Track 4

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赤と烏帽子の人

赤「ん、寝ちゃったね…んしょっと」 赤「んしょんしょ…んはぁ…腕、やっと外れた…」 烏帽子の人「おぬし、せっかく人となれるようになったのに、また人形に戻っておるのかの?」 赤「あ、烏帽子の人っ、相変わらずちっこい! いやぁ、まだずっと人でいるのって慣れないみたいで…この子、寝ちゃったので、休憩なんだよっ」 烏帽子の人「ふむ…こやつが、お主が言うとった坊(ぼん)か…ひととしいっておるわりに、かわゆき寝顔ぢゃのぉ…」 赤「でしょうっ、私の自慢の弟なんですっ!」 烏帽子の人「ふむふむ、よき顔で笑うのぉ…お主の心持ちも、わかるがの…こやつは人、お主は人形ぢゃ…いずれこやつが、人として死する時、同じく灰となって、その使命、まっとう出来たやもしれぬのに…それもまたひとつ、人形としての幸せであったのぢゃないのかの?」 赤「んー…そうかもです。けど、この子の心はずっとひとりで…きっとこれからもひとりだと思うんです。人が普通に出来ることが、この子は得意じゃない。だから、いろんな事がうまくいかなくて、全部に捨てられちゃって、そのせいで、ずっとずっと孤独で…今あるものが消えちゃったら…もう、本当に救われなくなっちゃう…」 烏帽子の人「…ふむ…」 赤「私とだって、いい想い出ばかりじゃないです。私がいると、思いだしちゃう事だってあるんです…優しい記憶も、この子には毒になるから…それでも私をずっと傍に置いてくれて、ぎゅーってしてくれて…ぬいぐるみだけど、私を赤として接してくれた」 烏帽子の人「ぢゃから、か…」 赤「そうです! 私ならずっと傍にいられる、いてあげられる…どこへも行かない、この子を裏切ったり、捨てたりなんかしない、この子だけを見ていられる…だから」 烏帽子の人「…それが、こやつのためになるばかりとは限らんぞ? 人は、人と生きてこそ、人に成るのぢゃ…が、まぁ、の…それでも孤独に囚われた魂よりは、堕ちてから手はかからん…もとい、救われるかの…」 赤「……私は、この子が逝くのを見届けられれば、それで…満足です!」 烏帽子の人「そうか…お主の願い、わしは聞き届けた。お主は成りたて下級といえど、付喪神…その寿命は果てないぞ…こやつが逝ったあとも、それは続くのぢゃ…都合良く、消えたりは、もうできぬ。今度は、こやつが味わった孤独とやらを、こやつの何倍も何十倍も抱えて、いかねばならん」 赤「はい…それでもいいんです! この子が、私に与えてくれたもの、見せてくれた世界、物でしかなかった私に生まれた想い出…そのおかげで、私は…ただのぬいぐるみから、赤になれた! それだけで、事足ります!」 烏帽子の人「そうかそうか…ええぢゃろう。その覚悟、見込んだ通りぢゃ! うむ、こやつが逝った後は、赤よ…ワシの所へくるがよい。悠久の時、今度はわしが共にすごしてやろう」 赤「ありがとう、ございます!」 烏帽子の人「くふふ、人の子よ…よく愛し、よき九十九神をつかわせたものぢゃ…刹那その命、赤と全うするのぢゃぞ…」 赤「はい、烏帽子の人!」 烏帽子の人「まぁ、ちょくちょく様子は見に来てやるでの、安心せい…ではの…健やかに過ごせよ坊、そして我が同胞(はらから)、赤よ、ほほほ~」 赤「ありがとう、烏帽子の人…私は、おかげで、いっしょの夢がみれます…」 赤「ね…今までも、これからも、嬉しいこと悲しいこと、全部抱っこして…ずっとずっと、いっしょだよ…」 (了)

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