Track 1

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■パート1

……おそいー。 ごめん、じゃないわよ……。こんなに待たされるなんて、思ってもみなかったわ。 ……許してあげないんだから……。感動の再会を期待して、ドキドキして待ってたのに……。 あまりにも待ちすぎて、ちょっとくたびれちゃったんだから……。 ふふふ……けど、来てくれたのは、少し……ううん、凄く、嬉しい、かなぁ。 それにしても、あなた、寒そうね……こんなに雪、積もっちゃってるのに、どうしてそんな薄着なのよ? バスだって……こんなに雪が積もっちゃってたら、いくら待っても来るわけないのに……。 風邪引きたいの? ……もう、しょうがないなぁ……。 はい。……――何? じゃなくて、手、出しなさいよ。……ほぉらっ……。 ……手、こんなに冷たくなっちゃって……このままだと、本当に風邪引いちゃうわよ? ……ここに居ても何だし……いこっか、ふふふ。 どこに行くかって? そうね……言い伝えの、狐の話が生まれた場所……っていえば魅力的に聞こえるかな? 村でも聞いたんでしょう? 『狐の嫁入り』の話。 物語に出てくる狐が居た住処がこの先の洞窟のなのよ。 興味がわいたかな? ……え? それより気になる事がある? そっか、村で私の事、調べたんだね……。 ごめんね。私は村には住んでないんだ……嘘、ついたのは謝るよ。 『狐の嫁入り』の話は、もう全部、あなたは知ってるのかな? そうそう、行商が狐と結ばれ子を儲けた。という、村の言い伝え……。 実は、私が……その狐と人間の間に産まれた子供なんだ。 信じられないかもしれないけど……本当の事。そんな奇跡みたいな事もあるんだよ? ほら……。 普段は、隠してるんだけどね……この耳やしっぽは、本物だよ? ……あれ? あんまり驚いてないね……作り物じゃないよ? ほれほれっ、それー。 さわさわ……。 むー、なんだか反応薄いなぁー、自慢の耳としっぽだぞー、か、かわいいんだぞー、ふさふさだぞー……。 さわさわ、さわさわさわ……。 ……んっ。あら、しっぽでも耳でもなく、頭を撫でるなんて、よい趣味してるじゃない。 私としては、驚いて仰天してくれたり、気絶でもしてくれるかと思ってたのになぁ。少し残念……。 ……他の伝承や、昔話を他の村とかでも沢山聞いてきたんでしょ。 行商の住んでいた村では「狐婿」という一人息子の跡取りだった行商が狐に婿として取られてしまった話が残っていたり……。 少し離れた村では「狐退治」という人に化けていた狐の一家が殺されてしまうお話があったり……。 あなたには特別に教えてあげる。……大丈夫、悲しい話じゃないから。 子を儲けた話のあとには続きがあってね、幼い子を育てるために人里に住んでいた時期があるの。 子育てって大変だから、疲れて、つい……狐の姿に戻ってしまったところを里の人間に見られてしまったのよ。 言い伝えでは、騙した狐を焼き殺して、村で人を化かすものはいなくなった……ってね。 ここで、話は終わってしまうんだけど、半分くらいは脚色でね。 住んでいた家は焼かれたけど、一家は山へと逃げのびた……というのが本当のお話。 今もそうかもしれないけど……昔の人はね、殺した事にすることで、この里には人間しかいない、安全な里なんだよ。 って里に住む住人や、里に来る人に安心させたんだと思う。 ……だから、そんなに悲しい顔をしないで……大丈夫だよ。こうしてまた、あなたとも会えてるんだから……。 んーっ、ふふふ……。 やさしいね、こうやってあなたに抱きしめられているの、うれしい……。 本当はね。半分狐だって事を話すのは怖かったし、本当の事を話しても……もし、あなたが私の前から去っていかないか不安で一杯だった……。 こんな私だけど、あなたが私の事……その、好きでいてくれるなら、なんだけど……。 一緒に、なって、ほしい、なぁって……。 ……はわー、は、恥ずかしいっ! こういうのは男の人が言うセリフでしょ? もー……。 ……え? そのつもりで、来てくれたの?  ……うー、……もうっ! なんなの!? ……恥ずかしくて、暑くなっちゃったじゃない。 え、……そんな事考えてたら、熱くなって薄着で来ちゃった……。 って、なんだ、寒そうな格好で来たのは、そんな理由っ……。 もうっ、冬なのに、変な汗かいちゃったじゃない。 ふぅ……。 え? 顔赤いって……もう、あなたのせいでしょ? 熱くなっちゃった……。 ……あー、あなたの顔もすごく赤いわよ? お揃いになっちゃったね♪

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