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靴下の押し売り

 あっ初めまして~♪ ちょっと今お時間いいですかぁ? え~ワタクシ、全世界を愛と希望に満ちあふれさせるために活動している、『ワールドエンジェルフラワーズ』の渡会瀬梨花(わたらいせりか)と申します。どうぞよろしくお願いしますね。ふふっ♪  あ……もしお忙しいようでしたら、都合のいいお時間でも……。んっ……今大丈夫ですか? 本当に、忙しいようでしたら……無理にとはいいませんから……。……えっ? お暇……ですか? ああそれはよかったです……。それではここじゃなんですから……お部屋の方……いいですか?  んっ……駄目ですか? あの……いっぱい資料とか見てもらいたいし……話も長くなってしまいますから……ね、お兄さん♪ 中にぃ……入ってもいいですか? ね……。んっ……あっ、ああんぅ……あれ? 急に頭がふらついて…………きゃっ! あっ、ああっ! すいませんお兄さん……私ちょっと低血圧気味で……よくこんな風になっちゃうんです……本当にごめんなさい……。  でも……今この瞬間、お兄さんがいてくれてよかった……。まるで運命の糸に引かれ合った恋人みたいに……ふふっ♪ なぁんちゃってと♪ 変なこと言ってごめんなさいねお兄さん……。でぇ……そのぉ……中にぃ……入れてくださいますよね? いっぱぁい積もるお話……したいなっ♪  ねっ……お兄さん……頼もしい胸板……。一見華奢(きゃしゃ)に見えてもぉ男らしい筋肉が素敵ですね……ふふっ♪ 太ももとかも……あっ……こんなに……私……好みかも……ふふっ♪ ねっ……お話いいですよね? ねっ……喉もかわいちゃったし……。ほら……口と舌も……れろぉ……れろれろ……だから、入れてくれますよね? ねっ……ねぇねぇ……♪  んっ……あっありがとうございまぁす。なんて優しいお兄さん。それでは失礼してと……おじゃましまぁすねぇ……うふふっ♪  あらっ♪ 麦茶どうもっ♪ んっ……ごくごくごく……んっ♪ 美味しいっ♪ あっ……別におかまいなく。他には何もいらないわよ? お姉さんは君とお話にきたんだからね……。っと……それにしても、君の部屋いいわねぇ……きちんと整理整頓されて……君の誠実そうな人柄がにじみ出てるわよ~♪ え? そんなことない? もう……嘘つかないのっ♪ このこの~♪  君はぁ……真面目で優しそう……そして自分に正直。悪いことと正しいことの分別(ふんべつ)はしっかりつける。それでいて男らしくて頼りになって正義感いっぱいのナイスボーイ♪ ああきっとご両親の教育もいいんだろうなぁ……。もちろんお兄さんも期待にこたえるようにすくすくと健康に育ち、気の合う仲間と親交を深め合い共に切磋琢磨(せっさたくま)している……。  あ~もう誰しもがうらやむような順風満帆(じゅんぷうまんぱん)の人生ですねぇ~♪ 可愛い彼女とかもいるんでしょ? それも何人も何人も~♪ んも~このモテスケ君♪ このこのこの~♪ んっ? ええっ? 彼女……今までいたことない? ええっ……まったまたぁ……君みたいな美男子でお金持ちで優しい子がそんなのってないわよぉ……。  へぇ……ちょっと意外。あ、もしよかったらぁ……セリカお姉さんが君の恋人に立候補しちゃおうかなぁ~なんて♪ ふふっ♪ 嘘嘘♪ 今の本気にしないでね可愛い君……んっちゅっ♪  あらっ……もうこんな時間! 大変。えええっと。ちょっと長話しすぎたわね……。んー単刀直入いうとね君。今日私は……んっ……この靴下をね、君に買ってもらいにきたの? ね……なんでかわかる? あのね……今世界では愛に恵まれない少年少女がいっぱいいるの……。  食べたくても食べられない……勉強したくてもできない……。病気になっても治療できない……。毎日ひもじい思いをして涙を流しながらくらしてる……。ほら、この資料を見て? こんなにガリガリにやせほそった女の子……。まだ小さいのに……この子は明日生きられるかどうかの保障もないの……。  今、ぬくぬくと平和な毎日を怠惰に生きてる私達には、中々想像しにくいことだけどね……現実に世界にはこんな貧困地域がたくさんあるのよ……。ねっ……なんでだろう? 同じ人間なのに……。そう同じ人間。肌とか髪とか目の色がちがえども……まごうことなき同じ人間よ。それなのに……ほんのちょっとした運命のいたずらで、こんな格差が生じるのっておかしいと思いませんか?  はい……私はおかしいと思います! 神様ぁ……あの子達がいったい何をしたって言うんですか? 何か悪いことをしたんですか? ねぇ教えてください……。あの子達は何のために生まれてきたんですかぁ? んっ……ぐすっ……悲しい……つらい……ああん……私ってすぐ涙が出ちゃうんです……。  