Track 1

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1日目

―リビング・朝― 妹002「ふあぁ……。んぁ、兄ちゃん。おはよぉー。もう制服だなんて早いんだね」 兄「……」 妹003「ちょ、うわ、妹がきちんと朝の挨拶したのに返さないとか。いっつもがみがみ“挨拶しろー!!”ってうるさいのは兄ちゃんのほうだろ!」 母「おはよー、妹ー」 妹004「あっ、おはようお母さん。ってちょ! 兄ちゃんもう出るの!? 早いよ早い! あたしまだご飯食べてないんだから待って――」 兄「いってきまーす」 妹005「ておいこら待てやー!!」 母「いってらっしゃーい」 妹006「んもうっ。お母さん、朝ごはん朝ごはん!」 母「はいな」 母、弁当を机の上に置く。 妹007「……え? どうしたの、これ」 母「兄があんたのために弁当を作ったんよ」 妹008「兄ちゃんが……? あたしに弁当を……」 母「朝早くから起きてたわねー」 妹009「早起きしてまで……?」 母「母さんよりも早かったのよ」 妹010「お母さんより速く!? 信じらんない……」 母「きっと照れくさかったんじゃないの」 妹011「なるほど。照れくさくてあんな素っ気無い仏教面をしていたと。辻褄も合うな。そしてこの弁当は、昨日あたしと喧嘩したことの侘び。ふふっ、兄ちゃんもとうとうあたしに媚を売るようになったのね~」 母「にやにやし過ぎ」 妹012「に、にやにやしてない! ……いただきます!!」 ―学校・昼休み― 妹013「こそこそ……こそこそ……、お弁当の中身は……うおっ、綺麗……」 友「なに自画自賛してるのよ。自分で作ったんでしょ?」 妹014「へっ!? あ、いやー、実はこのお弁当、あたしが作ったんじゃなくて、ウチの兄が作ったものなんだよ」 友「へー。妹のって、あのお兄さん?」 妹015「そう。あの冴えない間抜け面した兄」 友「ふーん。料理できるんだね。いがーい」 妹016「まぁ、料理が出来たとて、それ以外に秀でたところなんてありゃしませんがね」 友「でも、料理のスキルって中々のもんだと思うよ? やっぱ妹のお兄さんいいなぁ」 妹017「うぇっ!? あ、あんた、もしかしてウチの兄貴狙ってるの?」 友「別に。いいなーって思ってるだけ」 妹018「駄目駄目だめっ!! 候補の中に入れるだけでも大問題だよ! ウチの兄貴なんてね? 箸の持ち方だとか喋り方だとかお行儀だとかガミガミガミガミてめぇは小姑か!! ってな具合でお母さんよりお母さんしてるんだよ?」 友「少なくとも箸の持ち方とか指摘するのは良い教育だと思うけど」 妹019「そんなことないよ! あんたが思ってる以上に、ウチの兄貴はね、駄目駄目で、鬱陶しくて、もう、兄であることが恥ずかしいくらいに――」 友「あ、お兄さんあそこにいるよ」 妹020「えっ、兄ちゃんが!? どこどこっ!?」 友「食い付きすぎだろ……。ほら、あそこあそこ。女の人と歩いてる」 妹021「えっ……。あ、ほんとだ……。女の人と歩いてる……」 友「楽しそうですな」 妹022「そっだね。楽しそう……」 友「彼女かな?」 妹023「か、彼女なわけないじゃーん! 兄貴ったら、彼女いない暦=年齢なんだよ? そんなやつが彼女とか~」 友「あんたも一緒じゃん」 妹024「うぐっ。た、確かにあたしも彼氏いない暦=年齢ですけど……」 友「……ささっ、ご飯ご飯。あたしは定食なんだから、冷めたらまずくなっちゃう」 妹025「あ、そだね。……いただきます。はむ。――あ。