闇の中、聞こえる声
彼女の部屋に入り、ベッドに腰掛けるあなた。
彼女は部屋の中央に立ったまま、あなたへと微笑みかける。
暗い表情を浮かべながら、彼女は弱々しい声を出す。
「ごめんね、わたしのために……一日も」
「約束してたって言っても、ちょっと嫌だったよね」
「好きだって言ってた子、この前見たよ」
「あ、この子なんだ。……あなたが好きそうな子だなあって、思っちゃった」
「……付き合う前から好きだったって言ってたよね」
彼女は両手を合わせ、無理をして明るい口調で言う。
「最初からそう言ってくれたらよかったのにー。応援してあげたよ?」
「そんなに仲良くはなかったけど、わたしもあの子と友達だから」
「二人きりで……は難しいかもだけど、一緒に話すぐらいならきっと出来た」
「あなたはあの子と付き合って、わたしは二人の仲を見守るの」
「今になって思っちゃうんだあ。あー、そういうのもよかったのかなあって」
「んーっ? あ、ごめんごめん。こんな話がしたかったんじゃないよね」
つんと人差し指を立てた彼女が、天井を指差して微笑む。
「あなたは今日一日、わたしの言いなりになりますっ!」
「って、知ってるかあ。知ってるから今日来たんだもんね」
すーっと息を吸った彼女は、両手を後ろに組んで真剣な表情であなたを見つめる。
「難しいことは言わないし、痛いこともしない」
「それだけは約束するから……今日一日、よろしくね」
彼女は両手で両の頬を軽く叩き、笑顔で言う。
「……よしっ。じゃあカーテンを閉めますっ」
彼女がカーテンを閉め、部屋は電灯の明かりだけになる。
「これだけじゃないよ」
彼女は呟き、あなたの下半身を指差す。
「……脱いでね」
恥ずかしそうに言った彼女は戸惑うあなたを見て、今度は少し強く言う。
「お願い。約束したよ。……脱いで」
彼女に促されたあなたは約束を守り、上着は着たまま下半身はパンツだけになる。
「うん、よく出来ました。じゃあ今度は……電気、消すね」
彼女は部屋の入り口にあるスイッチに手を伸ばし、明かりを消す。
「……ふふ。真っ暗だね」
視界が無くなりそわそわと視線を彷徨わせるあなたを見て、彼女が耳元で囁く。
「――絶対に、動いちゃだめだよ」
「何が起きても、何があっても……わたしがいいって言うまで、動いちゃだめ」
彼女はすうっと後ずさり、あなたへ冷たい目を向ける。
「わたしのこと……もう好きじゃないんだよね」
「わたしよりもっと好きな人がいるから、わたしと別れるんだもんね」
「分かってる。分かってるの。でも、理解するのと納得するのは違うかな、って」
「だから今日は、あなたを……わたしのものにさせてね」
「……っん。よし、それじゃあ目を瞑ってね。絶対に開けちゃだめだよ」
「目、閉じたかな。閉じたよね? うん。閉じた……よね。わたしは信じてるよ」
「じゃあ――目を開けないで、動かないで、わたしの話を聞いてね」
「すうーっ…………はあっ」
彼女が大きく息を吸い、溜め込んだ息を一気に吐く。
「ねえ、あなたは今……自分がどんな状況なのか分かってる?」
彼女はあなたを見下ろしながら、少しきつい口調で言う。
「大好きだ、って言ってた彼女に別れ話をして……その彼女の家に居るんだよ?」
「嫌いになったから。わたしが嫌われるようなことをしたから」
「そんなことじゃなくって、最初から別に好きな人が居たからって理由で」
「わたしね……本当に、本当の本当にあなたが好きだった。ううん、今も好き」
「好きだから、今日一日だけであなたを許してあげるの」
彼女の声が少しずつ小さくなり、呟くような声になる。
「……もし嫌いだったら、こんなことしなかったよ」
彼女は自分の声が小さくなっていることに気付き、わざとらしく明るく振る舞う。
「――約束を破ったらどうなるか、言ってなかったよね」
「緊張しないでいいよ? 酷いことなんて絶対にしない。傷付くのはきっとわたし」
「……まあ、そんなこといいんだって。それより――分かってる?」
彼女が再びあなたの元へと歩み寄り、囁く。
「今のあなたは、彼女の部屋でパンツ姿になってるの」
「小さいおちんちんが、パンツだけで隠れてる」
「動いちゃだめ、って言ったの覚えてる? 覚えてるよね」
「もちろん、おちんちんも動かしちゃだめだよ。約束だから……ねっ?」
「目を開けたらだめ。動いちゃだめ。だから当然、触ってもだめ」
「何も難しくないよね。きっと小さな子でも出来るよ」
「……出来なかったら、あなたは子供以下」
「ううん、子供に失礼かな。もし約束を守れなかったら――あなたは犬未満ね」
