後日談-1 ある日の勇者様
後日談-1【ある日の勇者様】
カルダマグナ歴、某年某月某日(ぼうねんぼうげつぼうじつ)。
魔大陸(またいりく)は今日も晴れ――。
人大陸(ひとたいりく)から最短で、魔皇帝様(まこうていさま)のいるダーヴァを目指すと、西方の最強魔道士、魔王レイダ様のお城へと、たどり着くようです。
迂回路(うかいろ)となる東方ルートには、相変わらず討伐隊(とうばつたい)はやってきません。
十二魔王のお一人であるプエル様は、さんざん暇をもてあまされた挙(あ)げ句、頑丈なデュラハンの頭を転がしては、スケルトン隊を骨ごとバラバラに砕く「ボウリング遊び」に、興(きょう)じられています。
あれから勇者様は、どうなってしまわれたのか…。
ある日プエル様のお城に呼び出された私は、一匹のベビーゴブリンの世話役を申しつけられたのです。
プエル様いわく、ゴブリンによく似た人魔(じんま)であるということですが…。
聞けばその小さな人魔(じんま)こそが、かつて私と過酷な旅をともにし、たった一人で魔王プエル様に挑んだ、勇者様その人であると…。
もちろん私には信じられません。
初めは困惑しましたが、やがてその甘えん坊な振る舞いと、どこかしら人なつっこさの残る、つぶらな瞳をみているうちに…あの勇者様で間違いないと、思い始めたのです。
なによりも『あちら』のほうがとてもお好きで、かぐわしい香りも甘美(かんび)な味も、そしてあのトロけるような舌触りも、まったく同じものでしたから。
つづく