⑩余韻
【ニア】
ふふっ……素敵な時間じゃった……
まるで、心と心が溶け合うような、不思議な時間……
おぬしとでしか生み出せぬ、特別な……
わしはこの巡り合わせに、感謝しか覚えぬ……
…わしにはもう、真の意味で、わしを理解してくれる者はおらん…
おぬしがそうなってくれると…わしは、この上なく嬉しい…
…声が出ぬのが不安か…?
ふふっ、不思議そうな顔をするでないというに…顔に出ておるのじゃて♪
…そう…言葉がなくとも、仕草、空気、表情……
おぬしを構成し、意思を示すものは、たくさん残っておるではないか……
じゃから、問題ない…それに、ずっとそのままとも限らぬであろう?
人間は強い…我ら竜族を退けられるほどの、勇気がある…
さすれば、いつか元に戻ることもあるやもしれん……
その手助けができれば、わしも本望なのじゃよ……
んもうっ、いいったらいいのじゃ!
わしは決めたっ、おぬしに一生ついてゆくと!
じゃから、おぬしは黙ってわしを抱いておればよいのじゃ!
温もりをもって、わしを包み込んでくれる…それだけで、安心なのじゃっ
んぁっ……ん……くふふっ♪
あったかいのじゃ……おぬしはほんに、あったかい……
力が、鎮まってゆくのを感じる……
わしの内側にある、破壊への衝動が、消えてゆく……
ありがとうな…ほんに、ありがとう……
ずっと……ずっと傍にいておくれ……
わしも、離しはせん……
この温もりは、わしだけのモノじゃ……
じゃがな、どんなに想いあえたとしても…ひとつだけ、どうにもならんことがある……
それは、おぬしと一緒に、逝けぬことじゃ……
我らは、寿命が違いすぎる……
わしはまだまだ生きるが、おぬしはあと、100年も生きぬであろう…?
その事実がとてつもなく寂しく、悲しい……
じゃが、それも運命……種族の垣根を越えた者の、さだめ……
じゃから、粛々と受け入れて、おぬしを愛そう……
たくさんの年を重ねても、おぬしが、おじぃちゃんになっても、な……
我らの伝承には続きがあっての……
『愛する者を失った竜は、徐々にその力を失い、朽ちてゆく…』とな
母上も、そのように見えた……
父上が死んでから、徐々に痩せ細り、寿命を待たずして亡くなった……
それがわしにも真ならば……
自我を失って破壊に赴くこともなく、おぬしの後を追える……
そうなれば……最高の一生になるじゃろうなぁ……
わしは、誰かに討たれるよりも……おぬしの死に、呼応したい……
じゃから……おぬしの生が、尽きるまで……よろしくなのじゃ、英雄……どの……
ん……ふ…………すーっ…………すーっ…………
離すで、ないぞぉ……んっ……すーっ………すーっ………