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…あ、先生。
今日は急に呼び出してごめん。
折り入って相談したいことがあったから。
うん。先生はもう知ってると思うけど…
アビドス高等学校には莫大な借金があるって話(はなし)したよね?
それで…
さっきこんなチラシを見つけたからここで働こうかなって。
…うん。「耳かき専門店」。
耳かき道具を売る方じゃなくて、してあげる方。
最近、こういったお店に足繁く通う人が増えてるみたいで人気があるみたい。
…理由?
それはもちろん、このお店の内情をよく知ってるから。
営業時間終わってからの店長の行動パターンも分析済みだし、どこに売上金を入れているかも確認済み。
あとは店員として潜入して、隙を見てから金庫を盗み出せば完璧…
…ダメ?
うーん…結構時間をかけて偵察してたんだけどな。
…ごめん。
こうやって戦略を立てるのが趣味みたいなものだから。
でも、先生が止めるんだったら、やめとく。
…普通にアルバイト、かぁ。
うーん…人に対して耳かきをした経験はないね。
未経験でも大丈夫みたいなことは書いてあったけど…
そっか。
ただ入店するだけじゃ、大きな稼ぎには繋がらないよね。
やるなら、お店のNo.1目指さないと。
それにしても…お客さんが癒されて、また来たいって思われるような雰囲気作り、かぁ。
私にできるかな。
…ん。わかった。
それじゃあ、先生で練習してみよう。
ダメ?
経験を積んでおくのは大事って言ったのは先生だよ。
…正直言って私も不安はある。
セリカみたいに接客できるか心配だし、かといってノノミのような癒し系オーラ出てないし。
だから、先生には私が耳かき店でやっていけそうかテストして欲しい。
どう…かな?
…ん。ありがとう。
恩に着る。
それじゃあ、早速だけどここに頭を乗せて?
うん、膝枕。
お店ではこうやって膝枕した状態で耳かきするのが普通みたい。
だから…遠慮しないでどうぞ。
ん…っしょ
ふふ、こんな形で先生と触れ合うの…初めてだね。
前はおんぶした事もあったけど、あの時とは違う感じ…
…っ!
あの…先生、大丈夫?
その…ニオイ、とか。
うぅん、だったらいい。
私が勝手に気にしてた事だから。
(…よかった。先生には汗臭いって思われなくて。
今日もライディングで汗びっしょりだったから…)
…気を取り直して、始めていくね。
えっと、最初は何やるんだっけ…。
あぁ、マッサージからやるんだった。
こうやって指の腹を使って耳たぶを…
んん…ふぅ…
んしょ…んしょ…
一応、店員としての基礎知識を覚えておこうと勉強はしてた。
敵地の事を一通り学ぶことは潜入の基本だよ。
…まぁ、偉そうに言ってる私も完璧とまではいかないけど。
んぁ…ふぅ…はぁ…
耳たぶを伸ばしたり、回すように動かしてみたり…
頭の上に向かって段々、段々刺激していく感じ…。
んっ…ふぅ…
耳穴の近くにはツボがたくさんあるみたいだから気持ちいいかも。
…ん。
私もこんな風にされたら寝ちゃいそう。
んしょ…ん、ふぅ…はぁ…
ふぅ。次は耳かきだね。
いよいよ店員として試される部分といってもいいかな。
それじゃあ頭をこっちに向けて…
ん。ありがとう。
んしょ…
ライトを照らして中を確認…。
わ。先生…結構汚れてるね。
どれくらい掃除してないの?
そっか。
仕事で忙しいんだったら、いい機会かも。
いくら耳に自浄作用があるといっても、この汚れかたは流石に気になるし。
じゃあ、いくよ…
んん…ふ、ぅ…はぁ…
こういうのって順番とかあるのかな。
私はいきなり耳の奥まで突っ込んじゃうけど、先生はどうしてる?
へぇ、そうなんだ。
じゃあ、耳の溝からやってみるね。
んしょ…んん…ぁ、ふぅ…
どう、かな?
気持ちいい?
