トラック10:愛玩人形のキモチ
おはようございます。
昨日は泊めて頂き、ありがとごうございました。
わたし……ずるい女です。決心が鈍るので電話越しでお話、させてください。
あなたは変な人です……でも大好きです。素敵な人です。
あなたと一緒に居れたらいいな、って昨日、あなたの寝顔を見ながら思えたんです。
不思議ですよね。昨日久々に再開したあなたに、こんな気持ちを抱くなんて……。
そういう意味では、わたしはどこか人形として、壊れていたのかもしれません。
でも、最初はお客さんとしてでしたが、最後はあなたを好きと思える気持ちが生まれた。それは事実です。
壊れていても構いません。普通の女の子のように好きになって、愛して貰えたんです。
思い出としてはこれ以上ないってくらい完璧です。ふふ、想像していた以上に幸せでした。
ですが、やはりわたしは、お店の所有物であることには変わりありません。
もしわたしがお店に帰らなかったら、あなたにも迷惑を掛けるかもしれませんし……。
昨日は初めての経験ばっかりでした。
初めてのキス、えっちなこと……それに初めての、わがまま……。
どうかあなたは、あなたに釣り合う素敵な人を見つけて、幸せになってください。
わたしは“心”からそう思っています。本当ですよ?
……それでも、あなたの頭の隅っこで、すごく小さくてもいいです。
……再開したときのように、わたしのことを、どこかで覚えていてくれたら……すごく嬉しい。
こんなこと言うの、ちょっとズルいですかね? ふふ。
最後のわがまま、ということで、お願いします。
……さよなら……それでは、お元気で。
ばいばい……。
(ボーナストラック)
こんな夜更けにごめんなさい。みくです。覚えていらっしゃいますか?
ふふ、そんなに驚いてもらえるなんて……ああ、それは置いておいてですね……。
実はですね、お店に戻ったら、店長にカンカンに怒られて着の身着のまま廃棄されたのですが……、処理場とかに連れていかれた訳ではないんです。
スクラップにするお金がもったいないから、後は自由に生きなさい、って……。
ひどい扱いのような気がしなくもないですが、廃棄されて無くなってしまうということからは、救われたみたいです。
という訳で、突然放り出されてしまいました。
どうしようかな? って思ったらすぐに……。
あなたの顔が浮かんだんです。
まぁその……わたしとしてはものすごく、当たり前なんですけど……。
気が付いたら……ここに足を運んでしまっていました。
……あんな電話をしてしまった後なので、すごく顔を合わせずらいとも思ったのですが……。
初めての感情で……恥ずかしくて、恥ずかしくて……でもあなたに会いたいんです。
ううん、あなたの顔を見たかった……というのが本当の気持ちです。
わ、わたしは人形です。ですが、あなたのことを“心から”愛してしまいました……。
大丈夫です。家事や洗濯、料理だってちゃんと覚えられます。やり遂げてみせます。
あなたは……あのとき、帰らなくていい、と言ってくれました。
今は誰のものでもない、みくを、もらって……くれますか?
言葉を遮っちゃって聞けてなかったので……ちゃんと言って欲しいです。
みくと一緒に居たい……ありがとうございます。
わたしもあなたと……一緒に居れると思うだけで、幸せです。
それに……。
みくは新型人形や人間にだって負けないくらい、まだまだ成長できます。信じてください。
あなたのためだけに、えっちなこととかも、沢山勉強します。
ふふふ……今日からお世話になりますね、旦那様。
大好きです。