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第一話

第一話 「登下校でもアプローチ」 ―実家玄関先・朝― 作戦:No.01 「髪を弄る」 【男】 「いってきまーす」 がちゃ 【やつこ】 「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」 【男】 「おい」 【やつこ】 「もぐもぐ――もぐ? ん、んぐっ、んっ……。  おはよっ!」 【男】 「おう」 【やつこ】 「うんうん、いいお返事だね。表情も活き活きしてるし、  今日は目覚めがよかったのかな?」 【男】 「わかるか?」 【やつこ】 「うん。解るよー。なんかこう、  “やってやるぅーんだ!”って顔してる。今日一日に  向けての気合を感じますなぁ。はぐもぐもぐんむ」 【男】 「ほう。さすがは幼馴染と言ったところか」 【やつこ】 「ん? これ? へへ。蒸しパンだよ?  お母さんが食べて行きなさいって。食べたい?   ちょこっとだけならあげないこともなーいよ」 【男】 「誰もその(パンの)こと指摘してないだろ!」 【やつこ】 「いらない? そっかぁ……。  じゃあ私が全部食べるぅーはぐもぐもぐもぐ」 【男】 「会話が成立していない…、いや、案外成立してるよう  な…」 【やつこ】 「――はっ! そうだった! お母さんが半分分けてあ  げなさいって言ってた!ん……(ちぎりちぎり)。  はい、半分こ」 【男】 「食べかけを半分じゃねえか」 【やつこ】 「いいのいいの、気にしないで食べていいよ。  栄養は補給できる隙にしておくべきなのだよ、  ワトソン君」 【男】 「お前は補給しすぎな感が否めないが」もぐもぐ 【やつこ】 「うぐっ! そ、そんなに食べてないもん。常に何かを  口に入れてるわけじゃないもん。ちゃんと朝とお昼と  晩にだけだもん」 【男】 「ホントは?」 【やつこ】 「……ほ、ほんとは、お八つ時と夕方も食べてます……」 【男】 「やったぜ。」 【やつこ】 「だってぇ……、その時間に食べると美味しいから……」 【男】 「肉は腐りかけが一番美味しいに通ずる何かを感じるな」 【やつこ】 「ん。んーっ、も、もういいでしょ! 早くいこっ」 【男】 「ちょっと待て」 【やつこ】 「えっ。どうしたの? 何か忘れ物?」 【男】 「じっとしてろ」 【やつこ】 「じっとしてろ? う、うん、解った。  気をつけしてるね」 【男】 「髪が乱れてる」 【やつこ】 「うそっ、髪が乱れてる?  どこが、どんな感じになっちゃってるっ?」 【男】 「直したる」 【やつこ】 「あ、直してくれるんだ。へへ。じゃあお願いするー」 サッサッ 【やつこ】 「んー……。んふふっ。ちょこっとくすぐったいかも」 【男】 「我慢しろ」 【やつこ】 「んーん。嫌なくすぐったさじゃないから、我慢するよ  うなことじゃないよ」 【男】 「そうか」 【やつこ】 「でも……、前髪を弄られるのは、ちょこっと恥ずかし  い、かも」 【男】 「ふーん」 【やつこ】 「だって、なんだか見つめられてる気がして」てれてれ 【男】 「そうか(計画通り」 サッサッ 【男】 「もういいぞ」 【やつこ】 「あ、終わった? へへ。どう? イケてる感じ?」 【男】 「おう。ばっちりだ」 【やつこ】 「おー、オッケーサインを頂きましたー!  ふふっ、これで今日の私の乙女度は割増しになった  ことになるのだね」 【男】 「どっから出てきたその割」 【やつこ】 「直してくれてありがとっ。