プロローグ
ごめん下さい。性癖調査官の者ですが…開けて頂いてよろしいでしょうか。
どうも。私、性癖調査官の弐珠、と申します。この度は成人おめでとうございます。
本日は性癖調査の件でお伺いしました。少々お時間を頂きますがよろしいですね?
…はい、その性癖調査です。成人された男性の方はもれなく受けて頂く決まりとなっていますので…
えぇ、通例でお聞きしていますが、よほどの事情がない限り拒否権はありません。
問診・検査含めて1時間もかかりませんのでご協力頂けるようお願いします。
ありがとうございます。それでは早速ですが性癖調査について改めてご説明いたします。
内容についてはご存じかとも思いますが、説明を受けて頂いた上で進める規則となっておりますので。
まず、性癖調査の目的ですが、端的に言えば優れた遺伝子情報を持つ男性の選別です。
昨今の少子高齢化、および女性出生率の低下により、種の保存の重要性が年々高まっています。
子どもを産む女性の数は限られているのに種を持つ男性は増えていくばかり…
より優秀なオスの精子を貴重な女性の卵子に授精させるため、国が介入せざるを得ないのはもはや必然です。
第3の性としてあらゆる面で男性を上回るとされる「ふたなり」も、こと生殖に関しては男性のほうに分がありますから。そこで体が成熟し、生殖に適した状態となる成人を迎えた男性の精子情報、またそこに結び付く
個人の肉体情報や性的嗜好を調査し数値化、ランク付けするのが性癖調査です。
調査の結果高ランクと認められると、国からの様々な補助が受けられます。
任意ですが、精子バンクへの提供も引く手あまたとなるでしょう。もちろん報酬もあります。
ですが…女性の数が減ったことで女性と接する機会や免疫がなくなり、女性を神格化し
上位的な存在ととらえてしまう傾向を持つ男性が増加している…という問題が最近では増えています。
そうなってしまうと、女性には敵わない、むしろ負けたい、という気持ちが増大し、
遺伝子情報にも悪影響を及ぼし、精子の強度にも変化が表れてしまうことがわかっています。
いわゆる…マゾ、と呼ばれるものですね。種を残すに値しない、大変残念な存在です。
性癖調査の結果でマゾの傾向が顕著な場合は、それ以上の深刻化を防ぐため、我々性癖調査官による
強制治療セラピーを受けて頂くこととなります。罰金や費用が発生するわけではありませんが
マゾ性癖が解消されたとみなされるまで継続される厳しい内容のものとなっております。
それだけ今の世の中の状況においてマゾが問題視されている、ということです。
…ただ、その隷属性から一部の女性には愛玩用として需要があるそうですが。
特にふたなりの女性とマゾの男性はとても相性が良いそうです。
強者は弱者を蹂躙し弱者は強者に媚びを売る…これもある種の需要と供給、ということでしょうか、
…失礼。話がそれてしまいました。
本日はこのあと、いくつかの簡単な質問を含む問診を行います。
その後実態調査と遺伝子サンプル取得を兼ねて検精を行わせて頂きます。
お時間は取らせないよう努めますのでどうぞご了承下さい。