…ん。なら良かった。
カリカリ、カリカリ…
溝に付いた垢をこすり落とすように…
んん…んっ…
そういえば、綿棒を濡らしてやるのもいいって書いてあったっけ。
んしょ…
ごし、ごし…ごし、ごーし…
たしかにこの方がスムーズにいくかも。
溝を拭き掃除してる感じ?
んんっ…ん…はぁ
ふぅ。これくらいでいいかな。
次は耳穴の番だね。
…ごくっ。
大丈夫…先生のをお掃除するんだと思うと少し緊張する。
心を落ち着けて…リラックス…。
すぅ〜…はぁ〜…
すぅ〜…はぁ〜…
…ん。もう大丈夫。
それじゃあ、いくね…
んん…ふぅ…
浅いところから段々、段々…奥の方へ…
ふぅ…はぁ…んん
わ。やっぱ耳穴は大きな垢が出てくるね。
ちょっと動かしただけでもうこんなに…
んん…っしょ…ふぅ…
この辺はどう、かな…
さっき大きいのが見えた気がしたんだけど…
んん、はぁ…ふぅ…
少し角度を変え、て…
んしょ…んしょ…
あ、いけた。
すごいね。しばらく手を付けないとこんななるんだ。
まだ残ってるかな…と
んん…っしょ…ふぅ、はぁ…
ここはこう、して…
小刻みに動かしてみたり…
んぁ…ふぅ…
うん。だいぶ綺麗になったみたい。
綿棒に付く垢もだいぶ減ってきたし、もういいんじゃないかな。
仕上げはこの梵天を使うね。
水鳥の羽毛が細かい汚れを取り除いてくれるから…
んしょ…んしょ
きもちいい…きもちいい…
耳穴に入れたまま、ぐるぐる…ぐるぐる…
んぁ…ふぅ…
今度は反時計回りに…
んん…ぁ、んん…
ふぅ。こんな感じかな。
片側の耳はこれでおしまいだけど…
先生、大丈夫だった?
…ホント?
お世辞とか抜きで言ってるんなら、すごく嬉しい…
あ、ちょ…
頭撫でるのは反則…
別に先生の為に覚えた技術じゃないのに…
まぁ、喜んで貰えて悪い気は…しない。
えっと、続きしてもいいかな?
頭は反対側向けて。
…ん。それじゃあ、さっきと同じ手順で。
まずは濡れ綿棒で溝のお掃除から。
ふき、ふき…ふき、ふき…
耳の周りには数百もツボがあるみたい。
だからかな、こうやって優しく触られるとゾクゾクするし…心地いい気分になってくる。
んん…ふぅ…
先生もさっきから気持ちよさそう。
この辺とかどうかな?
んしょ…んん…
あ、少し鳥肌が立ってる。
だったらここを重点的に…
ふぅ…はぁ…んん…
…先生って意外とこっちの耳弱い?
なんかさっきと反応が違うような…。
…やっぱり。
いいよ。別に恥ずかしいことじゃないから。
人によっては、感じるところとか全然違うだろうし。
先生はたまたま、ここが弱いってだけ。
んん…っしょ…ふぅ…
そろそろ、耳穴のお掃除をしようと思うけど大丈夫かな。
くすぐったいの取れた?
…ん。わかった。
それじゃあ、始めていくね。
んしょ…んしょ…
うーん…こっちも見る限りだと垢がたっぷり詰まってそう。
奥に押し込まないように気をつけなきゃ。
んと…こう、かな…
ごしごし、ごし…
このまま続けても大丈夫?
…ん。
んん…ふぅ…はぁ…
浅いところに移動してた垢がポロポロ取れてくる。
こんなに取れると耳かきし甲斐があるね。
うん。これも勉強して得た知識。
耳穴の中にある耳道は自ら蠕動して動くらしいよ。
だから基本的には耳かきってする必要がないっぽい。
…確かに。
耳かき専門店の店員が言うと身も蓋もない話だね。
でも、この辺は気持ち良くなる神経が密集してるから…。
ゾクゾクしたり、もっとやりたいってなるのはそのせい。
だから…自分でやり過ぎるよりは、専門店で丁寧にやってもらう方が無難だね。
んん…はぁ…ふぅ…
うーん…奥の方はどうだろ。
んー…ぅん、ふぅ…
わ。おっきい塊が取れた。
こんな大物があったなんて…死角になってるところがあったのかな。
ここは…どう?
