第7話
―自室・深夜―
がちゃ
妹464「あ。兄さん、おかーえりっ。ふふっ、今日も一緒に寝てもいい?」
兄 「あぁ、別に構わんぞ」
妹465「(あれ。断られるかと思ったけど……案外すんなりいけたわね)」
妹466「……」
兄 「どうした」
妹467「兄さん。そろそろ、妹と一緒に寝るのも恥ずかしくないの?」
兄 「お前から寝てくれと言ってきたんだろうが」
妹468「……くすっ。ごめんごめん、今のは兄さんの真似。いつも私がどういう気分でその言葉を聞かされてきたのか、少しでも解ればいいと思って」
兄 「なーんにもわからん」
妹469「それに、なんというか……断られるかと思ってたから。一緒に寝るの」
妹470「だからびっくりして、あんなこと訊いちゃった」
兄 「……お前は、もう子供じゃない」
妹471「え? ん、そりゃそうよ。もう子供じゃないわ」
兄 「一人でも寝れる」
妹472「あー、うん。一人でも寝れる」
兄 「それなのに、俺と一緒に寝たがる」
妹473「あぁ、そういうこと? 前にも説明したでしょ。兄さんと一緒に寝たいと思うのは、一人じゃ寝れないからじゃないの。……んー、上手く説明できないのよね」
妹474「人肌恋しい、とでも言いますか」
兄 「あほか」
妹475「あはは、ごめんなさーい。……そろそろベッド入ろ? もう寝るだけなんでしょ?」
兄 「あぁ」
妹476「ん。じゃあ、兄さんは壁際ね」
もぞもぞ
妹477「ん、ふぅ……(もぞもぞ」
妹478「あのね、兄さん。前にこういう会話したときに、私が何か言いかけたの、覚えてる?」
兄 「いや」
妹479「忘れてるか。じゃあ、今日は言ってあげる」
妹480「兄さんはね……、説教の仕方が下手」
兄 「突然なんだ」
妹481「“お前の歳ではもう一人で寝るもの?”。あぁいう説教の仕方じゃ、何も変わらない。世間一般的にはこうだーとか、普通はこうだーとか、そんな内容の説教」
兄 「それがなんだ」
妹482「兄さんの気持ちがどこにもない。兄さんの考えがどこにもない。周りがそう言っているから何なの? それは兄さんの気持ちを代弁しているんじゃないわ。
ただの、一つの考えでしかないの」
兄 「何が言いたい」
妹483「だから、私が言いたいのは……。周りの人の言葉じゃなくて、兄さんの言葉が聞きたいの」
妹484「兄さんは、私が一緒に寝ようとするのをやめさせたいのよね」
兄 「……あぁ」
妹485「なら、こう言えばいいじゃない」
妹486「“お前と一緒に寝るのは嫌だ”って」
兄 「……いや、それは……」
妹487「私も鬼じゃない。嫌なら嫌と、そう言ってくれれば、もう寝ようとか思わない。苦痛を感じているなら、そう言ってしまえばいいの。それで、万事解決」
兄 「そうかも、しれんが」
妹488「言えない? 嘘でも言ってしまえばそっちのものよ。嘘も方便と言うでしょう? 時には必要なものなの」
兄 「……」
妹489「……だから言ったの。兄さんは説教の仕方が下手。あんな上辺だけの説教じゃ、子供の駄々と大差ないわ」
兄 「……」
妹490「……ごめんなさい。なんだか、説教じみた話になっちゃったわね。……兄さんは悪くないのよ。兄さんを悩ませてる、私が悪いの。
でも、一緒に寝たいと思うものは仕方ないでしょ? そして、兄さんも私と寝るの、嫌じゃないんでしょ?」
兄 「あー」
妹491「だから、もういいの。この話はこれでおしまい。お互い、どんなに話し合っても、結論は変わらないわ。だからもうやめにしましょう。この会話は、無意味なのよ」
兄 「……」
妹492「……。おやすみなさい、兄さん」
兄 「あぁ、おやすみ」
妹493「……すぅ……、すぅ……すぅ……すぅ……」
兄 「今日は、このまま寝るか……」