雨露ノ巫女
■パート1
あの、どうか……されました?
わっ! 驚かせてしまいました? ……いきなり、声かけてしもて……ごめんなさい。
こんな場所、人が来るなんて……初めてやし……どうしたんかなぁ、と……思いまして……。
もしかして、迷子、です?
あぁ……やっぱり……迷子の人、やったんですね。
ちなみに……どの辺から、いらっしゃったんです?
……わぁっ……それは、ずいぶん遠くから……こんなとこまで、来はったんですねぇ。
そんなら、お疲れじゃないです? 立ちっぱで話すのもいいですけど……雨も、ひどいですし……。
あんさんさえよかったら……うちの屋敷、来はりませんか? 歩いてすぐ、ですよ。
よかった。それじゃ決まりですね。
じゃあ、こっちです。うちについてきて、くださいね。
あっ……かんにんなぁ。自己紹介、してませんでしたね。
うちの名前、鈴音あゆ(すずね あゆ)って言います。よろしくお願いしますね。
この格好、気になります?
んー……そうですねぇ……あんまり知られてない話、だと思うんですけど……。
雨を降らす者……“雨露ノ巫女(うろのみこ)”って……うち、呼ばれたりしてます。
大昔、ひどい干ばつのとき、うちのご先祖が『雨を降らしてくれ』と願ったそうです。
そして、その願いは叶えられて……干ばつから救った後もそれは続いてて……。
その者の子孫……つまり、うち、ですね。
その周囲では雨が頻繁に降るようになったと、言われてるそうです。
うちも、それをしっかり受け継いじゃってる感じ、ですね。
……ふふふっ、ちょっと心配してくれました? 大丈夫です。
よいしょっと。……ここ、気をつけてくださいね。
嫌われ者とか、そういう意味は全然ないんですよ。田畑が多い地域なので、農家の人たちには結構感謝されてたりしますし。
……着きましたよ。
ちょっと待ってくださいね。
さ、どうぞ。
ここはうち、ひとりだけなので、遠慮なくくつろいでくださいね。
……かんにんなぁ。本当はうちが里まで案内、してあげれればよかったんですけど。
もう何日かしたら、里の人来はるので……その方に案内してもろて、里まで行ってくれれば、と思います。
きゃっ!
……す、すいません、ちょっと、転んでしまいました……。うちが倒れないように、支えてくれはったんですね。ありがとぅございます。
……さっき話したとおり、うちが居る周りでは雨を降らしてしまいます。
なので、うちが里に行くと、雨を降らしてしまうので……この場所から離れることができんのです。
だからこうして……あんさんとお会いできたってこと、偶然じゃないって……うち、思ってたりしてるんです、ふふふ。
あっ……誘惑しちゃいました? ふふっ、冗談です。冗談……。でも、里に行けないのは本当ですよ。
このままだと、風邪ひいちゃいますからね。何か拭けるもの、持ってきますね。