こころをリラックス。
え?どうしたんですか?
眠りの世界まで一緒にいってほしい…?
…はい。
それじゃあ、少し別のところに意識をあててみましょうか。
ピーターパンの物語って知ってますか?
ずっとこどものままのピーターパンが、真夜中、こっそりとこどもたちの部屋にきて、
妖精の粉をかれらにかけるんです。
そうすると皆空を飛べるようになって、ネバーランドへと遊びにいってしまうお話です。
私は、あなたのピーターパン。
一緒に遊びにいきましょう?
夜の、誰にも見つからない、楽しいお散歩です。
だいじょうぶ、なんだって出来ますよ?ほら。
私はあなたのすぐ上にいます。
見えますか?
あなたが想像してくれれば、私はすぐに身体を持ちます。
私の身体、見えましたか?
それじゃあ、ほら。私の手をとって?
あなたの心だけ、つれてってあげます。幽体離脱、を想像してもらえばいいのかな?
ふふ、そんなに怖いものじゃないです。
ほら、一緒に起き上がって? せーの、ふわっ。
ふふ、おはようございます。
少しだけ、ふわふわしているような感覚ですね。
これで、まるで水の中を泳ぐように、あなたは空気の中を飛ぶことが出来るようになっています。
ほら、それじゃあゆっくりとうつぶせになってみて?
眠ってるあなたがいますね。ふふ、かわいい寝顔。
それじゃあそのまま、一緒に空までお散歩しちゃいましょう。
ほら。意識を上に向けて。
ゆっくり、ゆっくりと身体から遠ざかるイメージです。
蛍光灯がありますね。天井…も、ゆっくり、通り抜けていきます。
上の階はありますか?あればそこも、ゆっくりと通り抜けていきます。誰かが寝ていますか?
なければそのまま、天井からおうちの屋根までを、ゆっくりと通り抜けていきます。
自分や自分の部屋を上から見下ろすなんて、なんだかへんなかんじですね。
さあ、もうすぐ外ですよ。
ふわり、ふわり、…するり。
わあ、外に出ました。夜のにおいがしますね。ほら、少し深呼吸してみましょうか。
あ、カウントはしませんから、自由にやってくださいね。
それから、少しあたりを見回してみましょう。
(沈黙)
何が見えますか?おうちの屋根の上から。
道路、となりのおうち、そのさらにとなりのおうち、
電気がついているところ、消えているところ、部屋の中で起きている影、すごくまばらに歩いている人…。
コンビニ、公園、少し高いビル…
ねえ、どんなものが見えていますか?
私にも教えてくださいね。
あなたがちゃんと想像して思い描くだけで大丈夫。
全部わたしの心に伝わりますから。
でも、面白いですね。いつも暮らしている世界の夜の顔を、誰にも見つからない場所からこうやって見下ろすなんて。
ちょっといい気分じゃありません?ふふ。
さあ、それじゃあ少し身体をならしていきましょうね。
ちゃんと飛べそうですか?
右にゆらゆら、左にふわふわ、身体を泳がせてみてください。
無重力状態ですから、気をつけて。
怖くないですか?
少し慣れてきたみたいですね。
それじゃあ、いきましょうか。はい。手をつなぎましょう。
それから、ほら、屋根を蹴りますよ。それっ…!
わあ、すごい。見てください、どんどん景色が小さく遠く、なっていきますよ。
ほら、上を見上げて。空がどんどん近くなっていきます。
気温はどうですか?つめたい?まだあったかい?
上に上るにつれて、ちょっとずつひんやりしてくるはずですよ。
鳥は飛んでいますか?虫はいますか?
近所で一番背の高い木も、あんなに小さく……ほら、一番高いあのビルも、あんなにちっちゃくなっていきます。
すごく遠く、遠くの景色まで見えますね。
何が見えていますか?教えてください。
あなたのおうちの近く、遠くの景色。
どんどん小さく、どんどん遠く、なっていきますね。
明るかった町の明かりも、だんだん宝石みたいに、それからもっと小さく、星屑みたいに。
小さく、小さく……あ、まちの形が見えてきたんじゃないですか?
それから、県の形。島のはじっこの形。
ゆっくりゆっくり、上にのぼっていきます。
空気はつめたいですか?もう、まちの音も、何も聴こえませんね。
星。星だけがすごくきらきら。きれいですね。
まちの灯りも、だんだん見えなくなってきた。
……あ、ほら、見てください。そろそろ日本の形がわかるんじゃないですか?