今までこんなことされた  ことなかったから、ちょこっと緊張しちゃった」 【男】 「なんなら毎日してやろうか?」 【やつこ】 「ぇえ!? ま、毎日は……えと。  は、恥ずかしいからぁ」 【男】 「そうか?」 【やつこ】 「そうだよー。もー、全くもう」 【やつこ】 「なんでそういうこと言っちゃうかなぁ」てれてれ 【男】 「(かわいい)」 【やつこ】 「そ、そろそろ行こっか。早くしないと遅刻しちゃうし」 【男】 「おっ、そうだな」 てくてく ―通学路・朝― 作戦:No.02 「ほっぺを突つく」 【やつこ】 「はあぁぁぁお昼ごはんなに食べよっかなあぁぁぁ」 【男】 「さっき朝飯食ったばっかだろ」 【やつこ】 「む。別に早くないよ。だって今のうちに食べるものを  決めておかないと、お昼になってから悩むでしょ?  ただでさえ、いま考えてみても……」 【やつこ】 「“あぁ、日替わり定食にしようかな。でもでも、特盛り  定食も外せない。あぁんでも、王道・A定食も食べた  いなぁ”ってな感じで。すぐに答えなんて出ないんだよ?」 【男】 「幸せな悩みだな」 【やつこ】 「それを、“今じゃなくて、後にしろー”なんて……。  そんなことしたら、お昼ごはん決められないまま  お昼が過ぎちゃうよ!」 【男】 「くくっ……。幸せな悩みだな」 【やつこ】 「む。なーに笑ってるの」 【男】 「笑ってないぞ」(キリッ 【やつこ】 「うそ、笑ってたー。  “幸せな悩みだなプクク”って笑ってたー」 【やつこ】 「はぁあー。私の幼馴染は、私が食べるものに悩み続け  て空腹のままお昼を過ごしても構わないって言うんだ  ……およよ~」 【男】 「ダイエットにはいいんじゃないか」 【やつこ】 「だ、ダイエットには丁度いい……。ぐぬっ、ぬ……っ!  私が忘れようとしていたことを……。  そ、そんなに太ってないもん」 【やつこ】 「――はっ! も、もしかして……、私が昨日の晩に85  0g増えてたことを知っている!?」 【男】 「知らねーよ。なんの告白だ」 【やつこ】 「なーんだ、知らないんだ。ふぅ、びっくりしたー。  お母さんが告げ口したのかと思ったよ」 【男】 「(母親に報告してるのかこいつ)」 【やつこ】 「しかし、850gもどこに付いたんだろ。うぅ……、  なんだか怖い」 【男】 「そのふくよかな胸じゃないんですかねー」 【やつこ】 「へ? そのふくよかな胸……――っ!?(ささっ)  ……どこ見てるのー。えっちー」 【男】 「冗談だ。付くなら……ここじゃね」 【やつこ】 「ん。冗談なら、戯れを許そう。  ……うん? ここに付いてる? ここってどこ?」 【男】 「だからここ」つん 【やつこ】 「むぬあ。なんでほっぺつつくの」 【男】 「ここに付いてるんだろ。その850g」つつつん 【やつこ】 「リズミカルに突つくのやめてくれませんかね……。  というかっ、こんなとこに850gも付かないよー。  850gって結構多いんだよ?」 【やつこ】 「ポテトチップス十袋分だよ十袋分! それだけの  量が頬っぺたに詰まってるわけないでにょ」むに 【やつこ】 「~~っ、だからつっつかないでってばぁ」 【男】 「楽しい」 【やつこ】 「楽しい、って……。私は、恥ずかしいんだけど……」 【男】 「勿体無い」 【やつこ】 「……ほら、知らない人に変顔見られちゃうし。  にゅっ。  ……なんれ頬っぺた摘まんでるお」 【男】 「おー、伸びる」びよーん 【やつこ】 「くうぅ……。こうなったら私も……っ! ふぬっ」 【男】 「おっと」ぐいっ 【やつこ】 「わーっ! セコい! 