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蝶「あんたがたどこさ 肥後さ」
女「あんたがたどこさ 肥後さ」
蝶「肥後どこさ 熊本さ」
女「肥後どこさ 熊本さ」
蝶「熊本どこさ 船場さ 」
女「熊本どこさ 船場さ 」
蝶「船場山には狸がおってさ」
女「船場山には狸がおってさ」
蝶「それを猟師が鉄砲で撃ってさ」
女「それを猟師が鉄砲で撃ってさ」
蝶「煮てさ 焼いてさ 食ってさ」
女「煮てさ 焼いてさ 食ってさ」
蝶「それを木の葉でちょいとかぶせ」
女「それを木の葉でちょいとかぶせ」
蝶「また負けちゃったー、あははっ」
蝶「ねー次は何して遊ぶのー?」
女「わちは遊びつかれたからのぉ」
女「いったじゃろ? 暇をもらったのじゃ、朝のうちに出んといかなくての」
蝶「えー、もっと遊ぼうよー」
女「悪いのぉ、そうじゃ、この鞠はお前さんにくれてやろう」
蝶「くれるのー!ありがとう!」
女「チョウピラコは変わらなくて良いな、わちはもう歳を取り過ぎた……」
蝶「えへへー、そお~?」
女「この座敷から風鈴館を見守ってやってくれ」
蝶「わかったー、約束ねー♪」
女「……約束じゃ」
蝶「えへへへ……」
女「ふふふふ……」
蝶「こんなところにまで入ってきおって……」
蝶「なんじゃ、夢の中にまで、そんなにワシが恋しいのか……」
蝶「これはワシの過去じゃ……あまり人に見られたくはないのじゃがな」
蝶「懐かしいのぉ」
蝶「ワシはこの風鈴館の座敷童、チョウピラコとも呼ばれている。人ではないモノでの」
蝶「座敷童というのはな、住み着いた家に幸運や富をもたらす……というのは知っておろう?」
蝶「すまぬな、黙っておって」
蝶「じゃが、ワシは静かにこの風鈴館を見守っていたいのでな、それを知られたくはなかったんじゃ」
蝶「座敷童がいると知れればワシの力をあやかろうとする輩も大勢でてくる」
蝶「じゃからお主には悪いが……ワシのことは忘れてもらわんとな」
蝶「安心せい、忘れるのはワシのことだけじゃ」
蝶「肌を重ねた感覚、温もり、何をしたか……それらは全て残る」
蝶「じゃから、お主が目覚めたら、誰と一緒にいたか? って疑問に思うじゃろうな」
蝶「……お別れ、じゃの……」
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蝶「春一番かの……」
蝶「ふふ……お主との戯れ、まことに心が踊るものじゃったわ」
蝶「……楽しかったのぉ」
蝶「別れ、か……」
蝶「じゃがのう、お主が強く願いつづければ、ワシのこと、思い出せるやもしれんの」
蝶「ふふ……それまでその木札は、大事にしとくれよ」
蝶「心より願えば、また会える日が来るかもしれんからのぉ……」
蝶「……風鈴館でお主の帰りを待っておるぞ」