■第1話 担任教師編 進路指導と法律説明
はぁい、それじゃあ今日はここまでねぇ。 進路指導を受ける3人は 順番に進路指導室まで来て頂戴♪ ページ 2/129 他のみんなは、真っ直ぐ家に帰って しっかり今日の復習と、明日の予習をしておく様に。 受験も近いんだから、ゲームばっかりして遊んでちゃ駄目だよぉ? それから、恋愛も♪ 別に禁止してるわけじゃ無いけど みんな学生らしく、節度を守ってお付き合いする様に 分かったわねぇ? (チャイム) はい、さようならぁ、気をつけて帰るのよぉ♪ (※進路指導室) ページ 3/129 っと、今日の進路指導は君で最後かな…。 うん、第一志望はS校、第二志望がM校ってことでいいのね? ん~、君の学力じゃ…、S校にはまだちょっと届いてないみたいだから 今からでも必死に勉強しないね。 まあ目標を高く持つことはいいことよ。 とりあえず、次の進路指導の時までには 志望校をひとつに絞れる様に頑張ってね。 はい、それじゃあ、今日の進路指導はこれでお終い、お疲れ様…。 あっ…と、帰るのはちょっと待ってくれるかしら。 君にはもうひとつ、伝えておかなきゃいけないことがあるの…。 ページ 4/129 ううん、進路のこととは少し違うんだけど、君の将来に関する…大事なことよ。 いい? 先生これからちょっと、君にとってはショックことを伝えるけど 取り乱さず、冷静に聞いて欲しいの…。 君は…劣等遺伝子撲滅法、って分かるわよね? そう、優れた容姿や、特別な才能を持った人だけを後世に残そうっていう 優生学に基づいてつくられた法律ね…。 社会の授業で少し習っているから、知っているわよね。 優れた人間の遺伝子だけを残す…、つまりそれは いわゆる劣等…人よりも劣った人間の遺伝子は 積極的に撲滅していきましょうってことになるの。 ページ 5/129 倫理的な問題を抱える法律として、学校ではあまり詳しくは教えてはいないんだけど 劣等遺伝子撲滅委員会っていう国の正式な機関が、実際に一部の国民に対して行っている措置なの。 保有している遺伝情報が「非常に劣性」であると判断された人に対して 劣等遺伝子認定を行い、遺伝情報の隔離処置を行うの。 劣等遺伝子保有者が、何かの間違いで子孫を残したりしない様に あらゆる手段を使って、その劣等遺伝子を内包する危険な精子を、強制的に破棄させるの。 そうね、人の尊厳を踏みにじる様な差別的な法律として たくさんの問題を抱えていることは否めないわ。 だけど、少子化に苦しむこの国が、世界に対しての競争力を維持する為には 劣っている遺伝情報…そして、それを保有する、言い方は悪いけれど… 「負け組」と称される人たちに、今までの様な平等な権利を与え続ける余裕は ページ 6/129 もう無いというのが、多くの人の見解なの。 もちろん先生は、貴方たちみんなに、幸せになって欲しいと思うし 人には誰しも、自由に恋愛をして、子供をつくる権利があるべきだと思うわ…。 だけど、みんなが幸せになれる方法なんて 現実社会には存在していないっていうことも事実なの。 いくら平等な社会を目指したところで、やっぱり君たちの未来は いわゆる勝ち組と負け組とに分かれてしまうわ。 え? どうしてそんな話を自分にするのか、ですって? そうね…まずはそれを話さないといけないわよね…。 ごめんなさい、先生も、担当している生徒からは、初めてことだったから…。 ページ 7/129 たぶん、君の自宅の方にも届いていると思うんだけど この書類が今日、学校に届いたの。 …分かるかしら? 君の劣等遺伝子認定書よ…。 そう、とっても残念なんだけど、君の遺伝子は 国から劣等遺伝子と、認定されてしまったわ。 受験勉強で大変な時に、申し訳無いんだけど 担任教師として、自分の生徒にしっかりと現実を理解させる職務があるの。 うん、混乱して何を言われているのか分からないわよね。 じゃあハッキリと言うわね。 ページ 8/129 君はこの先、一生、自分の子孫を残すことが出来なくなってしまったわ…。 勿論、その過程である、恋愛・結婚 そして女性との…性行為 いわゆる、セックスをすることも許されないわ。 そう、セックスよ、セックス 君はこの先、一生、女の子とセックスが出来ないの…。 …うん、そうよね、こんなこと納得出来るわけ無いよね。 子孫を残すっていう、「生物・生命の存在意義」自体を否定するなんて…。 こんなこと、本来は許されることじゃ無いって、先生も思うわ。 