! その呼び方、ネットスラングにしてもひどすぎだから」
【襟子】
「ここ、お気に入りの喫茶店なのっ。ヘンな目で見られたらもう来れなくなっちゃうでしょっ。Dよ、Dウィルスっ」
【襟子】
「名前の由来? 発見した偉い博士の名前がついてるって聞いたけど……はぁ、ほんと世も末よ。こんな馬鹿らしいウィルスが流行るだなんて」
【襟子】
「所詮は性欲でしょ? 食欲や睡眠欲に比べて、圧倒的に我慢の効く欲求じゃない。それくらい耐えられなくてどうするのよ」
【襟子】
「まあ、最近の研究では、ウィルスも一個の生物だから意思を持ってて、欲望に抗えない人間を選んでる……なんてことも言われてるけど」
【襟子】
「それも怪しいわよね。もし本当なら、学園のおバカな男子たちが感染しないわけがないし」
【襟子】
「クラスの女子の誰がDウィルスに感染したら面白いか、なんて話してるのよ? 信じられないわよっ」
【襟子】
「……しかも大抵、あたしが標的だし」
【襟子】
「……話題に上がるのは、あたしが可愛いから? いや、可愛いとか言う変わり者は、彼氏のあんただけよ。あたしが口うるさい風紀委員長だから、単純に嫌われてるの」
【襟子】
「……ま、煙たがられるのも今に始まった話じゃないし。どうでもいいけどね」
【襟子】
「あたしがDウィルスに感染したら面白そうだよな~、って。今日も男子たちが話してた。ほんっと下品。ふんだ、このあたしがそんなのにかかるわけないでしょ」
【襟子】
「……え? もし、あんたが感染したら?」
【襟子】
「そうね……もしそうなったら、し、仕方ないわ。あんたの恋人として責任を持って……ふふっ。いい病院、紹介してあげる♪」
【襟子】
「いや、えっちなんてしないから。Dウィルスをやっつけるには、性行為が効果的? それ、真に受けてるの? 普通に診察してもらいなさい。なんのために保険証持ってるのよ」
【襟子】
「どうせあれでしょ、『うっ! Dウィルスにかかっちゃった~』とか言って、えっちをおねだりするつもりだったんでしょ? あんたの考えることなんてお見通しなんだから」
【襟子】
「へえ? 感染すると、たった数時間で一気に悪化するケースもあるんだ? じゃあ今夜、大興奮したあんたから緊急連絡が入る可能性もあるってこと?」
【襟子】
「んー。試験勉強したいし、スマホの電源は切っておこっと。ふふん、残念でした」
【襟子】
「あたしたちは学生なんだから、本分は勉強でしょ。エッチは、本当に特別な時だけ。ま、お堅い女と付き合った自分を恨みなさい」
【襟子】
「あ……もうこんな時間。それじゃあ、そろそろ勉強、再開しましょ?」
【襟子】
「今日は遅くなっても大丈夫だから、みっちりやるわよ。うん。お母さんたち、連休中はずっと泊まり仕事だから」
【襟子】
「いや、勉強終わったら普通にバイバイするから。うちに泊まりたい? そんなこと許すわけないでしょ……あんた、話聞いてた?」
【襟子】
「あんまりガツガツしてると、女の子に嫌われるわよ? はい、わかったら気合いを入れ直して、ほら、テキストを開く! はい、頑張りましょ!」