ほら……恵まれない少年少女が……今も痛い苦しいといいながらもだえのたうちまわって……。そう考えると……本当に涙が後から後から止まらなくて……ううっ……うううう……ぐすぐすぐす……。あっ……お兄さんごめんなさい……。恥ずかしい泣き顔見せてしまって……。  でも世界の現状は今こんなにせっぱつまっているんです……。だから、この世の中はおかしいんです。毎日なんの苦労もなく美味しいもの食べて、いばりちらしてふんぞりかえってる悪魔みたいな人間がいる一方で、死を覚悟しながら毎日を必死で生き抜こうしてる子がいるなんて……。  ねぇ私達は、そんな間違った世の中を変えたいんです。根本(こんぽん)から……何もかもひっくり返したいんです。『ワールドエンジェルフラワーズ』はそのために日夜活動しているんです。世界のまだ目覚めていない天使達に……両手いっぱいの花束を贈ってあげたいんです。今はまだ灰をかぶってしょぼくれていても……あの子達はきっと天使なんです……。世界を平和に導いてくれる……崇高な天使。神のみつかい……。  だから大切にあつかわなくてはならないんです……。ん……? ああ、ええと話がちょっと変な方向にいっちゃったかな? ねぇ君……今……私のこと警戒しちゃってる? ワールドエンジェルフラワーズなんて、うさんくさいと思った? でもねぇ君……この世には理屈ではどうにもならない絶対的な善ってあるものよ……。  ほらぁ……よく『偽善』っていう言葉を使いたがる人がいるでしょう? 何か便利だから調子に乗って……自分がえらくなったかのように錯覚する愚かな言葉よ……それが偽善。ねぇなぜかしら? 困ってる人を助けて……一体何がいつわりなのかしら? ねぇ君は、道ばたで急に倒れた人をほっとける? 普通の人なら……さっと手を伸ばして「大丈夫ですか?」と声をかけるでしょう?  人間としてごく当たり前の行為、それが善よ。ねぇ……偽善とかいう言葉を使うのは、鬼か悪魔よ。もう人の心をなくしてしまった化け物よ。罪もない人を蹴落としてのしあがって……その生き血を吸い続けてモンスターになってしまったのよ。ねぇ……君はそんなんじゃないわよね……。君は……ちゃんと人の心を持ってる……きっとそう。  え? 何その顔? んもう……私は君のこと信じてるんだけどな……。じゃ例えば……私が急に……あっ……胸がっ……んんっ……くるし……息が……はぁーーっ……はっ……うっ……ひゅーっ……ひゅ……うっ……ぁ……ってなったらぁ……。君はすぐに私のために救急車を呼んでくれるでしょう?  ねぇとっても簡単なことよ。当たり前当たり前……。でもその当たり前のことが……今の世の中では失われてきてるのよねぇ……。悲しい……人と人とのつながりが……どんどん希薄(きはく)に……それじゃ駄目なのに……人は一人では生きていけないのに……うん。  というわけでね……。ええと何が言いたいかって言うとぉ……。善は身近にあって日常で普通で……誰にでもできることよ。人間が持ってる本来の機能よ。人間は必ず善から生まれたの。それだけは真実……。ねっ……君……善の大切さってよくわかったでしょう?  ねっ……今から善行をしてみない? ふふっ♪ 別にお姉さんが転ぶとか病気になるわけじゃないけどね……。ほらっ♪ 忘れちゃ駄目よこの靴下。お姉さんは君のためにこの靴下を届けにきたんだから……。あのね……この靴下を買うと……恵まれない少年少女のために愛が届くのよ……。  だからぁ……ほら、これ……買おう? ね? 善の大切さを今さっき理解した君ならわかるわよね? ほら……買います……買っちゃいます……。僕……買います……。ん? 値段? ふふっ♪ それはぁ……一足二千円よ。ちょっと……高いかな? でも……善の前にはお金なんてささいなことよ……。  ねぇ買ってくれる? お姉さん……こんな暑い日にがんばってお仕事してるのぉ……ねぇ。足もパンパンでのどもすごくかわいちゃって汗もだらだらでねぇ……。ねっ……いいこと……しよ? いいことはいくらしてもいいのよ……♪ ふふっ♪ ほら見て……この白い靴下……。  んっ……よいしょっと♪ フリーサイズで誰でもはけるし、はきごこちも最高なのよ……ねっ♪ んっ……見て……君。もっと近くで……ほらもっと……。ここ……触ってみて……つま先。どんな生地がたしかめてみて……。別にすぐ穴があいちゃうとかの不良品じゃないから……ねっ♪ ほら……ほらほら♪  あっ……んんっ♪ やぁん……んっ♪ ああんっ♪ ふふっ……ほらどう? お姉さんのいってることに間違いはないでしょう? しっとりしてさわり心地がいいでしょう? ねぇこれなら一足二千円の価値は絶対あるはずよ……。ほら……買って……ねぇ……買ってちょうだい……。  ほら……君は本当の善に目覚める……。誰かを心から助けたい……。身内だからとか……後でみかえりがあるからとか……そんなの期待してるいつわりの善とは違う……無償の愛よ……。