トラック8:昔話 紅茶を飲みながら
:SE:環境音(雨音)
;SE:10/右上 やかんのお湯を沸かす音
【大家】
「(5秒ほど息遣い)」
【大家】
「のう……どうじゃ、この雨音だけの音楽。
ひーりんぐ音楽というらしくての」
【大家】
「従業員に導入を勧められて、聞いてみたが、
わらわもいいと思う。これを店内に導入しようか考えているんじゃが……」
;SE:リスナー身じろぐ音
【大家】
「おっ? そうか、落ち着くか? じゃあ、検討しよう」
;SE:10/右上 やかんのお湯が沸騰する音
【大家】
「……っといかんいかん、きちんと止めねばの……」
;SE:10/右上 火を止める音
;SE:10/右上 やかんのお湯をポットに注ぐ音
【大家】
「(10秒ほど息遣い)」
【大家】
「……ん、このぐらい入れれば……十分じゃの」
;SE:10/正面 ポットを持ち、軽くまわす。
【大家】
「(10秒ほど息遣い)」
【大家】
「……よし、熱も全体に行き渡っておるし……」
;SE:10/正面 ポットのお湯をシンクに流す
【大家】
「(10秒ほど息遣い)」
【大家】
「……んっ、これで万全じゃな。
ではこれらを……乗せて……」
;SE:10/右上 ポット、やかん、茶葉、ティースぷーんをお盆の上に置く音
;SE:10/右上→1/正面
;SE;1/正面 お盆をテーブルに置く音
【大家】
「お待たせじゃ。さて、失礼するの……」
;SE:1/正面 座る音
;SE:1/正面 お盆からポットを取り、テーブルに置く音
【大家】
「……ん? 今から何をするのか? むろん、一服するんじゃ。
それに、これは今度施術後のコースの一環として振舞うかどうか考えていての。
おぬしの忌憚なき意見も聞きたいのじゃ。どうじゃ協力してくれるか?」
;リスナー身じろぐ音
【大家】
「うむ。ありがとう。では、今から振舞うのはこれじゃ……」
;SE:お盆から茶葉の入ったパッケージを揺らす
【大家】
「……うむ、見てのとおり。紅茶の茶葉じゃ。
ほれ、さっさそく開けるぞ」
;SE:お盆から鋏を取る
;SE:鋏を取りパッケージに切り込む
【大家】
「(20秒ほど息遣い)」
【大家】
「……んん~良いニオイじゃ。
こうして軽くティースプーンでかきまぜると……」
;SE:お盆からティースプーンを取る音
;SE:パッケージの中の茶葉を軽く掻き混ぜる音
【大家】
「(20秒ほど息遣い)」
【大家】
「……おぬしもちゃんと嗅げたか?、ここからでも漂う芳醇な匂いが。
では、これを温まったポットに入れたら…どうなるか見てみるのじゃ」
;SE:パッケージの中の茶葉をポットに入れる
【大家】
「(10秒ほど息遣い)」
【大家】
「……これぐらいじゃろ。ふふ、わかるか?
茶葉のポットに付着した水滴を吸って、さらに濃厚な香りを放っておるわい」
【大家】
「……しかしながら、そのニオイはもっと増幅するぞ! ほれ、感じるのじゃ」
;SE:やかんを持ち上げる音
;SE:ポットにお湯を注ぐ音
【大家】
「(20秒ほど息遣い)」
【大家】
「……どうじゃ? この音を聞くと、全身の疲れに快感が染み渡る気がしないか?
ニオイもさらに濃くなってるしの……」
;SE:ポットにお湯を注ぐ音
【大家】
「(20秒ほど息遣い)」
【大家】
「……うむ、満杯になったの。
じゃが……旨味を出すには、ここれから三分程待つのじゃ……」
【大家】
「(30秒ほど息遣い)」
;SE:ポットを振る
【大家】
「んっしょ……こうして時折混ぜながら……
茶葉全体に……お湯を染み渡らせて……」
;SE:ポットを振る:何回か行う
【大家】
「(2分ほど息遣い)」
【大家】
「ふふ、じれったいの。あともう少しじゃ」
【大家】
「(30秒ほど息遣い)」
【大家】
「……いいだろう。では、ティーカップに
ゆっくりと入れていくぞ」
;SE:お湯の入ったポットを手に取る音
;SE:ティーカップに紅茶を注ぐ音 回しながら入れる
【大家】
「(20秒ほど息遣い)」
【大家】
「……ほれ、淹れたてほやほやじゃ、
香りを味わいつつ、ゆっくり賞味するがよい」
;SE:1/正面 ティーカップを置く音
;SE:リスナー身じろぐ音
【大家】
「……なにを遠慮しておる。おぬしのために淹れたのじゃ。
あっ、ちゃんと頂きますは言ってからじゃぞ……うむ……手を合わせて……」
【大家】
「いただきまーす」
;SE:リスナー身じろぐ音(呑む音)
【大家】
「(30秒ほど息遣い)」
【大家】
「…………どうじゃ? 雨音を聞きながら、
熱い紅茶が身に染みるじゃろ……」
【大家】
「お? おお! すごい勢いでティーカップを突き出したの。
おかわりか。よいよい、慌てるでない
