01
ご耳愛部2
…ようこそ、ご耳愛部へ。
そんなに驚かなくてもいいでしょ?
私は紬愛莉、このご耳愛部の部長よ。
ん? 何も幽霊を見た顔でとどまる事ないじゃない。
足だってあるし、夏の不可思議に迷い込んだわけじゃないわよ、ふふ。
ここはね、ちょっと心が疲れちゃったなぁって、下を向いてると、自然と道がつながるところ。
それが不可思議?
まぁいいじゃない、まだ陽も残ってるし、鬼灯(ほおずき)のあかりが見せる怪談話じゃないんだから。
ん、ああ、この浴衣ね。
今日は学校が決めた「浴衣デイ」でしょ?
なぁに、知らなかったって顔ね。
今日は私以外の生徒だって、幾人かは浴衣だったはずよ?
ほら、それに気づかないくらい、君はうつむきがちなの。
まぁ…見上げれば日差しが強いもの、それもいいわ。
せっかく来たんだし、ほら、私の横に座って、窓の外でも見てみない?
夏の色が踊ってるわ。
ご耳愛部は、ただ、そういうものをたしなむ場所よ。
ここは、森が近いから、窓を開けてると涼やかな風が吹き込んで、存外(ぞんがい)涼しいの。
ソファじゃなく、ベッドだから、少しばかり心地は悪いかもしれないけど、我慢してちょうだい。
はぁ…ふぅ…
こうして、何事もなく、ただ夏の声を聞いてるっていうのも、悪くはないでしょ?
ふふ、そうだ。
せっかくだし、君、私のご耳愛うけてみない?
何をする…そうね…おいしい水を飲むみたいなものよ。
大丈夫、怖いこともないし、痛いことも…ないはずだし、君はここ、ベッドに寝てるだけでいいの。
ん、見返りか…そうね、何もない欲しくないっていうのは嘘だし、それじゃ君も納得しないって顔。
だから…
私、紬愛莉は、君の安らいだ表情を所望するわ。