……おいしい」 ―学校・放課後― 妹026「――っはぁ、はぁっ……ひぃっ、ふぅっ、へぇっ、ほぉっ……ん、んぐっぅ!! っっっ、っはぁーっ、つ、着いた……」 妹027「ここが……ぜぇ、ぜぇ……っ兄ちゃんの、グラズ(クラス)……ふぅ……」 妹028「あーんもうホームルーム終わっちゃってるよぉ……。兄ちゃん、兄ちゃん……あっ、すみません!」 男「ん、あぁ。なに?」 妹029「えっと、えと……あのぉー……」 男「あれ、もしかして兄の妹?」 妹030「えっ、あ、そうです。妹です。いつも兄がお世話になってます」 男「あ、いえいえ。ご丁寧にどうも」 妹031「ところで……あのー、兄はいらっしゃいますか……?」 男「んー? いやー、兄ならもう帰ったんじゃない? 姿かたち、机の上にカバンもないし」 妹032「え、もう帰ったんですか? うぅー、そうですか……。ありがとうございます」 男「いえいえ」 妹033「むぅ……先に帰るだなんて……すばしっこい奴です……。はっ、もしかして……、あの女狐と……? ~~っっこうはしていられません!! 兄ちゃん、その素顔を我に晒せよ!!」 ―通学路・夕方― 妹034「――っはぁ、はぁっ…………ふぅ……。見つけた……。あれは……、ほっ。男友達か」 妹035「むぅ。何やら楽しげな会話が聞こえますな。男同士の会話……ふっふっふ。なにやら如何わしい香りがしますなぁ」 妹036「……。とりあえず、一人になるまで待つか」 ―通学路・夕方― 妹037「やっほ、にーちゃんっ! 奇遇だねぇ? ふっふふー、せっかくだから、妹様と一緒に家路に着こうではないか」 兄「……」 妹038「んもう何か言い返してこいよ!」 兄「……」 妹039「……あー、そうそう! 今日、兄ちゃんがあたしのお弁当作ってくれたんだって? いやぁ、あたしびっくりしたよー。あんなことしてくれたこともないのに。味もまぁまぁいいしさ? それに卵焼きは砂糖たっぷり!! ちゃんとあたしの好みをチョイスする当たり、兄ちゃんの本気が伺え――」 兄「……」 兄、スーパーに入る。 妹040「てちょ待たんかーっ! 人の話を聞けっつーの!!」 ―スーパー・夕方― 妹041「何か買い物頼まれてたっけ?」 兄「……」 妹042「……。今日の晩御飯、なんだろうねー? あ、もしかして晩御飯も兄ちゃんが作ってくれるとか?」 兄「……」 妹043「…………。あ、あたしあのプリンが食べたいなぁー、なんつってっ」 兄「……」 兄、プリンを籠い入れる。 妹044「へっ? あっ、買って、くれるん、だ……。冗談だったんだけどなぁ」 兄「……」 妹045「うわ、お菓子じゃなくて野菜買ってる。中々本格的に買い物しているんだね。やっぱ、マジで今日の晩御飯は兄ちゃんが作るとか!?」 兄「……」 妹046「……反応、なし。なんだよ……つまんね」 兄「……」 妹047「あーもう、ちょっと待ってよ! プリン代! プリン代くらいはあたしが出すから!」 ―通学路・夕方― 妹048「……結局全部兄ちゃん持ちだったし。別に100円ちょっとでケチケチしないよあたしは」 兄「……」 妹049「……。ねぇ、もしかして、昨日のことまだ怒ってる?」 兄「……」 妹050「そりゃ、あんなこと言ったのはあたしのほうだけどさ。別にそんなムキにならなくてもいいじゃん。家族なんだしさ、ちょっと口論になっても、1,2分後にはさも忘れたように笑いあえるもんじゃん?」 兄「……」 妹051「なんか、言えよ……」 兄「……」 妹052「っ。……あー。あたし、牛乳持つよ! 片方貸してみ! 大丈夫、それくらいならあたしだって持てるさ! 遠慮せずに! ほら!」 