ぼんやりと光ってる。わあ、ほら……あそこが北海道で、本州、四国、九州、沖縄……きれいに見えますね。
それじゃ、まだまだのぼりますよ。
もっともっと世界中の形が見えるようになるまで。
ほら、おとなりの韓国、中国、ロシア、うみ、下の方にはインド、インドネシア、どんどん見えてきますね。
ちゃんと見ていてくださいね。
それじゃあ、まだまだのぼりますよ。
わあ、見てください、上!雲を抜けます。
風が強いですね、髪の毛と服が、下から横から、風に触れられて暴れてます。
大丈夫ですか?ちゃんと手をつないでいてくださいね。
あ、雲の層を抜けそうです。
1枚、2枚、3枚……雲を枚数で数えるなんて、なんだかおかしいですね。
たくさんの雲の層を抜けていきます。
もっともっと、ずっと高く、ずっと遠く、宇宙までいっちゃいましょうね。
あ、あれは水平線じゃないですか?ほら。
遠くがなだらかなラインを描いていますね。どんどんどんどん、遠ざかっていきます。
もっと高く、もっと遠く、段々地球の形も見えてきませんか?
まあるい形。もう日本もよく見えませんね。あれかな?ほら、あの小さな点みたいな。
あ、カナダとアメリカはわかりやすいですね。
さあ、それじゃあ成層圏を抜けて、空気の薄い、もっともっと高いところまでいってしまいましょう。
もっと高く。もっと高く。もっと遠く。もっともっと遠く。
空気の分厚い層を抜けていきます。
わたしたちは今、地球からいなくなってしまっています。素敵でしょう?
さあ、抜けますよ。ちょっとだけ気合を入れてくださいね。
しっかり、私の手を握って、空気の層を抜けていきます。さあ、いきますよ。
5、4、3、2、1……
ああ、抜けました。ほら、星がすごくきれいですよ。
見回してみてください。あ、地球ももっと見えるように、もう少しだけ離れましょうか。
わあ、ほら見てください。月も、こんなに近くに。
……宇宙です。漆黒の闇に、燃えるような星々の光。いつもよりもずうっとたくさんの光が見えます。
地球からは星はちゃんと見えないんですよね。こんなにたくさんあったんですね。
もう知ってる星座もわからないくらいですね。満天の星空。
しばらく見上げて、遊んでいきましょうか。
知ってる星、見つけたら、私に教えてくださいね。
わたし?あんまり知らないんです。
デネブ、アンタレス、スピカ、オリオン……? ふふ、ちょっとずつ詳しくなっていきましょうね。
これからいつでも好きなときに。
さあ、自由に遊んでみてくださいね。
そのへんを漂っている小さな石に触れてみたり、深呼吸してみたり。
ここから一番近い星は……火星と金星ですかね。火星人いるんでしょうか?
見えますか……?ふふ。
あ、木星はわかりやすいですね。ほら、あのしましま。さわりにいってもいいですよ。
私は、はぐれてしまわないように、ずっとここにいますから。遊び終わったら戻ってきてくださいね。
土星も少し泳げば見えてきそうですね。あのわっかのところでけんけんぱ、できますね。
何が見えますか?
(沈黙)
あ、流れ星。
きれい………。
何が、見えていますか?
どんな気持ちですか?
どんな感覚ですか?
私に教えてくださいね。
私は、あなたと感覚を共有しています。
私は、あなたの見ている世界を見ています。
あなたの感じている空気を、感じています。
とても気持ちがいいですね。
とっても、きれいですね。
さあ、好きに遊んでみてくださいね。
わたしはここで、あなたと、すてきな感覚を共有していますから。
(沈黙)
そろそろ、帰りましょうか。とっても楽しかった。
え?まだいたい?ふふ、またいつでもこれますよ。
それに今日は、とっておきの、寄り道をして帰りますから。
さあ、それじゃあ私の手をとって。
来た道をゆっくり戻ってきましょう。
地球の引力が私たちを導いてくれます。
あの蒼い星を目指していきましょう。とってもきれいですね。
わたしたちの地球。ほら、手の中にいれてしまえそう。
手をかざしながら、ゆっくり、ゆっくりと近づいていきます。
あおい、あおい地球。
どんどんどんどん近づいて、ああ、もう雲の下に、少し大陸が見えていますね。
それじゃあまた、成層圏を抜けていきましょう。
少し衝撃が強いかもしれません。しっかり手をつないでいてくださいね。
それではいきましょう。
5、4、3、2、1……
ああ、ただいま。ほら、わたしたちの地球です。
それじゃあ、少しずつ降りていきましょう。
足元に広がっている雲の大地。少し歩いて、下へ下へ。少し名残惜しいですね。
ゆっくり降りていきましょう。
まだみんな寝ていますから、慌てなくても大丈夫ですよ。
あ、大陸が見えてきましたね。あの島はどこでしょう?ヨーロッパかな?
