第6話
―リビング・朝―
妹432「あ。おはよう、兄さん。今日はやけに遅いんじゃないの? もうニュースも終わっちゃった」
兄 「ん……あぁ」
妹433「ふふっ。もー、なーに? 歯切れの悪い。夢身でも悪かった? ……ん、なにそれ」
兄 「ん、どれだ?」
妹434「これよこれ。取ってあげようか。ポケットの中から覗いてるこれ」ずるるる
妹435「――あ。兄さんのパンツ」
兄 「返しなさい!」
妹436「あ。奪われた」
兄 「なーなな。なんでもないのだ」
妹437「そこにパンツがあるってことは……。兄さん、今ノーパン?」
兄 「ちげーやい!」
妹438「違うの? ……論より証拠。ほら、見せてみ」
兄 「いや、穿いてるって俺言ってるよね?」
妹439「ここは法廷じゃないんだから黙秘は否決します。もし、兄さんに言えない何かがあるのなら、兄さんには疑惑しか残らないわ。パンツを見せなさい」
兄 「こらやめなさい」ぺし
妹440「あいたっ。んー、仕方ないわね」
妹441「それにしても、どうしてパンツを持ってるの?」
兄 「それは……」
妹442「あ。もしかして……」
兄 「おねしょじゃねーよ!」
妹443「まだ何も言ってないでしょ。というか“おねしょ”ってなに? そんな幼稚な発想をする兄さん、ちょっと嫌」
兄 「こいつ……!」
妹444「……」
妹445「(きっと、昨日のアレよね……。そういえば、パンツの中身までは気にかけられなかったわ。ちょっと兄さんに悪いことしたかしら)」
妹446「まぁいいわ。さっさとご飯にしましょ。あーと」
兄 「ん?」
妹447「ねーぐーせー。いつの間にこんなの作ってきたのよ。スーパーサイy……ん、みたいな感じよ。鏡見た?」
兄 「見た」
妹448「見た、って……。見たのになんでこのままなのよ……」
兄 「お前がやってくれるだろうし」
妹449「甘えるな。私がなんでもかんでもやってくれると思わないで。自分で直せるものは自分で直しなさい。奥さんができてもそれを貫くつもり?」
兄 「お前は家族だし」
妹450「私が家族だからは理由にならない。全く……、意味不明な言い訳ね。奥さんだって家族よ。私も奥さんもおんなじ“かーぞーく”。
奥さんにするようなことを、私にしてくれないと」
兄 「いや、お前を将来の嫁と同列に扱うとか無理だろ」
妹451「……。そ、そりゃ、兄さんの将来の奥さんと私を同列に扱えとは言わないけど……。なによ、もう……。そんなこと言わなくてもいいじゃない」
兄 「なーに拗ねてんだ」
妹452「拗ねてない。拗ねてないから」
兄 「ふーん」
妹453「なによ……こっち見んな。ほらっ! 冷めるから、早くご飯食べて」
兄 「ふーい」
妹454「……」
兄 「もぐもぐ」
妹455「兄さん……さ。私に隠し事してない?」
兄 「隠し事? もぐもぐ」
妹456「そう、隠し事……。私に、言わなきゃいけないような、隠し事……あるんでしょ? ……(もじもじ」
兄 「なにもじもじしとるんだ」
妹457「っ、してないっ。足をもじもじなんてしてない。……人の足を見ないで」
妹458「そ、それで? どうなの? あるんでしょ、隠し事」
兄 「いや、特にないな」
妹459「とっ、特にないって、兄さんっ? 今言わないでいつ言うのっ。せっかく、こうやって……私が聞いてあげるって言ってるのに」
兄 「あー、そうっすか」
妹460「……そうやって、とぼけるのね……、っ……もう。兄さんの馬鹿」
机を叩きながら席を立つ
妹461「……これだけは言っておく」
妹462「もう、あんなことはしないで。きっと、兄さんが後悔する」
兄 「ん?」
妹463「行ってきます」
ばたん
兄 「……」
兄 「寝癖直してよ」