第1話
―自室・深夜―
妹001「すぅ……すぅ……」
妹002「ん……。駄目ね」
妹003「んっ、んーぅ……(もぞもぞ)、ふぅ。今日は兄さんと一緒に寝よー」
コンコン
妹004「兄さん、兄さん。コンコンコン。私です、兄さんの妹です。開けてくだしゃあ、コンコンコン」
兄 「なーにしとるんだ」
妹005「あ、兄さん。なーんだ、部屋にいなかったの。歯磨きしてたの?」
兄 「おう」
妹006「そう。ちゃんと磨けてるか見てあげるから、口見せて? ほら、屈んで」
兄 「やめーや」
妹007「あっ。んーもー、恥ずかしがることないのに」
兄 「そういうんじゃないやい」
妹008「まっ、兄さんの歯磨きテクは凄いから、私が見るまでもないっか」
兄 「どういうことだそれ」
がちゃ
ばたん
ぼふっ(ベッドに座る)
妹009「ふぅ。そろそろ寝ましょうか、兄さん?」
兄 「なに当然のように部屋に入ってるのお前」
妹010「え? くすっ、そんなこと訊くのって、野暮ってもんじゃなーい? 私が兄さんの部屋に自然に入ったことに、何の意味があるかーなんて解ってることじゃない」
兄 「解らん」
妹011「私も、そろそろ自分の口から言うのが面倒になってきたの。いちいち言わなくたって、もう兄さんは解ってくれてるでしょ?」
兄 「だから解らん」
妹012「……。いじわる」
兄 「なにが」
妹013「兄さんのいじわる。『口で言わないと解んなーい』みたいな子供じみたこと言うつもり? そんな趣味持ってるとしたら、ソンケーするわ。……悪趣味よ、もう」
兄 「ぐぬぬ」
妹014「はぁ……。一緒に寝させてください。……これで満足?」
兄 「そういうことを言ってるんじゃ」
妹015「はいはーい、お小言禁止。私は眠たいの。何か言いたいことがあるなら寝て言うか、もしくは明日にしてちょうだい」
兄 「あ、おい」
妹016「ほら、兄さんは壁際。奥のほうに詰めて入って。いつも言ってるでしょ?」
兄 「へいへい」
妹017「うん。そうそう。やっとベッドに入れるわー」
もぞもぞ
妹018「ん……。うん。電気消してどーぞ」
兄 「んー」
ピ
妹019「便利な世の中ねー。リモコン一つで消灯できるなんて。子供のころは、電気を消して布団に潜り込むまでが死闘だったわ」
兄 「何と闘ってたんだ」
妹020「そりゃ、目に見えぬ恐怖と闘ってたのよ。子供で、しかも女の子なのよ? 怖いに決まってる」
兄 「ふーん」
妹021「ふーん、って。……なんで興味なさ気かなぁ」
兄 「いや、割とどうでもよくて」
妹022「割とどうでもいい……。はーん、そんなこと言っちゃうんだー」
兄 「んだこら」
妹023「つんつん」
兄 「!?」
妹024「こしょこしょ、こしょこしょこしょー。私を怒らせたらどうなるのか思い知れー。こしょこしょこしょこしょー!!」
兄 「ぶわっ、おまっ、こ、やめっ、どっ、ふほっ」
妹025「脇腹くすぐってるだけだにょー。こしょこしょこしょー」
兄 「どっせい!」
妹026「ぅあ、両手制圧された」
兄 「よくもやってくれたな」
妹027「ぶるぶるぶる。私、悪くない妹だよ。食べないで、食べないで」
兄 「食べやしない」
妹028「食べないの? じゃあ……。きゃー、おーかーさーれーるー」
兄 「もう寝ようか」
妹029「(あ。飽きられた。まぁいっか。今日はこの辺で)」
妹030「うん、寝ようか。おやすみー」
兄 「……」
妹031「……」軽い深呼吸一つ。
呼吸音を挿みます。
正味3分~5分程度。
兄 「……妹……」
妹032「……んぅ? なに……にいさん……」
兄 「……すきだ……」
妹033「へう」
兄 「あい……して……る……」
妹034「あう、あわ、わ、わわーっ」
妹035「すきだ、あいしてる、とか……いきなりっ、どうかしてる。とつぜん、なに?」
兄 「……」
妹036「……? 兄さん?」
兄 「ぐうぐう」
妹037「え。うそ。もしかして寝てるの? ちょっと、ちょっとちょっと」頬っぺたぺしぺし
兄 「むにゃむにゃ」
妹038「もーっ、なに肝心なとこで寝ちゃってるのよっ。言いたいことがあるならはっきり、というか、中途半端なところで切らないでよっ。ワケ解んないっ」
兄 「ぐうぐう」
妹039「はぁ……寝ちゃってるわ」
どきどき
妹040「っ! もう……。ばか、バカ兄さん。ホントさいてー。低レベルにもほどがあるわ」
妹041「言うことが中途半端なのよ。あれじゃ何も伝わらない」
妹042「……」
妹043「寝れないじゃないのよ、ばかぁ」
妹044「……」どきどき
妹045「すぅ……すぅ……すぅ……、すぅ……」どきどき
兄 「にやり」
―ダイニング・早朝―
兄 「もぐもぐ」
妹046「あの、兄さん」
兄 「んおー?」
妹047「昨日の晩のこと、覚えてますか」
兄 「口調変だぞ」
妹048「口調のことを指摘しないっ。論点からずれてる」
兄 「覚えてるって言われても……」
妹049「……覚えてるかって、言われても?」
兄 「お前にくすぐられたことくらいしか」
妹050「私にくすぐられたことしか覚えてない……。その後のことは?」
兄 「後のことって?」
妹051「もうっ、兄さん? すべて言わないと解らないの? 子供じゃないんだから、もっと頭を働かせてちょうだい」
兄 「と、言われてもな」
妹052「はぁ……、全く。兄さん、昨日私に何か言いかけてたでしょ? 言ってる途中で寝ちゃうんだもの、続きが気になって仕方ない」
兄 「言いかけてたって?」
妹053「だから、言いかけた言葉っていうのが……その……」
妹054「(~~っ! 兄さんが私のことを好きだーって言ってましたなんて言えるわけないじゃない!)」
兄 「ん?」
妹055「あーっ、もう! 兄さん!? わざとやってるの!? いい加減にしないと怒るわよ!」
兄 「もう怒ってる!」
妹056「んもう……。ほら、さっさと言って。続きの言葉。あれは何を言いかけたの?」
兄 「お前が何を言っているのかさっぱりら」
妹057「……フフフ。兄さん? 白を切るのもそこまでにしなさい」
兄 「そ、そんなんじゃないやい!」
妹058「はぁ……、もういいわ。白々しさが拭えないけど、記憶を失った人間の記憶力を非難するほど、私も冷酷じゃないわ」
兄 「(あれ? 全然騙せてないんじゃね? バレてるくね?)」
妹059「ごちそうさま。食器は流し台に持って行っておくから、食器洗いお願いね。私はそろそろ出るわ」
兄 「おう」
妹060「あと兄さん。ここ、ここ」
兄 「ん?」
妹061「ねーぐーせ。講義中に知らない人から指差されても知らないわよ?」
兄 「おう、さんきゅ」
妹062「じゃねー」
ばたん
妹063「ふぅ……。まぁ、本人が知らないっていうんだし、一応信用してみるしかないわね。ただの寝言かもしれないし」
妹064「……寝言だとしても、たちが悪すぎよ。全く……」