さぁ……君の愛を……世界中に届けてあげましょうよ……。ほら……いい気持ち……君は優しい……だって誰かにわけへだてなく愛をあたえることができるから……ねっ♪  ほら……んっ? ああ……買ってくれるの? まぁ~~~それはよかった♪ やっぱり君は私がみこんだ男の子ねぇ……♪ はじめに顔を見た時から……ふふっ♪ んっと……あっ二千円で確かに購入ありがとうございます♪ これは必ず恵まれない少年少女のために使わせていただきますね……と言いたいところだけど……んっ……ねぇ君ぃ……♪  どうせだからぁ……もっと君の愛を与えたくなぁい? ねぇ……もっと靴下……買って欲しいな……。だってこれいっぱいあるから……。ねぇもちろんおまけもしちゃうわぁ……。ほらぁ……んっ♪ んんっ♪ 一足二千円のところぉ……三足五千円で売っちゃいまぁす……♪  ねっ、これでだいぶお買い得になりましたよね……ふふっ♪ ねぇ……買ってくれませんか? ほら……一足はもう私がはいてますし……やっぱり靴下ってすぐかえが必要じゃないですか……だから……ふふっ♪ ほら……あんっ♪ まだこの靴下のよさがわからないようでしたら……こうやって……ふふっ♪   もっと君の敏感なところを……ふふっ♪ ねっ……ああどうして逃げるんですか? これは生地の感触をきちんとたしかめるためですから……別に遠慮しなくていいんですよ? ほら……ほらほらどうですかぁ? ねぇ……いいでしょう? ふふっ♪ つま先のあたりが苦しい……なんてこともありませんよ?  くにっ……くにくに♪ こうやって楽~に動かせる機能美にあふれた靴下なんですからね……♪ ほら……それに通気性もばつぐんですからね……んっ……ああんっ♪ そうです……もっとよぉくこの靴下がどんな品物か確かめてくださいね……。ほら……買って……こんないいもの……買いたい……購入したい……いくらでも……ふふっ♪     買えば買うほど愛を与えることができる……だから……んっんっ♪ んんんっ♪ あ~~~らお兄さん♪ ずいぶんとこの靴下がお気に入りのようですねぇ……♪ んっんっ♪ ほらもっと感じてください……。全身使って……もっと腰ゆすってもいいんですよ……これが愛の行いなんですから……ふふっ♪  ほら気持ちいい……。どんどん幸せな気持ちになってくる……靴下で……もっともっと……。んっんっ……んんんっ♪ ねぇ……君……ふふっ♪ どうせだから……一万円分購入しませんか? ねぇ……私、君のこと好きになっちゃったかもだから……とってもおまけして……十足で一万円……。これでどうですか? ふふっ♪  当分靴下買う必要ないぐらい……どうですか? ほら……善行する時には迷っちゃだめよ……。ねぇ買って……おねがぁい……れろぉ……♪ 買って……買ってぇ……買って君ぃ……♪ お姉さんの期待を裏切らないでぇ……。君は愛を与えることができる理想の人間だからぁ……ねぇねぇねぇん♪  んふっ♪ ほらどうなのぉ? んっ? んんっ? なぁに? おかしくなりそうなのぉ? どうしてぇ? 愛を与える神聖な行為だから……まじりっけのない純粋な満足感でいっぱいになるはずよ……。ほら……ほらほら……♪ んっ……んんっ♪ 見返りのない純粋な快楽が待ってるのよ……♪  ほら来て……自分の声に従うだけでいいの……。僕は靴下買いたいです……。恵まれない少年少女のため……みんなの笑ってる笑顔が大好きです……ほらぁ……んっんっ♪ 言ってぇ……全部かうぅ……僕は愛をあたえるぅ……それで気持ちいい……♪ ほら……ほらほらほら♪ んっんっ……れろぉ……ちゅ……んっ……んんん……んぶっぶ……♪  ねぇ……来て……こっち……ほら……ん~~~ちゅっぅぅぅん♪ んっ♪ ん? あっ……ああ……買ってくれますかぁ……。ああんもう最高~~大好きぃ~~♪ ん~~ちゅっ♪ 恋人にしたい彼氏にしたい結婚もして赤ちゃんもつくりたぁいん……んっんっんん~ちゅっ♪    ……はっ♪ ああん、いきなり抱きついてごめんなさいね君♪ ふふっ♪ それじゃあ一万円……♪ ……あっありがとうございます♪ 確かにいただきました……。それじゃあ資料と靴下ここにおいておきますね……んっ♪ ふふっ♪ ねぇ君……私達のこと……もっとよく知って欲しいな……。だって君はもっと高みにいける人材だと思うから……。  ねっ……また……きますね♪ 絶対に……ふふっ♪ 愛を与える……愛をさずける……。その方法……もっと教えてあげますからね……手取り足取り……。ワールドエンジェルフラワーズのほこりにかけて……。んっ……楽しみに待っててくださいね……ちゅっ♪ ではお休みなさぁい……うふっ♪ うふっふふふふふ……♪

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