文学少女の日記
誰にでも自分のお気に入りの居場所があると私は思う。
心が休まり、気を落ち着け、素の自分が出せる場所。
人によってはそれが自分の部屋かもしれない。家族と過ごす時間かもしれない。
私にとってのそれは、幼い頃から通っている図書館だ。
大好きな文学作品が揃っていて利用者も少なく、司書は利用者に関心が無いのかカウンター
の奥に引っ込んでいて滅多に見回りをしない。
だから、静かにゆっくりと本を読むことができる。
そこがかけがえのない私の居場所。
その図書館と本さえあれば、私はそれでよかった。
でもここ最近、本以外に惹かれるものができた。
図書館で会えるあの人に、私の心は惹かれている。
彼もまた私と同じく本が好きなのか、あの図書館でよく一人静かに読書をたしなんでいる。
私はいつからか彼のことを伺うようになっていた。
本を探しながら……本を読みながら……美しい文章を黙読しつつ、その瞳にそっと彼を写し
ていた。
これを恋と呼ぶのか、愛と呼ぶのか。
今まで本にしか興味が無かった私には、この感情をはっきりと言葉にすることはできない。
ただ、分かっていることがある。彼にも私のことを意識して欲しい。
私のことを見て欲しい。想って欲しい。
だから私は、彼とすれ違う時にそっと目を合わせていた。
さりげなく近くに座ったこともあった。
偶然を装い指先を触れあわせたこともある。
小さな積み重ねは植物に水を与えるようなもの。
つぼみがやがて花開くように、彼が私のことを意識し始めているのが分かる。
最近では彼と目が合う頻度が増えた。たまに会釈をかわすことだってある。
カタツムリが這うように、ゆっくりと確実に彼との距離が縮まっているのを感じる。
このむず痒い距離感は嫌いじゃない。
だけど私は、小さな駆け引きをずっと楽しんでいられるほど大人でもない。
衝動が私の中で渦巻いている。
彼の心の奥にある秘めやかな部分を覗きたいという衝動が。
普通に接していたら決して見られない、性の懊悩。
彼の奥に潜むそれを私は知りたい。
彼も私も、結局は一人の人間。その奥には情欲の炎がきっと燃え盛っている。
明日の天気は雨。時間が経つにつれ激しくなっていく豪雨らしい。
そんな日の図書館はいつも以上に人が少ないと私は知っている。
そんな日に彼は図書館に来てくれるだろうか。
もし来てくれていたなら……彼にずっとしてみたかったことをしてみよう。
私は大人ではないけど、子供でもない。
理性に隠された性の衝動は、私の中にもある。
ずっと彼に触れたいと思っていた。彼の本能を弄びたいと思っていた。
彼はいったいどんな姿を晒してくれるのだろう。今からとても楽しみだ。