第二話
第二話
「休日でもアプローチ」
―幼宅・昼過ぎ―
作戦:No.05
「手料理を褒めちぎる」
コトッ
【やつこ】
「いやー、休日なのに悪いねー。ふふっ。はい、どぞー。
今回はチョコチップクッキーを作ってみました。
ささっ、食べてみて?」
【男】
「おー」
もぐもぐ
【やつこ】
「……」
【男】
「もぐもぐ」
【やつこ】
「……、えと。どうかな? 砂糖を控えめにしてみたん
だけど……」
【やつこ】
「甘すぎると沢山食べれないって言ってたでしょ?
どう、甘くない? ……甘すぎるってことはないと思
うんだけど」
【男】
「そうだな」
【やつこ】
「……。どうかな?」
【男】
「うまい」
【やつこ】
「――っ! 美味しい!? はぁぁー……、そっか。よ
かったよー。味見してないからどんな味になってる
のか不安だったんだよー」
【男】
「またか!?」
【やつこ】
「う、うん。また。へへ、ごめんごめん。作るのに夢中
になってると味見を忘れちゃって。でも大丈夫!
ちゃんとレシピ通りに作ってるよ!」
【男】
「そういう問題じゃなくてな…。いい加減、味見を覚え
ようっていうな?」
【やつこ】
「あ……、はい。今度からは、ちゃんと味見をするよう
にします……」
【やつこ】
「てことで、私も早速……。いただきまーす。あむ」サクッ
【やつこ】
「もぐもぐもぐもぐもぐ」
【やつこ】
「ん、なかなかのお味。一応、成功かな?」
【男】
「美味いぞ」
【やつこ】
「えっ? あ、美味しい? そっか。じゃあどんどん食
べてよ。たっくさんあるから」
【男】
「美味い」
【やつこ】
「あぇ、あ、うん。美味しいんだね。ありがとう……。
でも、何回も言われるとさすがに恥ずかしいというか
……」
【男】
「毎日食べたいくらいだ」
【やつこ】
「んまっ、毎日食べたいくらいっ!? ……そ、……そ
っか。……(もじもじ」
【やつこ】
「……で、でも、さすがに毎日作るほど時間はないし、
お金もないし、……そ、それにこれっ、確かに美味しい
けど、そんなに褒められるくらいの出来じゃないよ?」
【男】
「でも美味しい」
【やつこ】
「う、あ……。ま、真顔で、褒められると……。なんだ
か照れちゃうよー……」てれてれ
【男】
「今度何かお返しするな」
【やつこ】
「あっ、別にお返しとかいいよ! 美味しいって言葉だ
けで、私は満足だから。ね? ほら、どんどん食べて
食べて」
【男】
「ん」
【やつこ】
「……くすっ」にこにこ
【男】
「なんだ?」
【やつこ】
「うんー? んー、幸せだなーって思って」
【男】
「お、おう」
【やつこ】
「やっぱりお菓子って、誰かに食べてもらうのが一番い
いね。作り甲斐があるというか、なんというか。……
こういうのって、やっぱりいいなーって思うんだ」
【男】
「ほーん」
【やつこ】
「しかも、美味しいまで言ってもらえるなんて最高じゃ
ない? こんな幸せ、どこにもないよ」
【男】
「やっぱりお前ってさ」
【やつこ】
「えっ。……私が、なに?」
【男】
「……食い物の亡者だな」
【やつこ】
「食べ物の亡者……?
んぐっ、それってどういう意味ーっ!?」
【男】
「ご想像にお任せする」
【やつこ】
「ご想像にお任せするって、解んないよー! 解んない
けど……、解んないけどっ、馬鹿にされてるっていう
のはなんとなく解るよ!」
【男】
「まー、いーんじゃね。食い物の亡者で。こんな美味い
の作れるし」
【やつこ】
「っ、また……美味しい、って。
……そ、そんなこと言っても、騙されないんだから」
【男】
「でも、そう言ってもらえるのが幸せなんだろ?」
【やつこ】
「そう言ってもらえることが幸せでも! それでもっ、
悪意のこもってる言葉じゃ意味ないじゃんかー!」
【男】
「美味いのはホントだぞ」
【やつこ】
「ま、真顔で言っても……、駄目だもん。
そんなこという私の幼馴染には――っ!」
【男】
「ん?」
【やつこ】
「しっっぶーーいお茶を飲ませてやるんだから!
そこで末永くお座りしてろ! べーっだ!」
【男】
「あ、おい」
たたたた…
【男】
「……。クッキーも、茶菓子代わりになる……か?」
?