だけど、劣等遺伝子認定されてしまった以上 ページ 9/129 この制度自体が無くならない限り この先、君が勝手に女性と性行為をしたり、子供を作ったりしたら 重い罪として、罰を受けることになるわ…。 可哀想だけど、これから先、君の遺伝情報、つまり君の精子は… 危険度の高い病原菌やウィルスと同じ扱いになるの。 絶対に自分以外の、特に女性の身体には付着させない様に 十分気をつけて頂戴ね…。 え? そもそも、どうやって劣等遺伝子を認定しているか、ですって? それは…、たとえば秀でた才能を持っていなかったり… あるいは、これも…とても差別的で、人を侮辱した判断基準だとは思うけれど ページ 10/129 「見た目」…に、あまり恵まれていないとか…かしら。 え、よく分からない? っと、つまり…いわゆるブサイクとかキモい? とか その人の容姿が判断基準になる場合もあるみたいよ…。 …え? 自分はどういう基準で選ばれたのか? そ、それは、先生が君を劣等遺伝子認定したわけじゃないから 詳しくは分からないけど…。 コホンッ、とにかく 認定されてしまったものは、今更絶対にくつがえらないわ。 今は受験に向けて、勉強に集中するべきだと思うの。 ページ 11/129 えっ? それでも、ハッキリと言って貰わないと、納得出来ないし 受験勉強にも身が入らない? んー、そ、そうね…、一般的な美的感覚から言うと、君の見た目は… 平均よりは、少し…ううん、かなり下…になるのかしらね…。 そう、残念だけど…君は、ブサイク…とかキモイ? って言われる部類の容姿に…なると思うわ…。 ごめんなさいね、先生個人の見解じゃ無いってことだけは、分かって頂戴ね? あくまで、一般的な感覚でのお話よ。 え、僕だって恋人が欲しいし、結婚だってしたい? も、もちろん、それが人として当然の欲求だと思うわ。 ページ 12/129 …だけど、劣等遺伝子認定されてしまった以上、先生にはどうすることも… っと、ちょっと近い…かな、もう少し離れましょうか? え? やっぱり先生も、僕のことを気持ち悪がってる? そ、そんなことは…あっ、そう、ほらココを見て頂戴っ 劣等遺伝子認定された男性の、禁止事項の項目…。 他の女性の身体に触れる行為を禁ず。 ね? 今の君はもう、女性である先生に触れると 法律で罰せられてしまうの。 だから、先生だけじゃなくて、他の女の子の身体にも 絶対に触れない様に気をつけて頂戴、いいわね? え、その続きの文章? ページ 13/129 えっと…、特に、優性遺伝子保有者の女性の身体に触れる行為は 極刑もありうる重罪となります…。 あぁ、優性遺伝子保有者が分からないのね? これは、字の通りよ。 才能や容姿が優れていると国から認定され その優秀な遺伝子を、大切に保護されている人たちのことよ。 …あぁ、うん、そうね…、劣等遺伝子「保菌者」とは…あ、ごめんなさいっ。 劣等遺伝子「保有者」とは、逆の立ち場の人たちのことね…。 え? 先生は頭もいいし綺麗だから、選ばれているんじゃ無いか、ですって? そ、そうね…、君には申し訳無いんだけど 先生は、優性遺伝子保有者に選ばれているわ…。 ページ 14/129 え、劣等遺伝子認定者と、何が違うか知りたいの? ん~…まあ、いずれ分かることだし 先生として、ちゃんと教えてあげないとね…。 …まず、優性遺伝子保有者は 恋愛・結婚・出産を、国から最大限にバックアップして貰えるの。 交通機関、公共施設も無料、もしくは割引で利用出来るし 税金なんかも、普通の人よりかなり安くなるわ。 それに、優性遺伝子保有者同士の結婚なら 子育て支援金が3倍になって 子づくりの為の妊活有給休暇が、年間20日貰えるわ。 ページ 15/129 とにかく、優秀な遺伝子を残す為に、国を挙げて「子づくり」を推進しているの。 逆に…、劣等遺伝子保有者に選ばれてしまうと 同じ説明になっちゃうけど 恋愛・結婚・出産は禁止、というか重罪になるわ。 それから税金も、普通の人よりもかなり高くなってしまうの…。 人並みの幸せも得られない様な可哀想な人たちに、更に重税を課すなんて… 差別的で理不尽な制度だって、先生はすごく残念に思っているのよ? それから…、これは法律とは直接関係無いことなんだけど 劣等遺伝子認定という、不名誉なレッテルを貼られることで 普通の人や、優性遺伝子保有者の人からは、下に見られるというか… 馬鹿にされたり、笑われたりっていうことが どうしてもあるみたいだから、覚悟はしておいた方がいいわね…。 ページ 16/129 ごめんなさいね、ネガティブな情報ばかりで。 それじゃあ次は、この書類の記入を済ませましょうか?