Track 1
■01
抜き足、差し足、忍び足……よしよし、まだ気付かれてはいないな?
せっかくなのだから、目一杯驚かせてやるのが嫁としての心意気というものだろう。
うむ……では、行くか。
やぁニーニ、今日は友人と遊びに行くと言っておいたな。
あれは嘘だ。
いや、嘘ではなかったんだが、友人に急用ができてしまってドタキャンとなって……ん?
何をしているんだ?
なっ、そんなに怒鳴らなくとも……ん?
なんでパンツを脱いでる……何?
なんで出ていかなければならないんだ?
ニーニの着替えを見たくらいでいちいち驚いたりは……うわあっ。
わかったわかった。
物を投げるな!
まったく、怒らせようと思って驚かせたわけではないのに……嫁のお茶目な……はいはいっ。
ではしばらく出ているから、良くなったら呼んでくれ。
ふぅ~、やれやれ……それで、一体何をそんなに怒っているのだ?
……ん、私か?
だから友人との約束がなくなったので、いつも通りニーニの部屋でくつろがせてもらおうと思って。
メールを入れたら、驚かせられないではないか。
ふふっ、そうかそうか。
心臓が飛び出るほど驚いてくれたのなら何よりだ。
だって、こんな驚かせ方は年老いてからはできないだろう?
若い二人の特権というものだ。
たとえ将来が約束されているとは言っても、時にはこうしたサプライズがなければ夫婦として……おや、何を言う。
六つの誕生日に交わした約束を……。
なんだ。
ニーニは人との約束を破るような卑劣な男に育ったのか?
……そうか、ならば嫁として、私がしっかりと矯正してやらねばなるまい。
安心しろ。
私は見捨てたりはしないぞ?
ん?
……ふむ、イトコだな。
法律的にも婚姻を結ぶことのできる間柄だ。
そしてすでに、互いに婚姻が可能な年齢でもある。
本来ならば今すぐにでも夫婦になるべきなのだが……うむ。
まだお互い学生だからな。
学業が本分であるし、親のすねをかじる身だ。
ニーニがしっかりと会社勤めをして、私もしばらくは社会に出て更に勉強し、その上で正式な結婚を……なんだ。
もしかして、私のことが嫌いになったのか?
今はもう愛してくれていないのか?
イトコだからなどという言い訳にもならないことを楯にして、私からの愛情を拒むというのであれば。
……ふふ♪
そうか、拒まないのなら何よりだ。
愛しているよニーニ。
もし嫌われたとしても、私は永遠にニーニを愛する。
生涯、ニーニ以外の男性と関わりを持つことはない。
もしニーニが他の女性を愛してしまったというのなら、私は尼寺にでも行こう。
愛するニーニが幸せでいてくれるなら、それが私の幸せだ……もちろん共にあれることが一番だが。
それで?
先ほどは何を怒っていたんだい?
驚いたくらいでキレるだなんて、いつものニーニらしくない……ん?
どうしてそんなに赤面を?
着替えを見られたくらいで……。
ん~?
そういえば、着替えと言うにはおかしな格好だったな。
それに何か見ていたような……何だ?
ボソボソと言ってるだけではわからないぞ?
はぁ、見て見ぬ振り?
何故だ。
恥ずかしいこと?
ニーニの恥ずかしい所は、他にもたくさん知っているじゃないか。
七歳までお漏らしをしていたとか……ではなく大人として恥ずかしいこと?
まさかお漏らしを?
違うのか。
では何故パンツを脱いで……ふむ。
セーテキなこと?
あぁ性か。
つまりエッチなことだな。
なるほど、それは恥ずかしいものだな……うむ、恥ずかしい。
って、ニーニぃ?
私というものがありながら、エッチな本でも見ていたのか?
まったく、嫁としても恥ずかしいぞ?
ふむ……それにしても、やはり男性はエッチな本を見るものなのだな。
そして……。
あっ。
そ、そうか……ニーニ、もしかしてマスターベーションをしていたの……あぁ、わかったわかった。
確かにそれは、見て見ぬ振りをするべきだった。
だって、仕方ないだろう?
マスターベーションのことは知識でしか持っていないのだ。
男性は必ずするものと聞き及んではいても、実際にそれを……いや、しっかりは見ていないぞ?
はぁ、終わってなかった?