新しい朝
【詩乃】
ふぅっ……っ……収まって、きたかな……っ?
じゃあ……名残惜しいけど、抜いちゃうね……
ん………んはぁっ、ぁああっ……ッ
っ……うふふっ……出たくないって、ダダこねられた……かわいぃ……っ♪
ふぅ……っ……息、乱れちゃって……っ……ちょっと、間を置かないと……
ん……っ……ふぅ……っ………、………はぁ……っ……はあ、あぁぁ………っ
……んっ……結構、落ち着いてきた……ゆっくりだけど、激しくて……
うふふっ、あなたも……三回も出したものね……すごいわ
……空が、白んできてる………
もう朝なんだ……一瞬だったね……カラダ、重ねた時間……
とっても、よかった……でも………ちょっと、罪悪感もある………
あなたも、そうよね……聞かなくてもわかる……わかるから………
……わたしはね……夫と子供がいたの……とても、幸せだった……
この店はね、夫とはじめたの……毎日がとても充実してて……
お客さんもね、イイ人たちばかり……子供も産まれて、大変だったけど……
たくさんの愛情に囲まれて……ずっと、そのままいけるんだと思ってた
でもある日……夫が車で、子供を迎えにいって………そのまま………
どうして、私だけが生き残ってしまったのか………
夫と始めた店も、お客さんも……なにも変わらないまま………
幸せだけが、消えた……みんな本当に、イイ人たちばかりで……
触れてこない……ただできるだけ、笑いかけてくれる……
軽く小突いただけで割れる、ガラス球みたいに扱われて……
それがね……嬉しくて……でも、とても悲しい……
知っているから……私と夫を、ずっと見てくれてたから……
いなくなってなお、まだ存在してるみたいに、みんな思ってる……
暗黙の了解みたいに、遠くから励ましてくれる……
どれだけ好意を持っていてくれても、誰も本当の意味では、近づいてこない……
そこにね、あなたが来てくれた……あなたは、なにも知らない……
そして、同じ傷をもっている……すぐにわかったわ……
……ごめんなさい、卑しい女で……
あなたはきっと、そんな気持ちできたんじゃ、ないのにね……
でも、私は耐えられなかった……見えなくなった何かを、ひとりで支え続けるのは……
あなたも、とても愛していたのね……だからこそ喪って、先が見えなくなって……
こんなところまできた……常連以外寄り付かないような、こんな寂れた居酒屋に……
この人だって、思っちゃったの……捨てたはずの気持ちを、取り戻したかった……
……ねぇ……行くところがないなら、ここに……住んでみない?
会ったばかりの人に言うことではないのは、わかってるんだけど……
放っておくとね、どこかにふら~っと飛んでいって……
誰も知らないところで、消えてしまいそうだから……
帰らないで………もっと、傍にいて………わたしを、支えてほしい………
もちろん、タダでは住まわせるのはムリだから……
一緒に、店を切り盛りしてもらわないと、いけないけれど……
……うん……ここは、亡くなった夫と始めた店……
思い出が残りすぎてる……本当は、新しいことを始めたほうがいいんだろうけど……
でも、違う気がするの……あの人が残したからではなく、自分自身のために……
そして、あなたのためにも……それなら、やっていく価値はあると思う
お客さんもね……最初は戸惑うだろうけど、きっとすぐに馴染むと思うわ
だって……私が決めた人ですもの……夫と子供の思い出を、振り切ってまで……
みんな楽しそうにしてくれてるけど、ずっと張り詰めてる……
わたしが、どうにかなってしまわないかって……
あなたはきっとここでなら、たくさんの人を笑顔にすることができると思うわ
だから……ここにいてほしいと思うの……酔狂でもなんでもない
ぼんやりとだけどね……見えるから……
錆び付いていた色んな歯車が、うまく回るのが……
そして、私も………わたしを、一番しあわせにして………
あなたも、一番しあわせにするから………すごく、頑張るから………
求めて、もとめられて………生を、与え合って………色んなものを、抱えながら………
一緒に、生きていきましょう………今度こそ、未来を失わないように………