08【1760文字】あの日の約束
おーい。何やってんの?
まぁ。何か最近嗅ぎ回ってんなとは思ってましたよ。
でもサリアちゃんは奴隷の自主性を尊重するご主人様だからさ?
放っておいたんです。
もう、諸々検討ついてんだよね。
いいよ。あたしの部屋までおいで。
そこ座って?
手短に済ませますから。
どうぞ。
あなたからドレインしたエネルギーが、この瓶に入ってます。
これを飲めば、あなたは元通り。
前みたいに冒険できます。
嘘じゃありませんよ。
だって、あなたが見てたのってあたしのカルテですよね。
もうわかってんですよね?
色々と。
あは。せっかくだからあなたの推理その二を聞きましょうか。
ようやく話せるようになった事ですしね。
どうぞ。何でも答えますよ。
はい。その通りです。
あなたがやたら気にしてる先代勇者ってのは、あたし。
三年前、勇者に選ばれてすぐに左腕と左足。
それから刻印を失って、以来ここに引きこもってる卑怯者があたしです。
だから四か月前、あなたに声をかけた。
代わりに選ばれたのがどんな子か気になったから。
でもあなたにとってのあたしって、諸悪の根源ですし。
だから正体を隠して『妖精さんだよ』なんて回りくどい事をしたんです。
それからはご存知の通り。
あたしはあなたの、姉? 先輩? 先生? 友達? 気取りで近づいて。
罪滅ぼしのためにあなたの冒険を手伝い。
あなたを好きになって。
『少しでも一緒にいたいから』なんて理由で機械人形のメンテナンスを怠り。
あの事件が起きました。
それでもあの機械人形には、緊急離脱の魔法が仕込んであった。
ぎりぎり救えたのは、そういう事です。
あなたを治療しながらあたしは思いました。
あなたはこんなに世界に尽くしてるのに、世界はまるであなたを愛さない。
だったら、そんな世界はもう守らなくていいんじゃないかな。
新しい勇者に任せればいいんじゃないかなって。
でも、あたしが本当に許せなかったのはあたし自身なんですよね。
あなたの事好きとか言いながら、肝心な時はまるで役に立たない。
そんな自分を変えたかった。
あたしでもあなたを守れる。
怪我を治して、食事を与えて、何不自由ない生活をさせて。
そう。まるでご主人様みたいに、あなたの暮らしを保障できるって。
つまりはただのエゴ。
あなたはこの一か月、あたしのおままごとに付き合わされてただけなんです。
でも傷も治ったし。
事の真相もわかった今、あなたがここにいる理由はありません。
退院おめでとう。
当然ご存知でしょうけど、あなたの刻印は無事です。
それを飲んで力を全部取り戻したあなたなら、サリアちゃんからなんて、余裕で逃げられますよ。
うん?
力が半分なら? 妙な事聞きますね。
一人で冒険するにはちょっと頼りないかもしれません。
今度こそ、新しい仲間を見つけるのがいいと思います。
はい。ぜひそうして下さい❤ ばいばい勇者ちゃん❤
え。何。何でこっちくんの。
んっ……⁉
んんぅっ、んっ……❤
けほっ、けほっ!
いきなり何するんですか!
ほとんど、飲んじゃったじゃないですか……!
あなた、自分が何をしたかわかってるんですか。
もしかして。
ええ。言いましたよ。
仲間が必要だろうって。
でも。どうして……。
あなた、話聞いてました?
あたしはあなたに全て押し付けたクズで、あなたを犯した犯罪者です。
あなたはあたしを殺したっていいんです。
なのに、何でこんな事すんの? 何でそんな事言うの?
何で。何で。何でっ……。
え?
ちゅ。
あ、
んっ……。
……あのさぁ。
あたし、お姫様とかじゃないから。
ちゅっ……ちゅっ。
キスしたら何とかなる生き物じゃないから。
ちゅ……ちゅっ。
ただの何もない、つまんない女だから……。
はぁ。
敵わないな。マジ。
それでもいいとか言われたら、あたしもうどうしようもないじゃん。
あなたはいつもそうだね。
そうやってあたしの選択肢を奪うの。
ご主人様とか奴隷とか言いながら、ずっと支配されてたのはあたしの方だった気がするよ……。
わかりましたよ。勇者様。
約束したもんね。
あなたがあたしを必要としてくれる限り。ずっと、ずっと。そばにいるって。
大好きです。
あたしで良かったら、約束を守らせて下さい。
つかさ。
いらなくなったっつっても付きまとうかもよ。
重いぞ? サリアちゃんは。いいのか?
うわ。むかつく。
ふふふ……。
ねぇ。もっかいキスして?。
ちゅ……。
ふふ。何か、初めてキスしたみたいな気分。
好きだよ……。