エピローグ
「彼とした事はいっぱいある……だが、彼は最後まで私のお願いを無視する事はなかった。キスをされ、あそこを舐められ、お口でするのに抵抗が無くなり、お尻でする時に甘い声を上げて乱れるようになっても……彼は私の処女を奪うことはしなかった」
「そんな彼との付き合いはそんなに長く続かなかった。彼の実家には家業があり、彼自身も当然の様にそこを継ぐ事になっていた……あの秘密基地はそんな決まったレールを生きるのに嫌になった彼が作った秘密基地だと知ったのは学校を卒業する頃だった」
「それでも彼は最終的に家業を継ぐ事を決意した。対して私は親に言われるまま、進学する事になっていた。進学する私と家業を継ぐ彼。しかも私の進学先は他県で、彼と会える時間も無くなり……自然と疎遠となった」
「学校を卒業したときに地元に戻ればまた出会うこともあったのだろうが現実にはそれも無かった……学生である最後の年、実家に呼び出された私は父の部下とお見合いをする事となった」
「今では多少珍しいかもしれないが、当時は誰それの部下や上司の身内とお見合い結婚なんて当然だった……そこに多少なり、会社内でのパワーバランスや様々な思惑もあったのだろうとは思うが、夫となる人はそれでも私を精一杯に愛してくれようとした」
「学生の間は休講日にデートをする。良い雰囲気になったとしてもキスまでしかしない清い交際……父の目もあったのだろうけど、夫は紳士的だったし、そうであろうと心がけていたようだ……多少の下心があったとしても、そういう風に接されて悪い気分なんてする訳もない。卒業を控えたある日、私達が卒業と同時に結婚する旨を父に告げると、両親は満足そうに笑ってくれた」
「卒業すると同時に夫の家へ嫁ぎ、それからは少しずつ家事を覚えたり、夫婦の時間を設けて学生時代とは違う慌ただしい毎日が過ぎていった……もちろん、夫婦の時間には夜の時間という意味も含めてだ」
「彼……私の色んな初めてを奪った彼と別れてからは男性と付き合う事もなく、もちろん処女のままだった私は夫にとっては生娘その物だったようで性行為もこちらを気遣う優しい物で『初めて』まではかなりの時間をかけてくれた……学生時代からずっとキスだけで我慢していた夫には悪い事をしたと思う反面……夫はフェラチオ、アナルセックスまでしていたなんて気づかなかったし、今でも知らない事なんだろう……もちろん、言う必要も無いことだ」
「彼とは……結局、連絡を取ることもなく、十数年が過ぎた。ただ、数年前の同窓会で会った彼は当時とは別人の様に穏やかになっていた……なんとはなしに話をしていると彼もしばらくして所帯を持ち、バブル崩壊の荒波に巻き込まれながらも何とか家業を守り……そんなお互いの半生を話していて最後に……今はタバコ、やめたよ……君に言われたからじゃないけどね、と小さく呟いた」
「彼に対して好きだと思った事も、愛してると思った事もない。もしも私の子供が同じ目にあえば私は取り乱すし、相当に怒るだろう……だが、それはあくまでも自分の子供がである……当時を思い出すと少しだけ……うずく物がある」
「……もし、もしも……彼が家業を継がず……私と共に生きようとしたらどうなってたのだろうか……いや、家業を継いだとしてもそこに私を求めていたら……? 少しだけ考えてしまうことがある……そして、もしそうであれば……彼はきっとあの時の様に……いや、あの時よりも激しく私の事を……」
「……思っても仕方無い事。多少の違いはあれど、探せばどこにでもある、そんな話……だから私は今日も昔を少しだけ思いだして……女をうずかせながらも……夫と子供達にたっぷりの愛情を込めた笑顔を向けている」
「……ほんのちょっと昔、まだ私が女の子と胸を張って言えた……そんな時代のお話」
;3秒程度間