Track 1
■01
あら、もうこんな時間なのね……ほら、いつまでも見てばっかりいないで、手を動かさないと描き上がらないわよ?
確かに、対象をよく見ることは重要だけど……ん?
あら、何?
えぇ?
何よ、もうできてたの?
いつの間に……って、それならなんで黙ってたの。
先生だって暇じゃないのよ?
どうしてもモデルになってくれって言うから、何日もこうして……。
ふぅ~……黙って座ってるの、結構大変なのよ?
キミが望むような澄まし顔で居続けるのもね。
まぁ、先生は昔から人物画モデルに抜擢されることが多かったから、慣れてるけど♪
えぇそうよ。
だってこの美貌でしょ?
男子からはいっつもモデルを頼まれたし、女子からだって結構頼まれたわ……え?
ヌードモデルをしたこと?
あら、大胆な質問ねぇ、ふふっ。
そうね、この体付きだもの。
肉体美にももちろん自信あるわよ?
バストの大きさと形、ウェストのくびれ、ヒップの丸み……どれをとっても、普通のヌードモデルよりいい形してるわ。
そんな私がヌードモデルをした経験は……なんて、それは秘密♪
ふふっ、馬鹿ね。
女性にそんなことを訊くものじゃないわよ?
ましてや、生徒のくせに先生にそんな質問するなんて。
い・け・な・い・子・ねぇ……ふふっ。
あぁ、はいはい、わかってるわ。
キミは私目当てでこの美術部に入ってくれたのよね。
一年生の時から何度も聞かされたわ……不純な動機よねぇ。
そうね、女としては嬉しいかな。
でも、美術教師として、美術部顧問としては、そんな不純な動機を聞いて、喜ぶわけにはいかないわね。
だいたい、せっかくモデルをしてあげたのにぃ。
ふ~む……このデッサンはいかがなものかしらね。
時間がかかった割には、以前にも言った部分が成長してないんじゃない?
えぇ、塗りでカバーする?
前にも同じこと聞いた気が。
うーん。
キミは、センスはあるからもっと真面目にやれば、結構いいセン行けると思うんだけど……あぁ、そうね。
私に見とれてばっかりで、手がお留守になってるのが良くないのよね。
それじゃ、人物画は私以外のモデルでやってもらいましょうか……イヤじゃないの!
もう、キミにばっかり付き合わされてたら、他の部員の面倒が見られなくなっちゃうでしょう?
もしくは人物画はやめて……はいはい。
とにかく、今日はもうお終い。
もうとっくに下校時間も過ぎてるんだからね?
先生にはまだまだ仕事あるの……そうよ、教師は大変なんだから。
あぁ、帰る時は職員玄関からね?
昇降口はもう閉まってると思うから……はい、それじゃまた明日。
えぇ、わかってるわ。
明日も続きをしてあげる……だから、頑張って描き上げてね。
さ~てと……今日もあの子のモデルね。
今日も熱い視線を送られちゃうのかしら。
ふふっ、まったくもう。
わかりやすくて困っちゃうわ。
けど、生徒に人気があるのはいいことよね?
ま、別にあの子に限った話でもないし……この美貌とスタイルだもの。
男子に人気が出るのは当然だわ。
けど、年下じゃねぇ♪
とは言えこの学校じゃ、私の好みに合う人はいないし。
……っと。
別に、男性を探しに職場に来てるわけじゃないのよ。
美術教師としての仕事をしなくちゃね。
えっと、あの子のモデルをして……ううん。
山田さんの油彩を見てあげないと。
それと田中君の水彩も……佐藤さんの……あら?
あの子、掃除中かしら……ふーん、この辺りが担当なのね。
ん?
あら……ふふっ♪
あぁもう、ま~た私の話してる。
やぁねぇ♪
ふーん……結構赤裸々な話もするのね。
周りに女子はいないのかしら……いても話してるなら、ずいぶんな度胸ね。
あれくらいの年頃の子たちって、あんまり開けっぴろげな話は……。
えぇ?
うわぁ、本当に凄いことまで話しちゃってる……ムカッ!
そ、そうよね。
どうせ私は、美人だけどビッチ臭がするって……フンだ。
そんなの、昔から言われ慣れて……え?
ふ、ふーん……あの子、ちゃんと庇ってくれるんだ。
へぇ……えぇ!?
そ、そこまで!?
何よ、もう。
嬉しいこと言ってくれるじゃないの……でも、あんまり大声で言われるのはねぇ、あ、あはは……。