兄「……」 妹053「ほ、ら……」 兄「……」 妹054「……なんなんだよ、ちくしょう……」 兄「ふあぁ~」 妹055「……。今日、昼休みに……。兄ちゃんが、女の人と歩いてるの、見た。珍しいなー、女の匂いなんて全くしなかった兄ちゃんに、とうとう春が訪れちゃうのかな~?」 兄「……」 妹056「そっか……。先、越されちゃうんだね。そっか。姑みたいに小うるさい兄ちゃんより、絶対あたしのほうが先だと思ったんだけどな……。まっ! 精々兄ちゃんも頑張――」 兄「……」 兄、妹を引っ張る。 妹057「――ひゃわっ、っとっと。に、兄ちゃん?」 兄「……」 妹058「ん……? あっ。赤信号だったんだ」 兄「……」 兄、妹の頭を軽く小突く。 妹059「んにゃいたっ! うぅー、頭叩かないでよ。馬鹿になったらどうすんのさ」 兄「……」 妹060「……嘘です。そんなに痛くありませんでした」 兄「……」 妹061「……」 兄「……」 妹062「……なんなんだよこの空気」 兄「……」 妹063「うがぁーっ!! なんか喋れよ! なんなんだよ! 何かの当て付けで無視してんなら無視し続けろよ! ところどころ優しいのはなんなんだよ!! なんか気持ち悪いんだよ!!」 兄「……」 妹064「だーかーらー無視すんなよばかああああ!!!」 ―浴室・晩― 妹065「ふぃ~っ」 妹066「……結局、あれから一言も交わしてない……」 妹067「うぅー、兄ちゃんがなにを考えてるのか全く解んない……」 妹068「そもそもなんで口利いてくれないんだろ……。って、昨日あんなこと言っちゃったからだよね……」 妹069「さすがに捨て台詞に“小姑”は酷かったかな……? うぅん……」 妹070「――はっ! そうだ! いっつも兄ちゃんに叱られてることやればいいんだ! そうすれば兄ちゃんも口を開いて、すかさずあたしが『ぐへへ~、喋ったなぁ~? 兄ちゃんの負け~!』」 妹071「と、こんな感じで煽る! ふふっ、これで勝つる!」 妹072「こうはしていられん! 待っておれよ、兄ちゃん! てめぇのその仮面を剥ぎ取ってやるぜぃ!」 ―兄部屋・晩― 妹073「兄ちゃーん、いるー? 入るよー?」 妹074「やっほー、兄ちゃん。くっふふー、野球盤やろうぜ野球盤!!」 兄「……」 妹075「ほらー、さっ? ネットなんていつでも見れるんだしー、こっちは人差し指だけでできるんだぜ? ねぇ、だめぇ?」 兄「……」 妹076「完全無視……こ、ここまで想定内だ。ここであたしが後ろからぁ、兄ちゃんの首に腕を回して……」 妹、後ろから抱きつく。 妹077「にーぃーちゃんっ。ほらぁ、やろーよぉ。野球盤やろーよぉ。それとも……野球拳しよっか? 今ならもれなくバスタオル一枚のあたしと一本勝ぶ――っくしゅん」 兄「……」 妹078「んあぁ、すまぬ。へへ……。気を取り直して野球うわっと!」 兄「……」 妹079「へ、あっ、ちょっ。腕掴ん――きゃっ」 兄「……」 妹080「あれれ。ベッドに座らされちゃったよ。えと、あれ。コレは、もしや……だ、駄目だよ兄ちゃん、あたしたちは兄だ――うぷっ」←兄妹(きょうだい) 兄「……」 妹081「あ、毛布を肩に……。んにゃんあぁ、髪も拭いてくれる……」 兄「……」 妹082「なんだこれは。なんなんだ、これは」 兄「……」 妹083「え、あっ、背中押さないで、まだ、話があ――」 扉が閉まる。 妹084「締め出されてしまった」 妹085「うぅん……」 妹086「ま、いっか」

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