先輩と後輩
1. 先輩と後輩
「せーんぱいっ・・・せーんぱいっ」
「・・・せーんぱいっ! ちょっとなにぼーとしてるの?」
「ほんと、先輩ってば、よくぼーっとしてるんだから」
「・・・」
「それにしても、夏休み始まった頃、部活で先輩見るたびに顔色悪くなってるなーって思ってたら、ご両親が研究で海外にずっと行っちゃってて、
家で先輩ずっーとひとりぼっちで、それで、誰もご飯つくってくれる人がいないから1週間も毎日カップラーメン食べてたんだって?」
「ほんとに、それ聞いたとき、あきれたんだから・・・」
「だから、わたしがこうやって毎晩お料理作りにきてるんだよ?」
「もうちょっとわたしに感謝したらどうかしら?」
「・・・あー、ぜんぜん感謝の気持ちが足りないなー」
「いいのかなー? いいのかなー? そんなんだと、もうつくってあげないぞー?」
「昨日もあんなにおいしいおいしいって言ってたわたしのお料理、もう食べられなくなっちゃうんだぞ?」
「ふふ・・・それでもいいのかな~?」(いじわるっぽく)
「・・・」
「そうでしょう、そうでしょう。わたしのお料理食べられなくなるの嫌でしょー」
「むふー♪ 先輩のためにママからお料理たくさん教えてもらったんだから・・・」
(ちょっと小声で)
「・・・え? ううん、なんでもない。あは」
「うん、今日はカボチャのシチューとピザトーストだからね! 楽しみにしてなさい」
「カボチャ好きでしょ? 先輩!」
「え? 別に普通だって・・・?」
「・・・」
「しばくぞ? 先輩」
「もー、そこは『ちょーかぼちゃすきー』とか、『カボチャが無ければ生きていけないっ!』ってくらい言わないと! あは」
「え? 言い過ぎだって・・・いいのよ、これくらいがちょうどいいの」
「・・・」
「とかいってるうちに、もう先輩の家だね」
「なんかあっという間についちゃったね」
「・・・」(がちゃがちゃ・・・がちゃ・・・・・・・・ばたん)
(玄関の鍵を開けて扉を開けて、扉を閉める音)
「・・・」(どさっ)(買い物袋をおろす音)
「ふふ、おじゃましまーす」
「・・・」
「さーて、ぢゃあ早速始めますかー・・・」
(がさがさ)(ビニール袋をあさる音)
「カボチャと・・・ピーマンと・・・タマネギ、チーズに・・・」
「・・・」
「あああああああっ!」
「・・・」
「ト、トマトピューレがない!」
「・・・あちゃー・・・買い忘れちゃった・・・」
「・・・」
「え? トマトケチャップでいいじゃないかって?」
「だめよ! それは絶対駄目!」
「トマトピューレを使わないピザトーストなんて、お肉の入ってないカレーみたいなものよ!」
「・・・」
「え? 先輩んちのカレー、お肉入ってないって・・・?」
「・・・」
「んと・・・トマトピューレを使わないピザトーストなんて、にんじんの入ってない肉じゃがみたいなものよ!」
「・・・」
「え? にんじん嫌いだって?」
「・・・」
「しばくぞ? 先輩」
「・・・」
「うん。よし! わたし買ってくる」
「・・・」
「あ、近くのスーパーですぐ買って戻るから、大丈夫」
「ひとりでいいよ! ちょっと待っててね先輩」
「・・・」(がちゃ・・・ばたん)(玄関のドアを開けて出ていく音)