角度を変えて、小刻みに…
んしょ、んしょ…
んー…っと、ふぅ…はぁ…
あ、取れた。
他にはないかな…?
んぅ…
先生、もう少し頭をこっちに動かして?
…ん。ありがとう。
…見えた。
今から残存耳垢(ざんぞんみみあか)の掃討(そうとう)を始めるね。
んぅ…ふぅ…はぁ…
言い方が物騒なのは気にしちゃダメ。
ほら、ジッとしてて…
んっ…うぅん…
はぁ…んん…
…あ。
もう大丈夫だよ、先生。
ちゃんと目標は排除したから。
ほら…こんなに取れた。
あとはこの梵天で仕上げをしていくだけ。
あと少しだから我慢して…。
んぅ…ふぅ…
浅いところをくるくる…くるくる…
細かい垢をまとめて絡みとるように…
んぅ…んんぅ…
はぁ…んん…
先生、また鳥肌が立ってる。
感度良すぎ。もっと奥…入れていくよ。
んんぅ…ふぅ
んぅ…はぁ…
こんな感じでいいかな。
…うん。見違えるくらい綺麗になった。
…別に気にしなくていいのに。
大人だからって、耳垢が溜まるのは当然のこと…。
私は先生が汚いとか全然思わないから。
…まぁ。
流石に全然清潔感がないのはちょっと困るけど。
うん。
なんだったら、これからは私が先生の耳掃除をしてあげてもいいし。
私は平気。
いつも心配して見守ってくれる先生にお礼がしたかったから。
…うぅ。また頭撫でる。
そ、そんな風にされたら恥ずかしい…。
えっと、あの…
耳かき専門店のサービスには特別なお客さんにしかやらない事があるんだけど…。
それを先生にしてみたいかも。
うーん、別にそんな大したことじゃないよ。
すぐに終わるから。
それじゃ、ジッとしてて…
すぅ〜…ふぅぅぅぅぅぅぅ〜〜…
ふううぅぅっ…ふぅぅぅうぅぅぅぅ〜〜…
…ん。
耳に息を吹きかける、「耳吹き」ってやつ。
気に入ったお客さんにだけ許されるサービスらしいよ。
もう一回…。
ふぅぅぅぅぅぅぅ〜〜…
すぅ〜…ふぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜
今度は反対側も。
頭こっち向けて。
いくよ…。
すぅ…ふうぅぅぅぅぅぅ〜…
はぁ…ふぅぅぅぅぅうぅぅ〜…
あ、鳥肌が立ってる。
やっぱり先生はこういうの弱いんだ。
ふううぅぅぅぅぅぅ〜…
ふぅぅぅっ…ふぅぅぅぅぅぅぅ〜〜…
お疲れ様。
なんだか先生の意外な一面が見れて楽しかったかも。
えっと…どうだったかな。
私に耳かき店で働く素質…あると思う?
そ、そう?
…ありがとう。
あんまり自信なかったから、そこまで言ってもらえるなんて思わなかった。
これなら、すぐにでもお店に連絡して面接を…
せ、先生?
うーん…そんなに心配されるとは思わなかった。
悪い虫がくっつくかもって言われてもあんまりピンとこないけど…
そもそも、私にそんな熱心なファンが付くのかな。
まぁ、いいや。
先生が私のことを思って言ってくれてるのはわかるし。
私としても心配かけてまで働きたくないから。
…ん。謝らないで。
働き口なら他にもあるし。
お金を稼ぐチャンスを逃す事より、その…
先生と仲良くなれて嬉しいから。
色々と普段見れないような表情を楽しめたし。
あぅ…。
えっと…今のは聞かなかったことにして。
やっぱ恥ずかしい…。
…むぅ。先生の意地悪。
こちらこそ、これからも宜しくね。
また耳掃除して欲しくなったら、教えて?
連絡はモモトークとかでもいいし。
…ん。
生徒を心配するのもいいけど、自分も大事にしてね。
…先生、大好き。