プロローグ
1「う~ん、いいお天気」
1「ほら、お空があんなに真っ青……今日も素敵な一日になりそうですね」
3「ふにゅぅ……」
1「ほらほら、いつまでも眠っていたら損ですよ? おきていればその分、たくさんの素敵なことや楽しいことがあるのですから」
3「うんん~……お兄しゃまぁ……」
1「ふふ、そうですね。早く起きて、ご主人様におはようございますを言いましょうね?」
3「にぅう……おふぁようごらいまふ……ふぁぁぁう……」
1「……お嬢様? おはよの挨拶は、しっかりお目目を開けてしましょうね?」
3「ふに……ん、ぅううう~……。ほぇ? アキナ?」
1「おはようございます、お嬢様」
3「んぅぅ……寝てないわよぉぉ……ちゃんと起きてたもん……」
1「そうですね、えらいえらい。よしよし」
3「にへへへへ~…………んー……すぅ……すぅ……」
1「……お嬢様、朝ですよ?」
3「ふぇ? ……ふぁぁー……。んー……」
1「おはようございます、お嬢様」
3「あれ、アキナ? んぅううう~……ふぅ。おはよ、アキナ……」
1「はい、おはようございます」
3 私の名前は、アズサ。
3 このお屋敷で暮らす……まあ、いわゆるお嬢様と言うやつだ。
3 屋敷は窮屈だけれども、可愛いメイドたちや……くす、可愛いお兄さまに囲まれての生活は、そう悪くはない。
3 ……いや、悪く無いどころか、すっかり満喫しているのだが。
3 不埒なお兄さまに色々とエッチなオシオキをしてみたり、ウブな新人メイドにエッチなイタズラをしてみたり……どこの悪徳ご主人様かというような暮らしぶりである。
3 でも、相手の嫌がることはしていないつもりよ? 特にSというのは、自己中心的になったら成り立たない。ちゃんと、相手の喜ぶことをしてあげないと……ただの嫌がらせ。セクハラ。時に虐待になっちゃうもの。
3 相手の心の機微を読んで……して欲しいこと、して欲しくないことを巧みにちらつかせながら、最後には自分からおねだりさせちゃう……。そんなSの醍醐味を味わうには、マゾの心理を知り尽くした上で、計算づくで動かないといけない。……自分で言うのもなんだけど、結構、格好よくない?
3 でもそれも……こんなありさまでは台無しね……。
3「……ごめんね、毎朝毎朝、迷惑をかけるわ」
1「いえいえ、とんでもございません」
3「朝だけは弱いのよね……ふあぁ……んぅう……お恥ずかしい限りだわ、アキナ以外の人には見せられないわね」
1「くす、そんなことありませんよ? 弱点の一つや二つあったほうが、お可愛いものですわ」
3 そう言いながらにこにこ笑うのが、私やお兄さまの世話役でもある、メイドのアキナ。
3 小さい頃からお世話になっている……母のようでもあり姉のようでもあり、親友でもあり……ふふ、お兄さまイジメの共犯者でもある存在だ。
3「私にそんな可愛げなんて、求められてないと思うわ。お兄さまやミズキには、幻滅されちゃうかも?」
1「そんなわけありませんわ? ふふ……で・も……そう仰るのなら、お嬢様の可愛いところは、私だけのもの、ということにしておきましょうか……ふーっ」
3「ひゃうっ!? も、もぉっ、アキナぁっ。んっ……や、やだ……勝手に主人の胸に触るメイドがいる?」
1「ふふ、違いますよ? これはただ、お着替えのお手伝いをしているだけです。ほら、ボタン外しますよ?」
3「ひ、ぅっ……それ、ボタンじゃないっ……も、もぉっ、いい加減にしなさいっ……寛大なお嬢様も、怒っちゃうわよ?」
1「あらあら。それでは……もっとメイドらしく接したほうがよろしいですか? もっと他人行儀で、事務的なほうがよろしいですか?」
3「ん……やだ。……そんなことされたら、アズサ泣いちゃうんだからっ」
3「……くすっ。くすくすくす……」
1「ふふ、ふふふふふっ……お嬢様ったら、人をからかうのがお上手なんですから」
3「ええ、誰かさんに教わったおかげでね?」
1「ふふ、それはいったいどちら様でしょう? ……あ、そうそう。お着替えなのですが、どうもお洗濯が間に合わなかったらしくて、まだご用意している途中でして」
3「あら、それじゃあ今日は、パジャマでご飯を食べるの?」
1「いえいえ、ちゃんとご朝食には間に合わせますよ。ミズキちゃんに、持ってきてもらうようお願いしておきましたから。もうそろそろかと」
3「そう、ミズキが……くす、ねえねえアキナ?」
1「ふふ、なんですかぁ、お嬢様?」
3「もし、あの子が入ってきたとき……私たちがあんなことしてたら、さぞかし驚くわね?」
1「ええ、『ひゃうううっ!? お、お、お嬢様ぁっ!?』とか言って、それはそれは可愛い反応を見せてくれるかと」
3「あ、来た来た。くす、ちょっと前を開けておいて、ズボンは脱ぎ散らかしちゃいましょうか? ……お兄さまには見せられない格好ね」