「やだなあ……わたし、そうなったらどうしよう」
「ずっと犬未満の彼氏と付き合ってました、なんて誰にも言えないよ」
「恥ずかしいし……誰にも見られたく――――あ、目は開けちゃだめだよ」
「ごめんね。開けてないのは分かってる。もしかしたら開けちゃうんじゃないかって思ったの」
「信用してないわけじゃないよ。信用してる」
「だってあなたは人間だから。……人間だよね。……犬未満じゃないよね?」
「そうだよね。犬未満だったらもう我慢なんて出来ないよね」
「雌が居たら押し倒して交尾しちゃってるよね。動物だったら……ね」
「おちんちんを勃起させちゃって、犬のおまんこにずぶずぶーって、挿(い)れちゃってるよね」
「それが動物だもんね。でもあなたは違う。……あなたは人間」
「すぐ近くに女の子が居て、真っ暗な部屋に下着姿で居ても何もしない」
「ううん、何も出来ない。だって理性があるから。約束、したから」
「下着姿でも、彼女の前でも、二人っきりでも」
「興奮しても――動いちゃだめ」
彼女はあなたの耳に触れそうな距離にまで口を近付けて言う。
「できるよね?」
あなたをじっと見つめ、彼女はまた少しあなたから離れる。
「……わたしの部屋に二人でいるとさ、いろいろ思い出しちゃうね」
「初めて家に呼んだ日。初めてキスをした日。そして――初めてエッチした日」
「あの時は緊張してたなあ。……だってそんなことするつもりじゃなかったもん」
「下着だっていつもと同じ。あ、最初から勝負下着なんて持ってなかった。えへへ」
「勝負下着を買ったのはあの後。あなたが好きそうな下着を選んでたっけ……」
「高い下着を買ったこともあったよ。……あなたはそんなに気に入ってなかったけど」
「……あの時は痛かったなあ。初めてだったから……血も出ちゃったね」
「でも痛いだけじゃなかったよ。あなたがわたしを抱きしめて――大好き、って言ってくれたから」
彼女はそっと顔を近付け、あなたに囁く。
「あの時の言葉は本気だって……信じてもいいよね」
「……じゃないと、わたしも結構辛いかな」
「おちんちんを初めて見た日に、そのまま挿(い)れられちゃったから」
「あの時はゴムもしてなかったよ。それなのにあなたは中で出してさ……」
「わたしが痛くて、でも……気持ちよくて。なんだかよくわからなくなってて」
「わからないまま……わたしの中で射精されちゃってた」
「……気持ちよかったし、嬉しかったよ。お腹の中が熱くて、ぽかぽかしてた」
「でもあの時、もし赤ちゃんが出来てたらどうしたのかな?」
「あなたは逃げた? それとも……一緒に育てるって言ってくれた?」
「……ただのたとえ話だから答えは出ないけど、育ててくれたら嬉しいかな」
「だって赤ちゃんが出来てたら、それはあなたのせいだから」
「あなたがわたしの膣の中におちんちんを挿(い)れて、中に精液を出したから」
「…………あれ? わたしの気のせいかな。おちんちんが大きくなってる?」
「おっかしいなあ。何もしてないのに。おちんちん……どうしたの?」
「今ちょっと動いた? 動いちゃだめって言ったのに。……気のせいかな。気のせいだよね」
「動かないって約束したもんね。だからわたしは信じるね。気のせいだ、って」
「わたしがおちんちんって言ったり……、おまんこって言ったり……」
「それだけでおちんちんが動くわけないよね」
再び彼女があなたの耳元へと口を近付けてゆっくりと囁く。
「おちんちん……勃起なんてしてないよね?」
「目を開けたらだめ。触ったらだめ。動いちゃだめ。……約束したもんね」
「わたしがエッチなことを言うだけで……おちんちんが大きくなるなんてあり得ないよね」
「…………あっ、動いた」
「どうしてなのかな……。約束、忘れちゃったのかな」
「動いちゃだめ、って言ったのに。どうしておちんちんがぴくぴくしてるのかなあ?」
「約束……守れなかったね」
彼女が立ち上がり、あなたから離れる。
「……でも、仕方ないか。だってあなたはエッチだもんね」
「よくわたしのおっぱい触ってたし……だめって言ってもパンツの上からクリトリス触るし……」
「きっと我慢したくても出来ないんだよね。いつまでも……ずーっと」
「ちょっと甘いけど、許してあげる。動かなかったってことにしてあげる」
「……おちんちん、しこしこしたい? オナニーして、気持ちよくなりたい?」
「そうだなあー……おちんちん辛そうだし、それもいいのかなあ」
「でも……やっぱだめ。その代わり、わたしがしてあげる」