いっぱいあるからの……ほれ、また注ぐぞ」
;SE:お湯の入ったポットを手に取る音
;SE:ティーカップに紅茶を注ぐ音
【大家】
「……このくらいでどうじゃ? うん、もう一度味わえ」
;SE:リスナー身じろぐ音(呑む音)
【大家】
「(30秒ほど息遣い)」
【大家】
「くす……本当に美味しそうに飲むの。
どうじゃ、耳かきをされたあと、こうして温かいものを飲むと」
;リスナー身じろぐ音
【大家】
「ふふ、じゃろ? 身体もだが、心も染み渡るだろ……
つまり、わらわの考えはなかなかに良い案と言うことじゃな……」
【大家】
「それにしても……ふふ」
【大家】
「……いや、おぬしがおかしいというわけじゃない。
おぬしが紅茶を賞味する姿がなんとも愛らしくてな。
見てるこっちも……満たされるんじゃよ……」
【大家】
「……それにこうしてると、懐かしくも思うんじゃ……」
【大家】
「……それこそ、わらわがこの容姿と相応の幼い頃はの……
紅茶もなければ……癒しなんて概念もなかった……」
【大家】
「それでも……なにもなくても……
みんな笑って楽しく頑張っていた……」
【大家】
「むろん……昔はよくて、今がダメなんてことはない。
じゃから、今のおぬしたちが頑張ってないなんてことはないぞ……」
【大家】
「むしろ……おぬしらのおかげで……
どんどん便利に暮らしやすくなっておる……」
【大家】
「じゃが……暮らしやすくなってるゆえに……
人と会わずに一生を終えるという人間もいると、先日ニュースでみた……」
【大家】
「気持ちはわかる……生きていれば、必ず反りが合わん奴も出るし、
他人と会わすのに常に気を遣わなきゃいけんことも……」
【大家】
「それに、昔ながらの逃げちゃいけないという精神もある……」
【大家】
「でもな……昔を生きてきた人間からすれば……
そんなことをのたまうのは……一部のものだけじゃ……
べつにそれを……真に受ける必要もないんじゃ……」
【大家】
「逃げたくなったら逃げてもよい。
それぐらいの気概じゃなきゃ、自分を追い詰める一方じゃ」
【大家】
「べつに仕事をやめろと言ってるわけじゃない。
ただ、どうしても辛い事のひとつやふたつ、生きてれば必ずある……」
【大家】
「わらわはな、そんな中で苦しむ者たちの苦しみを少しでも和らげられればと思い……
『いやーしみん』を開業したのじゃ……」
【大家】
「そして……ありがたいことに……
今ではこの業界で、一番多く利用されとる……」
【大家】
「そう……おぬしみたない今のわっぱたちがそこへ訪れてくれとるわけじゃ」
【大家】
「ほれ……ティーカップが空になってるぞ。もっと飲め……」
;SE:お湯の入ったポットを手に取る音
;SE:ティーカップに紅茶を注ぐ音
;リスナー身じろぐ音(飲む音)
【大家】
「(30秒ほど息遣い)」
【大家】
「……疲れた身体に染み渡るじゃろ。おぬしみたいな
わっぱが癒される姿を見ると、なおさらうれしくなるのじゃ」
【大家】
「それに……こうもしたくもなる。
のう、身を乗り出して、わらわの前に頭をだせ」
;SE:リスナー身じろぐ音
;SE:1/正面 立ち上がる音
;SE:1/正面 頭を撫でる音
【大家】
「……えらいえらい。きちんと言う事を聞けたの。
何度も言うが、今日までよく頑張った」
【大家】
「仕事だから、と割り切ってるだろうがの。
それでも頑張ったものは頑張ったのじゃ」
【大家】
「でもな無理することなんてないぞ。
おぬしはおぬしのペースで生きればいいんじゃ」
【大家】
「いいか? 仕事の代わりはいくらでもいる。
けれど、おぬしの代わりはおぬし以外誰もいない」
【大家】
「だから、少しは自分のこともを労わってやれ」
【大家】
「それで、もし……おぬしが職を失っても……
わらわが引き取ってやろう。おぬしはそれぐらいよくやってるよ」
【大家】
「なーに、おぬしぐらい余裕で養えるし……
それに、おぬしみたいな実験台は欲しいしの……」
;SE:リスナー身じろぐ音
【大家】
「これこれ、真に受けるな……ただの冗談じゃ。
じゃが、仕事が忙しくても……店でもわらわの元にでも
きちんと癒されに来い。これがげーむに勝ったわらわからおぬしに課す罰じゃ」
【大家】
「自覚はないだろうがの、玄関を開けた時、
本当に死にそうな顔をしてたんじゃよ……おぬし」
【大家】
「だから、もう少し気を楽に持て。
そうすれば……わらわみたいに長生き出来るぞ」
;SE:頭をゆっくり撫でる音
【大家】
「(30秒ほど息遣い)」
【大家】
「ふふ……撫でられて安心したか?
大きいあくびが止まらなくなったの」
【大家】
「時間も……うむ、もうこんなに夜更けとはな。
じゃあ、さっさとねんねするぞ、ふふ」