日本の反対側は、もう朝なんですよね。不思議ですね。
ゆっくりと地球を回っていきましょう。
ヨーロッパ大陸、エジプト……、あ、あれはサハラ砂漠でしょうか。肌色が見えますね。
そのまま海が続いて、ブラジル、チリの細長い海岸線。アメリカ大陸。太平洋をずっとずっといくと……
あ、ほら、ずっと向こうの方にアジア大陸。
……なんですけど、今日は、帰る前に、少しだけ寄り道しちゃいましょう?
身体の向きを変えて、もう一度海の方へいきましょう。
どこに寄るんですかって?私も今探してるんです。
はあ…夜の海って、すごく暗くて深いですね。ちょっと怖いかも。
波が揺れています。ざぶん、ざぶん……月に照らされて、ほら、下の方でうろこみたいな、白いのがたくさん光ってる。
小魚でしょうか?きれいですね。
ラッセンの絵みたい。幻想的ですね……。
あ、ありました。あの島、いいんじゃありません?
ほら、向こうの……あの島におりてみましょう。
あそこですよ。あの小さな島、見えますか?
満ち潮になったらなくなってしまいそうなくらいの、小さな島……あそこにおりましょう?ほら。
よいしょ……、ああ、なんだか久しぶりの地面ですね。ふふ。
背の低い草がたくさん生えていて、芝生みたい。きもちいいですね。
一面が緑の草原で、その向こうが、すぐ海……なんだか夢みたい。
ほら、みどりと、あお。
くらくて深い青に映る、金色の月。
草のにおい。
木のざわめき。
波の音。
見回してみてくださいね。
何が見えますか?
花?おおきな木?蝶々?それとも、かわいい鳥?
少しこの島で休んでいきましょうね……。
あ、ほら、わたしに持たれていいですよ。どうぞ、きてください。
ふう……。
(沈黙)
不思議ですね。こんなにきれいな風景があることも、私たちがここにいることを、世の中の誰も知らないことも。
でも、なんだかとっても素敵ですね。しあわせな気持ちです。
ずうっとここにいたいくらい……わたしと、あなただけの、ひみつのしま。
あしたも、あさっても、あなたがわたしに会いにきてくれるたび、ひみつのしまはどんどん増えていくんですよ。
ほんとにきれい……。
(沈黙)
なんだか眠ってしまいそうですね、ここで、このまま。
それじゃあこころと身体がばらばらになっちゃう。戻りましょうか。あなたのおうちへ。
ふふ、楽しかったですね。
さあ、手を繋いで。もう一度、ゆっくり飛んでいきましょう。それっ……。
帰りは、ゆっくり飛んでいきましょうね。あなたの眠気を振り切ってしまわないくらいのスピードで。
風をまとって、海を見下ろして。
かわらない、闇の向こうへ……。少しだけ、上昇しましょう。
あ、見えてきましたね。アジア大陸……日本です。
それじゃあ降りていきましょう。あなたの町へ。今度は私を導いてくださいね。
あなたのおうちへ、手をひっぱって。
ゆっくりゆっくり、近づいていきます。
島の形がなくなって、町のあかりが大きくなってきました。
ほこりみたいだった小さな明かりが、宝石みたいにだんだん大きく、暖かくなって近づいてきます。
ああ、この景色、私も知っています。
もうおうちの近くまできましたね。
あなたのおうちは……あのへん、でしたか?
それじゃあ、いきましょう。
きたときと同じように近くまでいって。それから、上から屋根を見下ろして。
ただいま。
それじゃあ、入っていきましょう。あなたの部屋へ。
屋根をゆっくりとすり抜けていきます。天井も通り抜けて、………ただいま。
ああ、ほら。あなたがいた。
寝ているあなたがいますね。ふふ、かわいい寝顔。赤ちゃんみたい。
さあ、それでは、今日はもうお別れです。
ひみつのお散歩は、おしまい。少しだけ寂しいですね。また、いきましょうね。
それじゃああなたは、あなたの身体へと入っていきましょう。
おふとんに潜るように、寝袋に入っていくように。
あなたの身体に、重なって、ゆっくり、ゆっくり……はあ、あったかい。身体の中はあったかいですね。
それじゃあ、手を離しますよ。
そうしたら、あなたは身体の中に完全に入ります。
私の声も聞こえなくなります。
今日はきれいなもの、たくさん見れましたね。
明日も、夢の中でも。きっとたくさんの素敵なことが、あなたにおこりますように。
たくさんきれいなものを、あなたが見れますように。
あなたが楽しくて、しあわせな時間が、毎日少しずつ増えていきますように。
さあ、それじゃあ、手を離しますね。
おやすみなさい。