おねだり
桐乃「それでさ。あいつったら、なんて言ったと思う? よりにもよって『これ、こないだのと同じじゃね?』だって! 信じられなくない? ばっかじゃないの。本当、あり得ないし」
沙織「まあまあきりりん氏。抑えて抑えて」
桐乃「あー、あのバカの顔を思い出したらまた腹が立ってきちゃった。ホント、まじムカつく」
沙織「ハハ。お気持ちはお察しいたしますが……。ということは、京介氏に買っていただけず仕舞いだったのですかな?」
桐乃「え? ああ、うん。それは、はは」
黒猫「……まったく。散々不平を並べておいて、結局、最後には買わせたというわけね」
桐乃「はん。あいつが、どうしてもって言うからもらってあげただけだから」
黒猫「贈り物を受け取っておいて、酷い言い草ね」
沙織「はっはっは。きりりん氏は素直ではありませぬゆえ」
桐乃「もう、うるっさいなぁ」
沙織「ヤハハ。ともかく、プレゼントを頂けてよかったではありませんか」
黒猫「ところで、少しいいかしら」
沙織「いかがなさいましたかな、黒猫氏」
黒猫「私は先ほどから『こないだ』も、という点が気になって仕方がないのだけれど、あなた、まさか度々お兄さんに貢がせているの?」
桐乃「はァ? そんなワケないじゃん! どうしてあたしが、あんなのに惨めったらしくせがまなくちゃいけないワケ? 寝言は寝てから言えっつーの!」
黒猫「あの人は、口に出さずとも態度で察してくれることが多いというのに、本当に仕方のない女ね」
桐乃「さっきから黙って聞いていればわかったような口をきいてくれちゃってさあ。あんた、ケンカ売ってんの?」
黒猫「気のせいかしら。私の記憶が確かならば、あなたは一度として口を閉ざしていないように思えて仕方がないのだけれど」
桐乃「チッ。いちいち揚げ足取んな黒ずくめ!」
黒猫「……ごめんなさい。怒らせるつもりはなかったの」
桐乃「へ……?」
黒猫「少し、うらやましく思えたの。だから、つい棘のある言い方をしてしまったわ」
桐乃「な、なんなのよいきなり」
沙織「では、そういうことでこの話は打ち切りにしようではありませんか」
黒猫「沙織」
沙織「さあさあ、お二人とも。笑顔、笑顔でござるよニンニン」
桐乃「わかった。ここは、沙織の顔を立ててあげる」
沙織「ハハ。これはかたじけない」
桐乃「でも、誤解はして欲しくないからこれだけは言わせて。別に、しょっちゅう買ってもらってるわけじゃないからね」
黒猫「そう」
桐乃「でもさあ。その、うらやましいなら言えばいいじゃん。あいつ、あんたが頼めばなんでも聞いてくれるんじゃないの」
黒猫「っふ。私が欲しいものを素直に欲しいとは言える性格だと、思っているのかしら」
桐乃「なんの自慢にもならないから、それ」
沙織「お二人とも、奥ゆかしいですなあ」
桐乃「奥ゆかしい、ねえ」
黒猫「ねえ。沙織なら、どうするの?」
沙織「よくぞ聞いてくだされた。拙者ならば、真っ向から悩殺してみせるでござるよ」
黒猫「……そう。じゃあ、参考までにその様を見せて頂戴」
沙織「しからば。……うっふーん。お兄さま、あれが欲しいでござる〜」
黒猫「……色々な意味で、恐ろしいわ」
沙織「いやあ。照れますなあ」
桐乃「いや、それって褒めてないから」
沙織「お二人とも、今度、やってみてはいかがですかな? 京介氏もきっと……」
桐乃「絶対イヤ。そんなのやるくらいだったら、舌噛んで死ぬから」
黒猫「私も嫌よ」
沙織「……にょろーん」