1「ふふ、ではお嬢様……」
3「ええ……いいわよ、入ってちょうだい。……ん、あんっ……もぉ、アキナったらぁ……アズサのおっぱい、そんなに苛めちゃやぁ……え?」
1「あら……?」
2「すみませーん、遅くなっちゃいましたー! ……あれ? ご主人様、どうされたんですか、お嬢様のお部屋の前で固まって……て。ひゃうううっ!? お、お、お嬢様ぁっ!?」
3「やっ、やだっ! ちょっと、早く出て行って下さいっ!」
2「す、すみませんっ!」
3「ミズキじゃないわよっ! いつまで見てらっしゃるんですの、お兄さまっ!」
1「あらあらあらあら。ほら、ご主人様? 名残惜しいのは分かりますが、今すぐに回れ右をしていただかないと、後が怖いですよ?」
2「あ、えとえとっ! と、とりあえずご主人様はお部屋の外にっ!」
2「え、えーと……お、お着替えを、お持ちしました、お嬢様……」
3「……」
2「そ、そのっ、あれ、ですね……なんていうかほら、ときに人はえっと、その、アレじゃないですか、ほら……」
3「……見られた?」
2「え?」
3「胸、お兄さまに見られた」
2「え、えと……」
3「下着も見られた」
2「そ、それはその……で、でも、お胸はアキナさんの手で隠れてたし……下着なんて、前にご主人様に脱ぎたてのを、ご自分で渡してたじゃありませんか」
3「『見せる』のと『見られる』のは違うの!」
2「ご、ご、ごめんなさいっ!」
3 理不尽に怒鳴りつけられて、健気にも頭を下げるこの新人メイドさんがミズキ。
3 いつも一生懸命で、思わず守ってあげたくなる……はずなのに、なぜだかついつい苛めてしまう、いわゆる『苛めてオーラ』の持ち主である。
1「まあまあ……ミズキちゃんに怒っても、仕方が無いじゃないですか」
3「……そうね。ごめんなさい、ミズキ」
2「い、いえ……そんな、大丈夫ですから……その、お嬢様も、ショックでしょうし」
3「ええ、とても……ショックだわ」
2「ん……」
3「お兄さまに見せるのは、もっと先の予定だったのに」
2「……ふぇ?」
3「『ほらほら、見たいですかお兄さまー?』って餌にして、たかがパンチラごときのために、何万倍も恥ずかしい思いをさせてあげるつもりだったのに」
2「あ、あの……」
3「『私の裸が見たかったら、ほら……そのバイブ使って、自分でお尻をほじくって、びゅーびゅー射精して見せなさい? もちろん、おちんちんに触っちゃダメよ? お尻だけでイくの』とか言って、アナルオナニーとかさせちゃうつもりだったのに」
2「えっと……」
3「それでね、ようやく見せてあげてもほんの一瞬なの。『ほら、約束は守りましたわよ? あはは、ダメダメ。なにがっついてるんですかお兄さま? 今の一瞬をちゃんと網膜に焼き付けなかったご自分がいけないんですのよ? 女の子の肌をなんだと思ってますの? もちろんお兄さまなんかには、一生触らせてなんかあげないんですから』とか言って、泣くまで苛めちゃうの」
2「お、お嬢様……?」
3「それを……ただ一方的に『見られる』なんて許せないわ!」
1「はい……乙女の純情を傷つけ、その夢まで奪い去るご主人様の卑劣な行い……メイドとして、見過ごすわけにはいきません! ねえ、ミズキちゃん!?」
2「ふぇっ……ま、またそのパターンなんですかっ!? え、えと……たぶん、不可抗力、ですよね?」
3「不可抗力だとか過失だとか、そんなことはどうでもいいわ! ミズキ、貴方は許せるの? 乙女の柔肌をあんな、頬を真っ赤にしながらはあはあと息を漏らし、股間を膨らませながら嘗め回すような目で見る卑劣で卑猥で淫猥な行為が許されると思うの!?」
2「そ、その……わざとでないなら、しょうがないっていうか……」
3「こほん……ごめんなさい、聞き方が悪かったわね。ミズキ、あなたは見たくないの? 許しを乞うために、されるがまま、言われるがままに恥ずかしい目に会わされて涙目になっちゃうお兄さま……」
2「ふぇっ……!? あ。…………え、ええっと! そう、ですよねっ! 覗きなんて、卑劣で悪質な最低の行為、ですよねっ!」
3「そうよね! そんなお兄さまのことはもちろん許せないわよね?」
2「も、ももももちろんですっ! わ、私にもそのっ、ぜひっ! ご主人様をオシオキするお手伝いをさせて下さいっ!」
3「もちろんよ! ……ああ、私は素晴らしいメイドたちに囲まれて、幸せだわ……」
2「そうと決まればミズキちゃん、早速作戦会議よ! メイドの意地と誇りにかけて、無実のご主人様を極悪覗き魔に仕立て上げましょう!」
2「は、はいっ!」
3「ああっ、アズサは悲しいですわ。たとえ犯罪者とは言え、愛するお兄さまにあんなこんな酷いことをしなくちゃいけないなんて……くすっ……くすくすくす……くすくすくす……」