人の顔抑えて腕伸ばすの反則だ  よっ! こらっ、顔寄越しなさい! 私も頬っぺた  突っつくの!」ぐぐぐ… 【男】 「無理無理」 【やつこ】 「うう~……! 余裕の笑みで頬っぺたむにむにしてぇ  ……。むっ、ん……。  両手使うしぃ……にゃもにゅむんにょ」ぐにぐに 【やつこ】 「もういいよ。諦めたにょー。そうやってずっと私の  頬っぺたむにむにしてるがいいにょー」 【男】 「(かわいい)」 【やつこ】 「……。そんなに、私のほっぺ……好きなの?」 【男】 「触り心地良いしな」 【やつこ】 「触り心地がいいから? へへ。それって、すべすべ  してるってことかな?」 【男】 「いや。もにゅもにゅしてるから」 【やつこ】 「もにゅもにゅしてるから……? う……。褒められ  てる気がしないよ。っ、と、というかっ、もうやめっ!  みんな見てるからっ!」 【男】 「人目のつかないところでならしてもいいのか?」 【やつこ】 「え? あ、そう、だね。  みんなが見てないところならしてもい……いわけない  よ! もーっ! 離してよぉー!」 【男】 「やわらけー」 ―廊下・放課後― 作戦:No.03 「お出迎え」 がやがや 【男】 「(もうそろそろあいつのクラスもHR終わるなー」 がらがら 【男】 「おっ。きたきた」 【やつこ】 「じゃねー、みっちゃん! また明日ー!」 【みっちゃん】 「あでゅー」 目が合う 【やつこ】 「あ」 【男】 「よ」 ててて 【やつこ】 「やっ。奇遇だねぇ、こんなところで。誰かと待ち合  わせ? あっ、それとも私のクラスの誰かに用事か  な?」 【男】 「いやいや。お前を待ってたんだろ」 【やつこ】 「へ? 私を待ってたの?  あー、えと。何かご用事?」 【男】 「いや……。今から帰るんだろ?」 【やつこ】 「うん。そだよー。今から帰るところ。今日も色々と食  べて回りたいところがあるんだあ、ふふっ♪  あっ、私に用事なんだっけ? なに?」 【男】 「帰るんだろ? だから、お前が来るの待ってた」 【やつこ】 「私が来るのを待ってたの? うん? うんー?  んー……。一緒に帰ろう、ってことかな?」 【男】 「まぁそうなるか」 【やつこ】 「あ。なぁんだそうだったんだ。もー、それならいつも  みたいに教室で待っててくれればよかったのに。わざ  わざ教室まで来なくても、私が行くよ?」 【男】 「あー。まぁ、そうなんだが」 【やつこ】 「ふふ、変なの。  ……それじゃあ、帰ろっか?」 【男】 「ん」 ―通学路・夕方― 作戦:No.04 「頬のアイスを取って食う」 【やつこ】 「むむむ……」じー 【男】 「いつまで悩んでんだよ」 【やつこ】 「昨日はこっち食べたから……、今日は……うーん。  決められないよぉ」 【男】 「お前今朝と言ってたこと違うくね?」 【やつこ】 「お、お昼ごはんとこれとはワケが違うよ。  お昼のメニューなんて、毎日候補は五つくらいだよ?  だから、事前に決めておくことは簡単なのです」 【やつこ】 「でも見てよ! このアイス!  種類だよ、種類! 決められないよぉー」 【男】 「(この地区ソフトクリームの競争率厳しいからって、  種類ってどうなんだ。味はイマイチだし)」 【やつこ】 「んんん……。どうしよ、どうしよ。  ……どうしよっ!?」 【男】 「いくつか絞れたのか?」 【やつこ】 「う、うん。二つまでには絞れたんだけどね。  抹茶きなこにするか、抹茶豆乳にするか……、うーん」 【男】 「抹茶がマイブームなのか」 【やつこ】 「そっちは? 何にするか決まった?」 【男】 「あー。