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まったりと夜のひととき

おはよう。 もう一回いってあげようか? お、は、よ、う♪ くすっ……焚き火の音で、起きちゃったかな。 さっきまで、眠っていたんだよ。 もう真っ暗だし、まだ次の村まで着いてないから、野宿してるとこ。ほら、草原の真ん中でちょうどいい木があって、背もたれするのにぴったりだって、キミが言ったじゃない。 疲れてるのかもね……疲れさせちゃって、ごめんね。 ボクが村の盗賊退治なんて引き受けちゃうから、キミにまで迷惑をかけちゃって。 村のひとたちがお礼をキミにも言ってたよ。 それにしても……やっつけるまでは怪我も何もしなかったのにまさか終わった後に石に躓くなんて……ちょっとかっこ悪かった……かな? 村長さんも苦笑いしてたし、うぅ~……格好わるいよね。 隣、座っていい? ほら、この木一本しか無いし、背もたれに丁度いいから。 座っちゃうね。 ……ちょっと、強引だったかな? ね、野宿ってのも、いいよね。 荒野だから、ちょっと周りが寂しいけど……。 夕日が沈んで夜になって、焚き火のゆらゆらした炎を見ながらご飯を食べて……今、こんなふうに、まったりして。 もうちょっと、傍にいっていい? 肩が触れるくらい、近くに……。 ボクと一緒に、旅をしてくれてありがとう。 こうして僕がちゃんと旅することが出来るのはキミの料理のおかげだよ。 剣を振るのは得意なんだけど、それ以外のことからきしだし、キミがなんでもしてくれるから。 キミがいてくれなかったら、ボク、なんにもできないもの。 お世辞じゃないよ。キミがいてくれるから、ボクが勇者として、冒険できるんだから。 あれ……き、キミ、手、怪我してる!? もしかして、さっき薪さわったから? ちょっと手出して。ん? 大丈夫じゃないでしょ、はい、手出して見せて! ん~、火傷はしてないみたいだけど。棘が刺さったみたい。もう、黙っているなんてだめだよ……痛いなら痛いって言ってよね。 もう、ちょっとだけ我慢してね。抜いてあげるから。 はむっ……ほは、てほひはひへ……あむ、んっ、ちゅっ、んん……うぅ……ちゅ……ん……まだ取れてないみたい。もう一回。 ふみゅっ、ふあ、くひっ、くひびるひ……むぅ……あっ、ごめん。今ちょっと噛んじゃったよね? 痛くなかった? 気を付けるから、もう一度。 んん~、んちゅぅ、ちゅぱっ、にゅうっ、んん……ん、んぺっ、ちょっとくすぐったかったかな? へへ、ごめんね。 でも、これで棘は取れたよ。 よいしょっと、鞄の中に薬草があったはず……うん、これこれ。ちょっとヌルヌルするけど、この葉っぱを傷に当てておくとすぐ治るよ。 ちょっと手を開いてパーにして。手のひらをつーっとなぞって、指の間もしっかり……ヌルヌルのお薬をつけて……っと。 キミの手……あったかい。ほら、わかる? ヌルヌルした私の手、触れてる。キミの指に私の指が絡んで……暖かいのが、伝わる感じ……。 えへへ……ちょっと、握ってみようかな。 ……はぁ、暖かいなぁ~キミを握ってる手も、キミに握られてる手も……ぽかぽかするね。 もっとこうしても、いい? もうちょっとだけ、もうちょっとだけ……放さないでね。君の手の感触……もう少し……。 ……ックシュッ! ちょっと、冷えてきたね。お日様も沈んじゃったし……もっと、肩寄せていい? 指だけじゃなくて、もっと、肩と肩を寄せ合って……ふふっ……あったかい。 キミはどう? 暖かい? もうちょっとくっつこうか。 ほらっ、重なるくらいくっつけば、もっとあったかいよ。 ……くすっ。 ……くすくすっ……。 えへへ~、なんだか、変な気持ち。 覚えてる……かな? 小さい頃お泊りした時とかこうしてたよね。あと、一緒にお風呂に入ったりしたっけ。 へっへー! ボクは覚えてるよ。背中流しっこしたり、頭洗いっこしたり……キミは目に泡が入るからってぎゅぅ~って目を閉じてたっけ。 そこで、さらにボクがこう、ワシャワシャ~って髪の毛を洗ったんだよね。そうしたら余計に泡が目に入って……あっ、思い出して目が痛くなっちゃった? ごめんね。 んむぅ……野宿続きだからお風呂が恋しいよね……水浴びだけだと髪の毛がなんだか砂っぽくなっちゃう。 ……隣にいるけど、ニオイ、気にならないかな? 一応、水浴びはしてるし、臭くは無いと思うけど……どう? むぅ……解らない? 髪の毛とかさ……えっ、良い匂い? そ、そう? だったら……よかった。 キミも、とっても良い匂いだよ。 すーっ……キミのニオイも、好き。 キミの体温やニオイを感じるほど、キミがそばにいるんだなって思うんだ。キミはどう? ボクのニオイや手の感触、暖かさで……ボクを感じる? 真っ暗でも、そういうの、わかると思う。 ボクはわかるよ。キミの優しい指も、キミのニオイも、くっついている身体の暖かさも。 薪の音だけがパチパチとして、二人の声だけが聞こえて……周りは真っ暗になって……この世界に、ボクとキミしかいないみたい。 ……うん、そうだよね。 ボクが勇者になって世界を救わないと、今みたいに、誰もいない、真っ暗な場所になってしまう。 でも、今みたいに……キミが隣にいてくれるだけで、ボクは、頑張れる。 ……ちょ、ちょっと、格好つけすぎたかな? ボク、顔が熱いかも。 キミより、体温高くなって、手が汗ばんできて……やだ、手、汗で余計にヌルヌルになっちゃった。 