じゃあ俺はこの“すっぽんマムシMIX”を」 【やつこ】 「えっ? すっぽんまむ……なに?」 【男】 「いや。やっぱりいい」 【やつこ】 「え? あ、うん。まだ決めてないんだ」 【やつこ】 「うんー……、抹茶……抹茶きな、んー、とうにゅ……」 【男】 「俺が抹茶きなこ買おうか?」 【やつこ】 「えっ? 抹茶きなこ買うの? そっか、じゃあ私は  抹茶豆乳にするよ。すいませーん! 抹茶きなこと  抹茶豆乳を一つずつくださーい!」 … …… … 【男】 「座って食べなくてもいいのか?」 【やつこ】 「うん? んー、今日は座って食べてる余裕がないんだ。  お父さんが早く帰ってくるから、晩御飯も早くて。  さっさと帰らないと」 【男】 「じゃあ寄り道するなって話じゃねーか?」 【やつこ】 「す、少しくらい寄り道したっていいでしょ?  帰る向きと同じところにお店があるのが悪いんだよ」 【男】 「屁理屈か」 【やつこ】 「それよりもっ。どう? 抹茶きなこ。美味しい?」 【男】 「普通」 【やつこ】 「普通ー? それじゃ感想にならないよ。グルメリポー  ターとして失格だよ?」 【男】 「お前のはどうだ? 抹茶豆乳」 【やつこ】 「え、これ? 抹茶豆乳? へへ……。なんというか、  相変わらずという味だね。あのお店の味がよく出てるよ。  あっ、今の上手くなかった? 味と味を掛けたんだよ?」 【男】 「漢字同じじゃねーか」 【やつこ】 「えー、駄目かな? ん……ぺろ、ぺろぺろ」 【男】 「こっちのも食べるか?」 【やつこ】 「うん? 分けてくれるの? 抹茶きなこ? わーっ!  ありがと! へへ。じゃあ私のも分けてあげるね」 【男】 「お、おう」 がさがさ 【やつこ】 「ふふっ。じゃあいただきまーす。あー(開口)……」 【やつこ】 「……(逡巡)、さきっぽ、ぱくって行っちゃってもいい?」 【男】 「いいぞー」 【やつこ】 「――! ありがと! あーむっ」 【やつこ】 「んむんむんむ……。んー、こっちのほうが美味しい  かも。きなこだっけ? やっぱり豆乳ってそんなに  美味しくないね」 【男】 「じゃあなんで豆乳を候補に入れたんだよ……」 【やつこ】 「ん。豆乳を候補に入れた理由は……。最近お母さんが  豆乳にハマッてて……」 【やつこ】 「健康にいいからあんたも飲み慣れておきなさいって  言われてるの。だから、こうやって少しでも慣れてお  こうと思って」 【男】 「意外とまともな理由」 【やつこ】 「ん、はむ、んむ、ぺろぺろ。んー、やっぱこっちのほ  うが美味しいよー」 【男】 「動くな」 【やつこ】 「はいっ!? な、なになに? 動くな、って」 【男】 「そのままそのまま」ぴと 【やつこ】 「んむっ。また頬っぺた……。なーに?」 【男】 「アイス」 【やつこ】 「あっ。アイスがほっぺに付いてたんだ。へへ、ありが  とっ。あ、待ってて。いまハンカチ出すから」 【男】 「別にいいぞ」ぺろ 【やつこ】 「あ。食べちゃった……」 【男】 「まずかったか?」 【やつこ】 「……あ。んーん! 別にまずくないよ。  ……いやじゃなかった?」 【男】 「何がだ?」 【やつこ】 「ん、いやじゃなかったらいいの。あっ、ほらほら!  抹茶豆乳食べちゃって! 余り美味しくな……、  ん゛っんん゛っ(咳払い)。なんでもなーいよっ」 【やつこ】 「へへ、口が滑っちゃった」 【やつこ】 「ぺろぺろ、ぺろ……。ん、おいし」 ?

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