えっ、どれくらい熱いか、知りたいって? じゃあ、顔をこっち向けて。おでことおでこ、合わせるから。 ……んー、ちょっと肩を並べてるこの姿勢だと辛いよね。 じゃあ、手はつないだままにして……膝のうえに乗るね。ちょっとだけ重いかもしれないけど我慢して……よいしょっ。 さて、おでことおでこをくっつけてっと……くすっ、ちょっと鼻と鼻がかすっちゃったね。 ふふふ、小さい頃熱出した時にお母さんがこうしてくれたっけ……なんだか懐かしいなぁ…… おっと、それじゃ、おでこをもう一回くっつけてっと……わあ、温かい。 ボクの額が熱いの、わかる? えへへ……ちょっと恥ずかしいね。 キミの膝の上に向い合って、私が乗っていて……恋人が抱き合ってるみたい。顔もこんなに近くて……お互いの、息がかかるぐらい。 ……もっと、くっついちゃおうか? ほら、これで、どうかな? ボクの胸が、キミの胸に当たるぐらいくっついちゃった。 ……あったかいね。とっても。 ボクのカラダ、固くないかな? 剣を振っているから、普通の女の子より、筋肉あるし……で、でも胸にはちょっと、お肉が付いてきたんだよ。 ほら……くっついたらわかるよね? おっぱいは、普通の女の子と同じように、柔らかいし、他の子よりちょっとは大きいと思う……どう? あんまり大きくなりすぎちゃうと、鎧が着られなくなるけど……おっぱいの大きな女の子、嫌いかな? って、何を言ってるんだろっ……今のなしっ! 勇者だって思われないって、また言われそう……うう……。 そ、そうだ。そろそろ薬草が染みこんできた頃だと思うから、もう一回塗るね。 動かなくて大丈夫だよ。指だけほどけば、このまま動かなくても、できるから。 もう一回、ヌルヌルの薬草を手につけて……また、指に絡めて……はい。おしまい。 ……ご、ごまかしてないよ! ほんとだから。 喉、乾いてきちゃった。ちょっと水筒取るね。 あいている方の手で、水筒を……よいしょっと。 んく、んく……ん……ふはぁ……ん? キミも飲む? じゃあ、口を開けて……はい。 ゆっくり、自分のペースで飲んでいいからね。苦しくなったら、やめるから――。 (間を開ける) ……どう、満足した? えっ、間接キス!? いやボクは気にしないし……その…… べ、別にこれくらいなら……そんなに、その……キミなら、別に構わないというか……でもでも、えと、えっと、うぅ……。 ……こほん。その……まあ、キニシナイキニシナイ! ボクは、そんなこと気にしてないんだから。ほ、ほんとだからね……も、もう寝ようか。 暖かいし、このままくっついた状態で寝よう。 このまま、ゆっくり横に倒れて……草むらの上で横になるのって、気持ちいいよね。ちょっとチクチクするかな? ボクは、こういうの好き。 あ、ほら、上。空……見て。 気づかなかったけど、とっても綺麗な夜空だね。雲一つない。何にも遮るものがないと、夜空ってこんなに明るいんだぁ……。 えへへ……二人で横になって、星の数を数えるって、なんだかロマンチックだよね。 ねえ、あそこにある、大きな星が並んでるのわかる? あの星は、恋人を待つ灯火なんだって。 昔、一人の漁師が恋人の女性に、夜に戻るから灯りをつけて待っていてって告げて、漁に出たの。 でも、男の人は海から戻らなかった。 でも恋人の女性は、ずっと海に向かって灯りをつけていて、男の人を待ち続けた。 何日も、何年も……。 そのうちに、女の人と灯りは、明るい星になった。 ずっとずっと、恋人の帰りを待つために。 あの星は、「漁師の星」って言われているの。漁師が海で迷ったとき、あの星を見て方角を定めるんだって。 もしかしたら、あの星を眺めて……海に出た恋人は戻ってくることができるかもしれない。 ちょっと悲しい話だけど、ボク、この話が好き。ずっと好きな人のことを待ち続けられるって、素敵だと思うもの。 あ、いやその……そういう人がいるとかそういうのじゃなくて……ぼ、ボクだって女の子なんだから……そういうのに憧れても、いいじゃない。 空……きれいだね……。 ……ね。 最後に、さ。 ……だっこ……していい……かな? そのぉ……寒いと眠れないというか……ほ、ほら、このまま寝ちゃうと風邪引いちゃいそうだし……ま、また勇者っぽくないって言わないでね。 え、いいの? やったぁ! それじゃぁ、指を離して……両手を背中に回して、だっこ! ぎゅって抱きつくと……なんだか、安心する。 えへへ、ありがとね。キミのそういう優しい所……大好きだよ。うん、大好き。 明日になったら、またボクは、勇者としてみんなの希望にならないといけない。 ボクが弱い姿を見せたら、みんなが悲しむ。 だから、キミの前だけしか、こういうボクを見せられない。ボクは、キミがそばに居てくれるから、頑張れる。 もういちどいうね。 ありがとう。 ……えっと……ねぇ……これからも、ずっと……一緒にいてくれるかな? これからも、ずっと一緒に……ボクと、いてくれる? いっしょにいてくれるなら……約束のキス、してくれるかな? ボクのおでこでも、頬でも、どこでもいいよ。キミのいちばんしたい場所に、キス。 さあ……ボク、目をつぶってるから。 (間を開ける) ……そろそろ、本当に寝ようか。 おやすみなさい。 ボクはキミといられて、幸せだよ。 また明日も、一緒に……がんばろうね。

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